第2話 剣士の矜持と聖女の叫び


 

 まだ、外は暗い。

 あと小一時間ほどたてば朝焼けの綺麗な景色が平野の向こう、遠くの山間から見えてくることだろう。

 しかし今はまだ暗闇、明かりをつけているとはいえまだまだ数mミーター先を見るのがやっとだ。

 それでも、異様に漂う圧迫感だけは少し先の方から“ひしひし”と伝わってくる。


 ここから先は人の手がかかっていない、言わば異世界のようなもの。街道も無ければ道しるべの看板だって立っちゃいない。

 頃合いを見て御者を止め、怪物モンスターへ対処のしやすい開けた場所にいるように言い待機させる。

 馬車での移動はここまでだ。ここからは歩いていく。

 賢明な判断としては朝が来るまで安全なところで待つというのがあるが、それはお嬢が許してはくれないだろう。あの人はどこまでも呆れた人だから。

 別に楽観的な人間だったり、そこまで頭の周らない人間でもない。ただ単純な話一刻でも早く消息の絶った者たちを救出したいのだ。十分な視界が取れない中、怪物がいるかもしれない無法地帯を突き抜けることがどれだけ危険か、どれだけ恐ろしいことか、分かった上で自分と……多分俺の安全を捨てて助けに行くんだ。

 無駄かもしれない。もうすでに全員死んでるかもしれない。

 けれども僅かしかないはずの、人命の灯が消えていない、というバカげた希望的観測に従って暗闇の平野を歩くと言っているのだ。呆れるしかない。


 まぁそれでも、お嬢は全部そんなこと知ってて、感じてて、気付いてて。それでもほら、今みたいに―――


「ディー、気を抜かずしっかりと進んでいきましょう!」


―――なんて気合ばっちりで、なんなら笑顔なんて浮かべちゃって…まったく。


 グラディオは苦笑いとも呆れ笑いとも言える息を漏らしながら、数十mミーター先の怪物をのであった。


。。。


「なんとか、敵と遭遇せずに入れましたね」

 

 遺跡へと足を踏み入れることができた二人。与えられた助太刀を幸運と捉えた聖女はずいぶん嬉し気に笑った。

 剣士の隠す技量がすごいのか、それとも聖女が戦闘においての勘が少々残念なのか。どちらとも言い切れないが、剣士にとってはどうでもいい。

 グラディオにとって今の移動の最中、なんなら馬車での移動の最中でもやっていたことは誇ることですらない。当たり前というわけだ。

 功績を鼻にかけない謙虚なやつともとれるが…なんともひねくれた性格だ。

 

「…お嬢、浮かれすぎちゃいないか?」


 まるではしゃぐ寸前の子供のように暗闇の遺跡を歩く主人を見て、剣士は疑問に思った。

 それを聞いた子ども聖女は―――


「いえいえ、人命が絡んでいる以上、楽しんでなどいられません。けれど、どんなに急いだって卑屈な考えを頭の中でしたっていいことはありませんから」

「……でも、そんな中でも、私はディーが傍にいる、それだけで嬉しくなってしまう単純な人間なんです」

「今の私はディーと一緒に横並びで歩けて嬉しいのですよ」


 なんという、右ストレート。この女、軽々しくも男にそんな言葉を吐きおって…惚れてやる。

 言葉の意味を真に理解し受け止めた、難儀な性格を持った剣士は顔を伏せ、その羞恥に火照った顔を隠してしまう。

 剣士グラディオ、この世に生を受けてからの大半は生きていくことしか頭にはなかった。その過程で剣を学び何とか学を得た。

 しかし、ひねくれたともキザったらしいとも称せるその性格には、女の文字はすっからかん。

 に耳障りの良いことを言われては、屈強な剣士もただのちんけな男の子になってしまう。


「…あの、お、お嬢。 そいうのは、ちょっと俺、む、無理なんで…」


 その様子を見た聖女は楽しそうに笑う。

 そしてさらにそれを見たグラディオも、恥ずかしさはもうどこ吹く風、主人の心からの笑顔に安堵した。

 

―――そこに、


『ブゥウゥゥグゥゥゥゥゥゥ!!!!!」


 奇怪な生物…怪物モンスターの群れが現れた。

 奴らの目に生者としての尊厳のかけらも感じやしない。そこにあるのは卑しさ、または醜悪さ。

 人の外形とは大きく離れた、化け物に相応しい装いでこちらをニタニタと見つめてくる。


「……すみません、お嬢、集中を切らしていました」

「敵の接近に気が付きませんでした」


「大丈夫よディー私も悪かったわ、少しからかってしまったもの」

「それに大物を倒す前に肩慣らしも必要よ、ちょうどいいとさえ感じているわ」


「…お嬢、俺の邪魔しないでくださいよ…?」


「あら、ディーも言うじゃない」

「これでも卒業しているのよ? 私、負けませんから」


「はいはい、首席ですね」


「…なんだか含んだような言い回しね」

「もう、一人で寝られなくなっても一緒に寝てあげませんから」


「ちょ、そ、れは…困ります……」


 聖女に痛いところを突かれた剣士は、急に威勢をなくして声がしぼんでいく。

 

「まだまだディーも子どもね―――って! ディー!」


―――かのように見えていたグラディオであったが、主人には口論で敵わない見て、豪快に先陣を切って敵を早々に斬り倒し始めていた。

 

「もう…そういう抜け駆け私少しずるいと思っちゃうわ……」

「はぁ―――でも、お仕事はしっかりしなくちゃっ!」

「『双玉そうげつ翡翠ひすいよ』―『停止ていししたふるえのなかで』―『たしかに』―『おのれせんへととがれ』」

「『双氷雪棍ジェミノイクトッ!』」


―――第四詩律テセラス

 【双氷雪棍ジェミノイクト】 


 この世に何千何万の種類が存在する【スキル】、それは後天的にも先天的にも人に発生する言わば人の

 聖女という【スキル】はもちろん先天的なもの、それではとは―――後天的に知識を蓄え努力することで得られる、のことである。

 生まれた時に何のスキルを持っていない者でも、それなりの努力さえすればこの【魔法スキル】を手に入れられ、自分の意のままに操ることが出来るだろう。

 【スキル】は様々な種類が存在しその効果も千差万別だが、魔法スキルとスキルの違いを極端に簡単に説明すればというのを介して、攻撃を手段から現象へと昇華させる段階を踏まねばならないのが【魔法スキル】、感覚と体力だけで具現化させるのが【スキル】。

 一応、魔法スキルは【スキル】という広すぎる意義の中の一角ではあるのだが、なにぶんこの怪物が蔓延はびこる物騒な世界では攻撃の手段というのは重宝され、意識的な【スキル】と【魔法】の差別化がされることはしばしばあるのだ。

 

 そして、

 魔法には詠唱という『スキルを表現化する存在にお願いをし、魔力という餌を与える』段階が存在するが、その多さや詩によって発現する魔法は大きく異なる。

 詩律とは強大さや範囲強度を表し、よってこの詩律が多ければ多い程詠唱はより困難を極め、詠唱者の負担は跳ね上がる。

 

 そして、聖女が放った【双氷雪棍ジェミニクト】は第四詩律テセラス四つの詩からなり、顕現した氷の多節棍が十分な速さと確かな質量を併せ持って敵を薙ぎ払う。

 返り血が嫌いな聖女が好んで使う技だ。


「…お嬢、大丈夫ですか」


 グラディオの容赦ない敵への剣戟、聖女の魔法による超常現象の攻撃。この二つによって怪物たちの群れは速攻で退場させられた。

 そして近接戦闘が主であるグラディオは聖女の前に戻ってきて言った。

 魔法の行使には体力とは別の独自の概念、を消費する。体力との違いはそれほどないが、使い過ぎれば疲れるし、無理をすればぶっ倒れる。理論的には魔法の行使後にも走ったり運動したりは別の概念だから出来るはずだが、疲れるということは同じなので、魔力消費後に筋肉を使って動くということができる人物はそう多くはない。

 しかし―――


「心配ありがとう、ディー」

「でも私は大丈夫よ、先に進みましょう」


 そこは聖女、ただ者ではなかった。

 魔法学院を首席で卒業し、聖女というスキルを持つ彼女は、並みの魔法使いではなし得ないことを容易く行う。

 第四詩律テセラス、中堅以上の冒険者や腕前の良い魔法使いが最後の切り札として持っておく云わばとっておきの魔法である。

 彼女は歩き出す、前に向かって。


 その額には、一滴の汗すらなかった。


 その後も順調にと降り進んだ聖女と剣士。

 道中現れた敵は完璧なまで平等に剣士グラディオによって真っ二つにされた。

 

 一階二階三階…降り進むごとに現れる敵は強く巨大な怪物になっていったが、グラディオにはその違いを十分に理解することは出来ず。彼なりの優しさに従って、聖女に苦労は掛けさせまいと、高速で武器を振り発生させた風の太刀で相手を両断した。

 これも【スキル】、斬撃を数十mミーター先まで飛ばすことのできるというものだ。

 グラディオが聖女に気付かれずに相手を殺す時によく使う便利な技なのである。


 そうして、敵を知らず知らずのうちに倒し続けなんの手掛かりをもつかめないまま―――地下八階。


 七階からの階段を降りればすぐに伝わったこの不穏な空気。

 そしてすぐに理解する八階の異様さに。


 その景色は地下だというのにあまりにも開放的で広々とした空間であった。

 まるで一種の【世界】のように底の見えない巨大な空中空間はそこだけをくり抜いたように土も壁も存在しなかった。

 ただ階段だけが、空中空間にポツンとだけ建っているに続いているのみだ。

 劇場―――そう劇場。そうとしか形容のできない目の前の建物は年代を感じさせはするものの、決して廃れてはおらず、この独特な風景と相まって神秘的ともいえる。

 十中八九ここが最奥。こここそに遺跡の宝、冒険者たちが求めてやまない物が大量にあるのだろう。つまりはここに何かがある可能性が高いというということ。


「ディー、行きましょう」


 グラディオは声を出さず、目配せだけで相槌を打った。歴戦の猛者である彼にとってここの雰囲気はどうにも耐え難いがあった。

 その何かに気圧されてしまった彼には声を出すことは出来ない。緊張と臆病の狭間に彼の意識はある。

 

 手すりも何もない、ただ階段のみの足場は妙に安定していて逆にそれがこちらの不安をあおる。下は見えない。ここから落ちればまず間違いなく死ねる。

 怖い足場にようやく足がすくんできた聖女は恐怖心から下を見てしまう。吸い込まれそうなほどの闇と黒がこちらを招いてくれる。

 ところが、聖女の目線はもう少し先へと移ることになった。下への恐怖も程ほどに、彼女の興味の対象があるものへと引きずられたのだ。

 それは、この暗い暗い十分な明かりのない空虚な空間で自分たちの後ろ、つまりは自分たちが降りてきた方向へと向いたのだ。

 微かではあるが、目の良い聖女にはその形状が良く見て取れた。一見すれば何の変哲もないこの空間の壁であるが、その実、それは塔の内壁のようにも見えた。

 そう考えると、この空間自体のモチーフが地下の塔と思えてきてしまう。巨大な円形上の塔が丸々地中深くに埋まってしまったような。

 先の時代からかなりの数存在し、いまだにその半数も攻略できていない遺跡たち。誰が作ったのかどのように作ったのかなぜ作ったのか。誰にもその真相は分からない。


 聖女は、内壁の疑問を心の中に収めて、頼もしい自分の剣士へと目線を上げた。

 彼は勇敢にもその歩調一切狂わすことなくただ平然とこの長い階段を下っている。

 聖女は彼だけを見つめ、この暗い世界ではなく、彼の色の抜けた白髪を、真っ白な白をただ微笑ましく見つめたのだった。


「―――お嬢、馬鹿みたいに前だけ見てると転びますよ」


 前を歩いているはずのグラディオは嘲るようにこちらを向いて言った。

 

「な、バカだなんて失礼なっ!」

「ディー? お付きの人がいないからって調子に乗ってはないかしら」


 聖女は、こちらを向いていないはずのグラディオがなぜ自分の見ている場所が分かったのか、大層びっくりしたが慌てて反撃する。

 当然、馬鹿と言われたことに憤慨はない。


「それを言われちゃこちらも降参」

「へいへい聖女様すみません」


 おどけた口調で返すグラディオ、しかし―――


―――やべぇぇぇ! なんでずっと俺を見てんだよ! ドキドキ止まらなくて落ちそうだったわ馬鹿野郎!こちとら視線を感じる訓練なんてずっとやってんだよ!こんな至近距離でそんな熱い視線………あぁぁぁぁ!!!


 グラディオはグラディオで結構慌てていた。


「もう、またそんなこと言って…」

「―――でも、もうおしゃべりもここまでのようね、着いたわ、ディー」


 目的地へとようやくたどり着いた二人。しかしその想いは見事なまでに重なっているにもかかわらず今日も今日とて咬み合わせが悪いようだ。


 劇場の扉を開け、外装とはうって変わった内装の豪華さに心を奪われる。豪華絢爛ごうかけんらんとはまさにこのことで、自然と「キレイ…」という言葉が口からこぼれ出てしまうほどである。

 しかし、その煌びやかな内装もこの閑散かんさんとした雰囲気によってどこか薄暗い寂しさや、非現実感めいた恐怖心が芽生える。

 

「ここの装飾どれも素晴らしいものです。でもなぜ冒険者の方々はこれらを持ってかえることはなかったのでしょう? ここは危険な場所だとこの地域ではかなり前から言われていた場所です。このエントランスの装飾一つ持ち帰るだけでもかなりの価値があると思うのですが……なぜ誰も帰ってこないのでしょう……?」


 なるほど、確かにそうだ。

 ここが危険だと分かっているのなら高価なものを数個とってまだ安全地帯であるここからすぐに立ち去ればいい話だ。

 何かがおかしい。

 

―――奇しくも、その回答は自ずとやってきた。


 <シュンッ


 微かな音が聞こえたと思うと、グラディオはすぐに辺りを見回した。

 安全第一、敵からの攻撃だとするならすぐに対処しなければ。

 しかし探そうとも見渡そうとも、答えは見つからない。でも何かが違う、それだけは間違いない。けれどいったいこの違和感はなんだ。


 不自然な自然にグラディオが頭を悩ませていると、聖女は間違い探しをクリアしたように手を打って喜ぶ。


「ディー!出口が無いんです! 出口、というか入り口も!」


 先ほどの物音がいったい何を起こしたのか、それはこちらの退路を断つ行為。 

 気にもしていなかった微かな記憶を探ってみれば、確かに扉のあった場所は今やただの壁となっている。

 退路は断たれたが、元より引く気はない。覚悟を決め先へ進むことを決断し劇場内の大ホールへのドアを開ける。

 眼前に広がるは―――吹き抜けの、舞台。

 壁がない、四方八方、床以外の全てが無い。

 劇場はただのはりぼてだったのだ。グラディオたちは戻ってきたのだ、このに。周りを見渡せばやはり暗闇。どこまで落ちるかもわからない永遠の闇。


 開いた大ホールの扉の先には収束するように一本の通り道があり、その先には舞台。その舞台には【音楽家】がいた。彼は【音楽家】だ。

 しかし、音楽家ではない。なぜなら彼は人間の頭をクルミのように叩き潰しその脳漿をすすった。なぜなら彼は人間の部品を改造し楽器を作っていた。なぜなら彼は骨と皮と内臓をこねくり回し作ったであろうピアノを弾いていた。

 ピアノというには残念を通り越して不快でしかない音響で、彼がルンルンと弾き比べていくどの楽器もそれはもう楽器ではなく拷問によって生じた“音”だ。

 ここに生者はいない。あるのは死体を無残に再利用された悲しい亡骸ばかり。


 いつしか後ろの扉も消えていた。

 先ほど下ってきた階段ははるか後方に途中で途切れたように空中に浮かんでいる。

 後ろはもうない。あるのは下ちる闇。2人はもう舞台にもう乗ってしまったのだ。


「―――やぁ、お二人さん」

「どのような夜をお過ごしかね?」

「いやいや、年頃の男女二人、そう野暮なことは聞かないよ」

「でも、そんな二人がこんな時間に私のコンサートに来てくれて本当に嬉しい」

「さぁさぁ、そんな隅にいないでこちらにきたまえ―――つい最近良い楽器が入ったんだ、聞かしてやろう」


 彼は落ち着きのなさそうな態度で、歩きながら語った。

 その歩幅は歩くたびに長くなっていく、彼の聞くに堪えない話が続くほどに彼は人でなくなっていく。

 そもそも、人に近かったのは体とその体躯程度であったが、もうその仕切りもない。彼は化け物だ。怪物だ。

 彼の安っぽそうなコンサートコートは悲鳴をあげミシミシと彼の成長に耐えようとする。急激な体躯の変化は目が追い付くごとに振りきっていく。

 気付けば彼の身長は優に7mミーターを超えた。

 

 その奴が何か箱の中から持ち出してきた楽器は―――


「これこれ、バイオリンというのだろう」


―――であった。


「ディー!!」


「わかってる!!!」


 それを見た二人は音速のごとく行動した。

 分からないことと不思議なことで頭が一杯一杯だった二人だが、生きた者を見てすぐに打算的な考えは捨てた。

 生きる者を救うための行動か、それとも棒に背筋を伸ばした状態で括りつけた生きた人を左手に持ち、右手に弓に見立てた鉄剣を持つ怪物を見て、それが何を意味するのかを理解したからか。

 どちらが先とは言わない。しかし彼らは剣を引き抜き、杖を立てた。


「ッ!!!!」


 フェイントを絡めつつも最高速で敵に近寄り、敵の汚い手を切り飛ばすため下段からの斬り上げ。剣士の鍛え上げられた肉体から放たれた、殺意の籠った一撃は可視することが難しいほどの速度で、また大気さえも問答無用で切り裂くような暴力で相手を急襲する。

 しかし―――<カァンッ!!


 コートを突き破り飛び出してきた奴の三本目の腕がグラディオの一撃をで弾いた。

 

「なっ!?」

「―――ぐはっ!!!」


 完璧な不意打ち、それは弾かれた体制でもう一度敵に剣を突き立てようとしていた、諦めの悪いグラディオを襲った。初撃が弾かれた体制から攻撃の態勢へと移る寸分、奴の四本目の腕が羽虫を叩くようにグラディオを舞台の端までぶっ飛ばした。

 その間にも奴は、グラディオの攻撃など意に介したそぶりも見せず


「喜べ、これが初めての試奏だ」

「今回の出来栄えはいかに―――」


 完全に力をなくし棒に吊るされている力だけで辛うじて棒にへばりついている人間が、最後に消息が途絶えた冒険者の団体の一員ならば、あの人がここにいた期間はおよそ一週間。このおぞましい地獄に一週間以上もいたのだ。あまりの恐怖に苛まれていたのかその人の目元は遠い距離でもわかるほど赤く腫れ、血の涙を流したようにくっきりと涙の跡が見えた。脱力しきり意識さえ無くしているその人を奴は左肩であろう場所に添え、嬉々として―――弓を引いた。

 

 響き渡る絶叫、それは音ではない、これはもう音ではなく別の鼓膜を撫でる不快な

 恐怖から気絶という形で逃げていた冒険者の意識は、巨大で醜悪な化け物の巨腕でいとも容易く現実に引きずり降ろされ、枯らしたはずの涙の代わりと言わんばかりに体内から澱んだ血液があふれ出した。


「お嬢! 助けろ!!」


 そう言われた聖女は、一瞬のうちに悩んだ。

 なんせ今までの光景は時間にしてみれば五秒にも満たない。彼女は剣士が走り出した時から自身の攻撃手段を構築し始め、もう撃てる状態であった。

 しかし眼前で広がった惨劇を目が脳に伝えた瞬間、彼女は迷った撃つべきか、助けるべきか。

 これほどまでに短い時間での思考。体が追い付くはずもない。


 だからこその剣士の一喝。

 聖女はその言葉を脳で考えることなく体で反応して見せた。


「『廻順せよ』―『不死鳥の如く』っ!」

「【生命の回帰コール】!!!」


 即決即断の回復魔法。攻撃の手段がほとんどを占める魔法スキルの中にある比較的詠唱難易度の高い言わば補助魔法だ。

 

 生命の温かさを感じる光はを包み、傷を癒す。

―――が、奴はそんなことお構いなしに弓を


「あぁぁぁぁぁぁぁあぁぁっぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」


 変わらず響く絶叫。

 楽しそうに笑う化け物。

 聖女は堪らずすぐに回復に再び手を回す。


 治しては裂け、直しては裂け、治しては裂け、直しては裂け。


「素晴らしい!! さいっこうの響きだ!!!」


 耳をふさぎたくなるような不快音に心躍らせる芸術家。


「―――何笑ってんだよ」


 完全な死角からのグラディオの一撃。彼は吹き飛ばされた後すぐに体制を立て直し、この地獄を終わらすべく全力で拳に力を込めて剣を振るう。

 弾かれる―――がそんなこと当にわかっている。五本目の腕が出てくる―――予測済みだ。

 彼は剣を振り続ける、一太刀一太刀が奴を殺すべく生まれた渾身の一撃。しかし奴には届かない。

 奴は全く気にせずこめかみまで裂けた口を大いに吊り上げて狂気の笑みを顔いっぱいに広げている。

 何度かに一度腕を斬り落とすもすぐに生えてきてまた邪魔をする。楽器になったこの人をどうしても助けられない。

 だがその間にも、楽器には永遠の苦しみが降り注いでいる。

 腹を裂かれ、胸を割かれ、腿を下ろされ…その後には天使の息吹を感じ現世へと消えかけていた感覚が舞い戻る………いや舞い戻ってしまう。

 

「ッ!!」

「ぁ!!!」

「くそがぁぁぁぁぁ!」


 何度切り刻んでも何度叩き落そうと再生する邪魔な腕。

 回復に手いっぱいな聖女に手助けは求められない。かといってこちらに加担しようものなら、今にも消えそうなは完全に掻き消えてしまう。


「やめてぇぇぇぇぇ!!!!もういやぁぁぁぁぁだだだだだあだぁぁぁぁぁ!!!!! 俺をころしてくれぇぇぇぇぇ―――!! いたい!いたい!!! 死にたい!!! いやぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 悲痛な叫びは本来助けに来た側の戦意を喪失させた。しかし、グラディオは挫けず打開の策を毎秒毎回試行する。


「―――あぁ! 鬱陶しいなさっきから! 黙って私のバイオリンを聴けんのか!!」


 流石にこちらの攻撃を看過できなくなったのか奴はバイオリンを弾く手を止めこちらに意識を向けた。 

 ……しかし、しかしそれは間違いであった。そう考えるのは間違いだった。奴は攻撃を無視できなくなったのではない。ただ単純に奴の言った通り、自分の音楽を聴かないことに腹が立っただけなのである。

 全ては効いていない。やつに攻撃など…一度も出来ていない。

 

 なぜなら奴はこの―――無敗の化け物であるのだから。


 奴が繰り出したは…一瞬でグラディオを包んだ。

 目にも止まらぬ鋭い剣技を繰り広げてきたグラディオであったが、その彼を数百の拳が厳しく抱擁する。

 安っぽいコートなどすでにはち切れ、おぞましい体表から無数とも思えるほど腕が伸びてきてグラディオの持つ全面積を殴りつけたのだ。


「…ぁ…あ…っ……」


 どこが痛覚の警告なのか認識できない範囲で殴りつけられ、グラディオの意識は“ぽーん”と軽く飛ばされる。

 だが、何とか耐える。グラディオ。

 歯を食いしばり、地面を殴りつけ己を奮い立たせ意識だけは何とか踏みとどまらせた。

 自分が意識を飛ばせばその先に何が待っているのか考え、「それは嫌だ」という叛逆心で自分の心を立て直した。


 これほどまでにグラディオが追い詰められたのは久方ぶり。死の気配などとうの昔に忘れていた。

 お嬢が居れば、自分は誰にだって勝てるとさえ思っていた。

 剣を磨き、己を磨き、業を磨いた。

 彼には十分な努力と結果があった。


 “聖女”という国にとって貴重であり国の象徴ともいえる人物のである“剣士”がなぜグラディオのような家名もない男が担っているのか。

 それはただ単純に彼が強かったからである。決闘やその他の類のというものにおいて彼は無類の強さを誇った。

 そして、その強さによって勝ち得た先が聖女の剣士という職だった。本来聖女にはが付くものだ、しかし身分というものにおいて不自由なグラディオは騎士という名誉ある階級にはどうしても選ばれなかった。

 だからこそ剣士。聖女を傍で守る剣士。

 彼が求め、彼が掴んだ。彼の夢。

 

 今までの長き旅、剣士である彼に勝てる者はいなかった。彼は強かった。

 だが、彼もかわいそうな人間だ。驕りたかったのではなく、驕るしかなかったのだから。

 彼には敵がいなかったのだ。彼には敗北が無かったのだ。彼は知らず知らずのうちに上を見る努力を疎かにしていたのだ。

 かわいそうに、そのせいで―――大事なものまで死ぬのだから。



「ディー!!!」


 叫ぶ主人。 彼女にと戦う術はない。 グラディオが負けてしまった時点で終わりなのだ。

 身体能力においてどころか多大な残念さがある聖女は、奴の攻撃を見切ることすらできない。

 躱すことも、避けることも、いなすことも出来なければどう攻撃しようものか。詠唱をしている間におじゃんだ。

 バイオリンに飽きた奴は色々な液体でびしょびしょになった人間を無造作に投げ捨て、こちらを向いた。

 転がっていくバイオリンは最後の回復によっては治癒される。

 

「はぁ…はぁ…」

 

 グラディオへの心配もあるが何より、自分の身にも危険が迫っているのが聖女には簡単に感じられた。

 連続的な詠唱と魔法によって魔力は大量に消費し息切れも起こしている。

 自分の守護であり盾であり―――愛しの人の剣士は、ぼろ雑巾のように転がっている。

 自身がグラディオの避けられなかった攻撃を躱すことができるなど微塵も思っていない。

 

 まるで絵にかいたような絶体絶命。

 されど、聖女は心強く屈することない。

 すぐに悲観的な考えを捨てて立ち直る。


―――が、絶望はそう簡単な問題じゃなかった。


 今まで「のしのし」と鈍重な動きしか見せてこなかったはずの怪物は、その巨体に似合わず機敏な動きでこちらに突進してくる。

 聖女はその瞬間に悩んだ。 

 自分自身の身体能力であれを躱すのは不可能。ならば魔法だ。

 しかし、この差し迫った状況で使えるのは第一詩律エナ―第二詩律ディアの詩の少ない魔法だ。

 当然として詩の多い方が強力である魔法は、第一第二程度は俗に低級といわれる。その程度で奴の進撃を阻止できるのか? 当たり前の疑問は聡明な聖女の考えに当然として浮かんだ。

 だがそれ以外に選択肢はなし。この絶望に自分が叛逆するには魔法しかない。


 でも、まだ聖女は悩んだ。

 魔法を使うとして何を使えばいい? 

 剣士が言ったように、魔法の事となれば聖女は一人前を超えて熟練の領域、つまりは魔法のプロフェッショナルだ。その熟達者である聖女には積み上げてきた数々の魔法の知識がある。俗に低級と呼ばれれる魔法であっても例外なく、努力家な聖女はその修練を欠かさずいくつもの魔法を知っている。

 さぁ、困った。どれを使えばいい。

 あまりにも選択肢一つ一つに使える時間が少ない。 回る思考の片隅では、奴と自分の距離が10mミーターをきったことを警告している。

 決断は―――すぐだ。


「『廻順せよ』―『不死鳥の如く』!」

「【生命の回帰コール


―――、というより、これはだ。

 彼女はこの大事な場面で生命を放棄したのだ。

 怪物は厄介な客を相手にどうし返してやろうかと手を「ワキワキ」とさせながら猛スピードでこちらへと迫っている。

 可憐で華奢な聖女が辿る運命は、アコーディオン、はたまたバグパイプか。

 稀代の芸術家であり熱心な音楽家でもある怪物のコンサートの出演者名簿に載ることはまず間違いないだろう。

 奴の口元がまた顔の半分以上裂ける。 楽しいのだろう…殺戮が。 嬉しいのだろう…演奏が。

 

 ゲームオーバー。 ここで書き綴るのも終わりだ。 何とも味気ない結果だが。 

 


――――<キィィィィンッッッ!!!


 …まだ吐き捨てるには惜しいようだ。 

 剣はまだ…少しだけ輝いていたのだから。


「…お嬢、助かりました」

「いや、こっちも助けてるからお互い様か」


 現れたのはもちろん剣士だ。 尊大な鼻を折られ、どの面下げて帰ってきたんだと言われんばかりに盛大に負けた剣士だ。


「間一髪、助かりました、ディー」

 

 聖女の賭けは、救済の手として見事に当たった。

 彼女が唱えた魔法は確かに、惨敗したぺちゃんこの剣士に届いていたのだ。

 立ち上がれるようになったグラディオに躊躇などない、己の使命を全うするため躊躇わず先を行く怪物さえ追い抜かし主人と怪物の間に割って入った。

 そしてその勢いで怪物の迫りくる多腕を撥ね退ける。


「人質がいない今のうちに態勢を整えましょう」

「私が攻撃に徹します、ディーは防御を―――」


 態勢を立て直す? そんなもの。まだまだ絶望を知らないようだ。


―――1度は止められた攻撃が2度も3度も続くとは誰も言っていないではないか。


「あぁーーー!!! もうっ!! いい加減おとなしくしてはどうだね!!!」


 自分の思い通りにならないことに、齢三百をとうに超える化け物は児子のように癇癪を起こす。


「あぁ! いらん!! もう、もう‼ いらん!!」


 廃棄されることとなった楽器に慈悲などない。 人間の身長をはるかに超えた図体から残像が霞む速度で何度も何度も拳が飛んでくる。


「…っ!?」

「…!!!」


 弾けど弾けど拳は来る。 単調な腕の軌道は武の達人であるグラディオにとって見切ることなど容易だ。 しかし、分かっていても、知っていても、予測できても。 

 対処できるかはまた別の問題。

 一瞬で防御の姿勢は崩された。


 そうなってしまった剣士は振り回していた己がつるぎを盾として、後は根性だけで自身も盾となることしかできない。


「ディー!?」


 もはやグラディオに話す余裕はない。後ろに控える彼女に一発でも攻撃が無いように自分で守るしかない

 復活してもすぐにこの様。 しかしそれはグラディオのせいではない。奴が、奴が規格外すぎるのだ。

 

 聖女は唱え始めたばかりの攻撃魔法を速攻で取り消し、すぐに防御の魔法へと展開する。

 その間にも剣士はタコ殴り。 


「…これは!? もしや打楽器か!」

「いやぁー! 愉快愉快っ! 形は少々不出来だがなかなかにきれいな音を出すじゃないか!!」

「アーハッハッハッハ!!!」


 愉悦、愉快、愉楽。

 もう怪物に聖女への関心は無くなった。 自分の目の前の男が面白くて仕方が無くなった。


「『懺悔ざんげする』―『|てんつかさどる鳥』―『うみつかさどる生』―『つかさどる火』―『こうべを垂れる私に抱擁ほうようを』―『廉頗負荊れんぱふけい』」

「―――【聖域せいいき】」

 

 聖女の精魂込めた守護の魔法。それは素早くも正確に、そして今もなお弄ばれる剣士を助けるべく発動した。

 聖女と剣士の二人を包み込む、回復の光と似た、生命に喜びを感じさせる柔らかくも暖かな光。

 それは円状に広がりを見せ、あの暴走機関の具現化のような化け物でさえ押しのけた。

 突如として楽器を奪われた音楽家は怒髪天を衝きヒステリックに優しい壁を何度も何度も殴り続ける。その目にはグラディオしか映っていない。

 

 一旦危機が去ったと感じた剣士は、力なく倒れた。


「ディーッ!?」


 慌てて介抱する聖女。

 消費した魔力を絞り出し回復魔法を何度もかける。


「………お嬢、、すいません」

「なにも…できませんでした」


 もはやその目には生気はなく、心と体両方を見事に打ち砕かれた武人がいた。

 

「大丈夫よディ-、ここからまだ立て直せるわ」


 まだまだあきらめてなどいない聖女は心の折れた仲間を鼓舞する。

 しかし―――


「勝てる未来が…見えなかった」

「お嬢…俺こんなこと、はじめてっだった、んだ」

「あいつなんなんだよ…」


「喋る怪物モンスター…確かに初めてです…」


 これまで奴と遭遇してから一切の余裕がなかった二人がようやく口に出せた疑問。

 そうだ、二人は言葉を介す怪物など見たことも聞いたことも無い。

 完全なる新種。 いや、それは彼ら二人から見た感想。 実際にはその何百年も前から奴は言葉を理解し音楽を奏でてきた。


「それに楽器の種類…明らかに違いを認識できる知識がある」

「動きはまるで子供みたいなのにな…」


 内臓をやられたグラディオが口から血を吹き出しながら、それすらも躱せない自分の非力さを自嘲しながら言う。


「お嬢、どうしよう」

「俺、初めて心ってもんが折れたよ」

「武の道の途中、挫折してったやつは何人も見てきたけど、みんなこんな気持ちだったんだな…」


 彼の手から白黒の剣が力なく滑り落ちる。


「ごめん……俺は………勝てない」


 らしくもない発言を連発する剣士。

 その表情と声音にいつもの面影は残念ながら…ない。


「―――剣士グラディオっ!!」


 塔内を揺らす大音声。

 突然呼ばれたことに、グラディオは動揺を隠せない。

 聖女の一喝だ。彼女はまだまだ諦めていない。

 彼女の声は、さっきの冒険者の絶叫より鋭くグラディオの心を確かに揺さぶった。


「立ちなさい………立って!」

「あなたの傷は十分癒えました」

「戦えるはずです」


 容赦ない無慈悲な通告。


「私を、私を…守ることが、守ってくれることあなたの役目でしょう……!? あの日誓ってくれた言葉を私は死ぬその瞬間まで忘れません!」

「なので―――逃げることはこの私が許しません」


 キッパリと言い切った聖女。

 普段の柔和な声のイメージとはかけ離れた芯のある声色。


「お願い……ディー。私を――――


 それは、怪物の暴力に折られてしまった剣士の心を立て直すのに満ち足りる物だった。

 

「…はぁ~~~~~、とんだブラック連盟ギルドだ」

「だけど……上司がこんなに可愛いからいいや」


 いつもの二人の時だけに見せる、グラディオの調子が戻ってきた。

 

「…お嬢、どうする。言っとくがやっぱり俺は肉盾が限界だ」


 立て直した心だが、そこは武人であるグラディオ。互いの空き過ぎている力量差を気合で埋められるとは言わない。

 いっそ諦めたように言った。


「…私も、この状況を諦めたくはないですが、やはり気合や活力だけでどうにかなる場合ではないと思います」

「かといってこの状況を打破できる策は、と言われれば…」


 言葉尻を濁す聖女。やはり彼女自身も気付いている。絶望的状況は何一つ変わっていないことを。


「―――なら、俺に策が二つある」


 グラディオは指を二つ立てて言った。


「一つ目は、この舞台から飛び降りること」

「お嬢の飛行魔法を上手く使ってなんとかあそこに見える階段まで逃げるんだ」


 グラディオの視線の先にあるのは行き場を失った先のない階段。


「ディー、死ぬ気ですかっ!?」

「あなたは飛行魔法の不安定さを知っているでしょう!」


 飛行魔法…少なくとも聖女の知りえる飛行魔法は一人専用で術者である聖女単体なら制御も効くが、まだ息のある冒険者とグラディオを連れての制御というのはあまりにも無理がある。


「知っている…だから、行くのはお嬢だけだ」

「俺はここに残る、幸い奴は俺のことを―――」


「―――ダメッ!」


 グラディオの案を遮るは聖女の声。

 それは人としての良心ではなく、個人の思惑として、乙女の純情的なものが多大に作用した声だった


「それはダメ、みんなで帰るの」


 聖女は諭すように言った。 

 「あなたを大事にして」という聖女の優しさがあふれ出た言葉にグラディオは反論もできない。

 分かった、と納得する。


「二つ目は、を用いて奴を倒し、みんなでここから出る」


 それを聞いた聖女の表情は“ぱぁーっ”と明るくなる。

 そんな夢のような方法があるなんて素晴らしい、と喜んでいるのだ。


 期待する聖女をよそに、なんだか口ごもる剣士。

 聖女の顔が期待の顔から不思議そうな顔になる。「なぜ言わないんだろう?」と。


「…お嬢…お、お嬢の…、…を…、、、く、くださぃ」


 やっと話したかと思えば蚊の鳴くような小さな声。これでは全く聞こえない。


「ディー、なんて言ったの? ごめんなさい聞こえなくて…」


 つばを飲み込むグラディオ。


「…お嬢の…」


「私の…?」


「…、、、ください…」


「え? もう一度お願いっ」


「お嬢の…をください…」


「…へ?」


 この殺伐とした雰囲気には似合わない聖女の気の抜けたような声。

 

 剣士グラディオ。一度言ってしまえば、息を吸い込み、胸を殴り、目を見開いて、覚悟を決めた!!!!



「…お嬢! いや…聖女リール・ルルニア・ルルラレスッ!」

「健全で…誠実に…そして邪な気持ちなど一切なしにお願い申し上げます―――おしっこください」



「………え、えぇぇぇぇぇぇぇーー!?!?!?!?!!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」


 聖女の声がまたもや塔内を揺らすのだった。

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