第7話 7 オサナナジミらしい人、芽衣現る
「ふう、一先ず買いたいモノを買いに行くか。」
先日ナンパに捕まって買いに行けなかったモノを買いに行くことにする。
と言っても何も特別なモノではない。
財布を買いに行くのだ。
何故に財布?
みんなにプレゼントをするためにだ。
普段使いが多い財布は常日頃から贈り物として好まれる。
家族から財布をプレゼントされることが多いのはハンカチに次いで使う頻度の多い品物だからだ。
初任給の使い方。
自分のために使うもよし、彼女のために使うもよし、家族のために使うもよし。
貯蓄するのも良し。
初任給の使いかた人によって様々基本的には自分の為に使うってことが多い。
親のために使うとしても。親の方から断られるケースも結構ある結局のところ自分で稼いだ金だから自分のために使ってあげなよっていう親心があってのものだ。
それでも前世の親に、自分の感謝の気持ちを伝えるような親孝行してあげられなかった俺は、その思いが捨てきれなかった。
捨てきれなかった以上は、それなりのモノを買わないと。
買うのはオトンとオカンのだけだ。
「と、まあ近所の百貨店に来たのは良い物の。
どうしたものか。」
人生で使っていた有名どころのブランド品等は一切ない。
それどころか何が有名で、何が男性向きなのかすら分かってない状態だ。
もちろん、これに関しては大学生になってからおしゃれに目覚めるっていう人もいるし、その時になってブランド品などの判別をつけるため、勉強をする必要はもちろんあった。
その勉強を怠った上での行動を起こしているわけだから、わかるわけがない。
一人うんうんと唸っていると、それはそれでなぜか人を呼ぶ結末に至っている。
「客様こちらの商品についてお悩みでしょうか?」
どうやら一人でうんなっていたのを見られていたようで、店員さんが見かねて話しかけてくれたようだ。
というのも、店員さんの仕事の範疇ではあるのだが。それなりに熱心に見えていたのかと思うと、少し恥ずかしい。
「ええ、父に財布をプレゼントしようと思っておりまして、最近働き始めたばかりでどういうのが好みかも存じ上げませんし、男性向けの商品ってどことなくカードが多く入るのがいいかなとかしか思わなくて。」
「お父様にプレゼントですね。
普段はどのような形状の財布をお使いいただいているかご存知でしょうか。
それによって普段使いする上での形状が絞れて来ると思います。」
なるほど、この手の店員さんは予算を聞かない。
でも年齢や雰囲気から財布から出せるギリギリの予算を見出す。
「長財布を主に使っているなあ。」
「なら、こちらのお品物でしょうか。
普段使いしやすいように合皮ではありますが本革に劣らない加工を施しております。」
店員さんの話を聞きながら、財布を検討すること小一時間。
ようやく財布を購入するに至った。
「え?嘘。」
購入し終わった矢先に、身に覚えのない女性から声を掛けられた。
またナンパだろうか。
「あの、私のこと覚えてない。
三小のとき同じクラスで、五中のときは修学旅行の班が一緒だった芽衣だよ!」
なんっつうか、こんなに活発な子だと結構印象に残るはずなんだけどなあ。
印象に残らないってことは、当時は関りが無かった。
もしくは影が薄い子か。
「ごめん、思い出せない。
一応歳はいくつ。」
「20だよ。」
年齢を聞くと俺と同い年であることが判明する。
年も同じ、名前だけ聞けばありふれた名前だから知ってそう。
学年も一緒。
わからん。
「うん、まあ帰ってから卒業アルバムでも見て思い出すから。
じゃあね。」
「ちょっとちょっと、遠藤さんに連絡掛けても良いから信じてよ。」
護さんとこには俺と同学年の妹が1人いるけど、それと知り合いと。
でも、久々にあった人になれなれしく話しかけるかねえ。
俺はすることは無いと思うけど、この陽キャ、いや、彼氏ができないことによる必死さか?
だとしたら若いな。
彼氏彼女なぞ今どきマッチングアプリでいくらでも作れるだろうに。
それでも作らないということは馴れ初めとか出会い系サイトのイメージが強く、新たな出会いによる関係の構築が面倒だと思っている人種と見た。
君の必死さは伝わるよ、でも、まだそれはやめた方が良いかな。
「まあまあ、お互いに用事で来ているみたいだし、遠藤の方の電話番号は知っているんだろう。
都合の良い時に互いに合った方が良いよ。」
「そ、そうだよね。
わかった。
また連絡する。」
いやあ、笑い事じゃないけど20過ぎて大学デビューしようとしたけど空回りして誰にも相手にされずに苦しんでいるときに現れた男子の知り合い。
これを天啓と観ない異性はいないよねえ。
これから積極的なアプローチが増えてきそう。
知った間柄っていうタイプの人間はどう頑張っても、発展しないのが常だったりするのよ。
まあ、漢は紹介できないが頑張れや。
ちなみに俺の好みは眼鏡女子です。
普段眼鏡かけないけど偶にかけるタイプの眼鏡女子が結構来ます。
むっつりなのは変わらないのよねえ。
結局社会人のスキルで若者をあしらおうとしてしまった。
ここも治さないと、結局今世でも独身で終わりそう。
帰るころには少し哀愁がにじみ出始めていたせいか、他の女性に話しかけられることは無かった。
そう思っているのは彼だけであったことを他の女子たちはしらない。
彼らは獲物が一番弱ったところを狙っていた。
狩りの準備をしていたが、狩人たちが全員同じ獲物を狙っているとは思いもしなかったのだった。
互いが互いを牽制し合い、誰もナンパすることなく終わると言う結末になってしまっただけだった。
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次回
8 オサナナジミらしい人は罵倒系配信者だった
スライム道
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