陰キャだからモテないって安心してたのに、なんで私以外の女からモテてるのよ!?

トホコウ@マンガ原作

第1話 ざまあヒロインと天敵その1

「私、アイスココア飲みたい♡」


 授業が終わった放課後。

 新校舎3階の廊下にある自動販売機前で『奴』を見かけた私は、こっそり背後から近づいてそう囁いた。


「うわっ!?」 


 すると、案の定驚いてこちらを振り向く。

 黒髪短髪縁眼鏡という見た目。

 左右にブレまくりの視線。

 およそ魅力的な男子とは言い難い。


 まあそれも仕方ない。

 金髪(地毛は黒髪。ブリーチ2回)碧眼(カラコン)のナイスバディ(元全国JCミスコン3位)。

 日本一カワイイ女子高生の私から『奢って♡』なんて言われたら、どんなハイスペックな男子だってイチコロ。

 クソダサ陰キャのコイツなら、尚更だわ。


「え? 鎌瀬かませさん、アイスココア飲みたいの……?」


「うん♡」


「まあいいけど……」


 奴は気後れした様子でそう言うと、素直に交通系ICカードをペタリと貼り付け、アイスココアのボタンを押した。

 私の目は一切見ないでそれを手渡してくる。


 よしよし♡

 えらいぞ♡


 愛犬が骨を拾って来た時みたいな気持ちで、私は心の中で奴の頭をヨシヨシしてやった。


 こいつの名前は内木うちき真人まこと

 私の幼馴染にして、クラスメートのモブ系クソダサ陰キャ。

 過去現在未来全ての女子高生の中でも圧倒的にカースト順位が高いこの私とは、1兆回生まれ変わったって視線すら交わすことがないだろう。

 まして付き合うとかあり得ない。

 そんな男子だ。


 だけど、私だけはこいつの有能性を知っている。


 まずこいつは成績と素行が優秀。

 小学校から無遅刻無欠席だし、成績も学年で10位以内をキープしている。

 このままいけば将来は早慶辺りを卒業するだろう。

 この時点で、向こうから挨拶してきた時に一瞥をくれてやるくらいの価値には上がる。


 次に顔。

 長い前髪のせいで隠れてしまっているが、目がキリッとしており、日本人にしては鼻も高く口も小さい。そして色白。

 いわゆる韓国系のアイドル顔なのだ。

 ぶっちゃけ死ぬほど好み。

 特に目がいい。

 大きくて瞳の色が若干茶色。

 正直この目だけでも今すぐ付き合っ……いや、向こうから告白してくるなら愛人40000号くらいにはしてあげてもいいかなってレベルにはなる。


 極めつけは、金。

 こいつの家は一般家庭なのだが、父親の実家が総資産3000億円の大金持ちなのだ。

 もしこいつと結婚したら、いずれはその金が私のモノになる。

 かく言う私自身も父親が30億円規模の介護会社をやっており、将来は継ぐ予定だ。

 それと合わせればウハウハ。

 向かう所敵なしである。


 更にはこいつには夢もある。

 こいつは小さい頃からマンガが大好きで、将来の夢はマンガ家なのだ。

 しかも物凄く上手い。

 私が見る限り明らかにプロ並みだし、ネットに上げているマンガが一部の人たちに熱狂的に受け入れられているのを知ってる。

 そういう伸びしろがある所もカワイイと言えよう。

 容姿、頭脳、運動神経、そして人の良さ。

 あらゆる分野でパーフェクトなこの私が育ててやらなくもない。


 以上この4点により、この内気なクソダサ陰キャが私の恋愛候補にまで上がってくる。


 ちなみに私が思い描いている結婚生活プランは次の通り。


 まずはコイツから預かった資産を全て私が管理する。

 こいつはマンガ以外全てに置いて疎い。

 だから私がしっかり財布を握って管理する必要があるだろう。

 ファッションなんかも見てあげてもいいわね。

 夫がダサいと私までダサく思われるし。


 で、コイツには思う存分マンガを描いてもらう。

 そのための投資には、金は惜しまない。

 専用の作業部屋も用意するし、アシスタントもばっちり雇って、マネジメントも私がしてあげるつもり。

 なぜならマンガ家には、単に金を稼ぐ以上の夢がある。

 大ヒットすれば、アニメ化やゲーム化、映画化などで内木の名前が永久に刻まれるだろう。

 そうなれば、夫人である私の名前も売れだすに違いない。

 あの偉大な漫画家を陰から支える美しすぎる貴婦人として、有名になるのは間違いないわ。

 そうなれば、テレビにも出演できる。

 そこからドラマ女優や映画スターの道を歩むのもいいわね。


 こいつと私の子供なら遺伝的に顔も絶対いいし。

 日本一理想的な家族として、国内はもちろん海外でも有名になるに違いないわ。

 そうなったら海外デビューも果たせそうね。


 ああ、なんてステキなの……!?

 これぞ理想の夫婦って感じよね!

 ぐへへ!


「あ……じゃ、俺行くから」


 なんて私が妄想に浸っていると、内木が勝手に歩き出した。


「ちょっと!? 待ちなさいよ!」


 私もすぐに後をついていく。


「あ……今日もついてくるんだ……」


 すると内木が一瞬困ったような笑みを浮かべて私に言った。


 なんでよ!?

 この私が傍に居てあげるっていうのに!


「は!?

 当たり前でしょ!

 私だって部員だもの!」


「そ、そうだよね……でもマンガの邪魔はあんまりして欲しくないんだけど……」


「そんなのするわけないじゃない!」


 夫の仕事を邪魔するような女に見えてるのかしら!?

 失礼な奴ね!

 アンタはいいマンガを描く。

 私はパパから受け継いだ会社とアンタの資産で金を稼ぐ。

 それで無問題モーマンタイよ!

 つか舐めてるの?

 コロすぞ?


 私はそんな怒りを視線に乗せて内木を睨みつける。


「だったらよかった」


 すると内木はコクリと頷き、また歩き出す。


 フン!

 内木のくせに生意気ね!

 後でまたアイスココア奢らせようかしら!

 でもあんまり飲むと太っちゃうし……。


 そんな事を考えながら、私たち漫研に与えられた部室……まだ研究会のためか四畳半でクソ狭い……の前まで行くと、


「でさー!

 そのマンガがめっちゃ面白いわけよ!

 特にヒロインがめっちゃヤバくて~!」


 突然耳障りな女のはしゃぎ声が聞こえてきた。

 その声音を聞いて、私はもう少しで飲んでいたアイスココアを口からぶっぱしそうになる。


 こ……この声……!

 ま、まさか……!?


「あれ、誰かいるのかな……?」


 内木が俯き加減に呟き、部室のドアを開けた。

 華やかで甘い女の子の香りが鼻に触れる。


 そこにいたのは銀髪で紅い目をした雪のような白い肌を持つ美少女。

 狭い部室の真ん中に椅子を持って来て座り、短いスカートからすらりと伸びた細い足をしきりに組み直しながら、スマホ片手に誰かと電話している。


「ゆ……っ!

 雪村ゆきむらるな!!!

 なんでアンタが、ここに!?」


 私は思わず叫んでしまった。


 いずれ史上最強の恋愛女王としてこの世界中の男を魅了する予定のこの私が認めざるを得ない、私が生涯で最も苦戦するだろう3体の天敵ラスボス

 そのうちの1体の『雪村るな』が部室に居たからだ。


 フォロワー数100万越えのインフルエンサーにしてユーチューバーな白ギャル。

 若い女の子向け雑誌の専属モデルもやっており、顔とスタイルだけではなくファッションセンスも抜群にいい。

 最近インスタに上げた自撮り写真の可愛さには私の目が焼き切れた。

 思わず自分磨きのために、普段は4セットで終えている日課のバーピージャンプ(ジャンプ、スクワット、腕立てをひとまとめにやる運動)を8セットに増やしてしまった程だ。


 全国女子中学生ミスコン3連覇。

 ちなみに私が1度だけ3位になった時もこいつが全国1位だった。

 その時のことはトラウマで今も夢に見る。


 つ、つーか私の部室で勝手に寛いでんじゃねえ!!

 コロすぞッ!?


 そんな風に私が怨嗟の念を円らな瞳に込めて、ジャイアントキリングな熱光線で雪村の白肌を焼き尽くそうとしていると、


「あ、内ぴ!?

 ごめん!

 本人来たから!

 じゃねー!」


 私達に気付いた雪村が、言いながら電話を切った。

 かと思うと突然内木の前に立って、


「内ぴ!

 昨日送ってくれたマンガ読んだよ!

 LINEで送ってくれた奴!」


 言った。


 は……!?


 その瞬間私の時が止まる。


 なんで雪村が内木のLINE知ってんの?

 クラスのグループLINEにすら入ってないんだぞ?

 だからこいつのLINE知ってるの、母親以外は私くらいのはずなのよ?


 そんな私の疑問を他所に、2人の会話は続く。


「ありがと。

 どうだった?」


 内木が雪村に聞き返す。


「えっとね。

 ちょっと待って」


 すると雪村は再度スマホ画面を見て、内木のマンガを確認し出した。

 その顔が僅かに紅潮している。


 そんな2人の姿を見て私は独り驚愕していた。

 お、おかしい……!

 内木は引っ込み思案な性格なのだ。

 女子はもちろん、男子の友達ですら殆ど居ない。

 そんな奴が、日本の女子高生カーストでトップに君臨しているだろう雪村を相手に平然と話をしている。

 それもまるで……で。


 なんだこれは!?

 何が起こっている!?


「めっちゃ面白かった!

 特にヒロインが性格悪いところ!

 こいつ自分の事しか考えなさすぎでしょ!

 どんだけヒドい女なんだよってあたしさ~もうお腹捩れそうだった!」


「ああ……」


 内木が一瞬私を横目で見る。


「……いちおう恋愛マンガのつもりだったんだけど、でも喜んでくれて嬉しいよ。雪村さん、ありがとう」


「うん!

 内ぴ絶対天才だって!

 あのマンガ投稿とかしないの!?」


「……それはちょっと……まだ……準備中で……」


 そう言うと、内木は俯いてしまった。

 恥ずかしそうに頬をポリポリ掻いている。


 そんな内木の姿に堪らなくなった私は、思わず彼に尋ねる。


「ま……待って待って!?

 っていうか、今恋愛マンガっていったよな!?

 私、アンタのマンガは全部読んでるけど、恋愛マンガなんてなかったけど!?

 新作ってこと!?

 なんで私より先に雪村さんが読んでるのよ!?」


「それは……」


 途中まで言って、内木が黙り込んだ。

 いつもと同じ反応かと思いきや、ちょっと違う。

 少し頬を赤らめているのだ。

 そして横目でチラリと雪村を見る。


 なんだこれは……!?

 まさか……!

 この2人、付き合ってる……!?


 私は確信した。

 その瞬間、胸の底から怒りが湧き上がる。


「て……っ!

 てんめえええええええ!!!?

 内木ぃ!!!

 この私を裏切りやがったなああああああ!?!?」


 私は内木に殴りかかった。

 だがあとちょっとという所で内木が躱す。


「なっ……なんのこと!?」


「とぼけたって無駄だぞ!

 絶対許さねええええええ!!」


 かくなる上は内木と心中する覚悟!

 そう思った私が内木の背後に回って奴の首をチョークスリーパーで締めていると、


「あっはは!

 相変わらず『鎌っぺ』はおもろいね」


 そんな私を見て雪村が笑い出した。

 勝手に付けたあだ名で呼んで来やがる!?


「雪村オイコラァ!?

 おかしなあだ名で呼ぶんじゃねえ!

 田舎くせえだろうが!

 別の言い方にしろ!!」


「えっとじゃーあ、『センチメンタルオカマ』!」


「ぶっ」


 雪村の付けたネーミングセンス皆無のあだ名を聞いて、滅多に笑わない内木が噴き出す。


「誰がオカマじゃあああああ!!?

 いい加減にせんと殺すぞおおおおおお!!!」


 私が大声で脅し付けると、


「あっははははははは!!!

 お腹捩れる!!!」


 雪村が腹を抱えて笑う。


 なんなんだコイツはあああああ!!!!?

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