第9話 お楽しみの朝食
食堂は、全学年共通なのでたくさんの人でひしめき合っていました。あとから聞いた話では、一応、学年ごとに朝食の時間がずれていて混雑しないようにしているようです。――とはいえ、大勢の人がいます!
ウェズンさんが食堂へ向かう際にアドバイスをくれていました。
『まずは、席を確保しちゃいなさい。食事を受け取った後に座れないと大変なんだから! あと、人が多いから席はしっかり詰めて座りなさいね?』
あたしはアドバイス通り、まずは空いている席を探します。掃除道具の片付けをウェズンさんが引き受けてくれたおかげか、幸い席は十分に空きがありました。次にお会いしたらお礼を言わないといけません。
アトリアさんとあたしは、まだ大して物も入っていない支給の小さなポシェットを席に置きました。これで食事を受け取りに行けます!
朝食は、専用のトレーを取って列に並びます。列の先で順番にパン、スープ、ベーコンエッグとポテト、サラダ、果物とトレーに置いてくれます。パンは小さめのコッペパンで、1個から3個まで選べるようでした。あたしはもちろん3個食べます! スープはカボチャのポタージュでした。
アトリアさんと一緒に並んで、トレーの上がどんどん賑やかになっていきます。これが毎日もらえるなんて夢のようです。がんばってセントラルを目指した甲斐がありました、くふふ。
うきうきの気分で先ほど確保した席に戻りました。すると……、おかしなことに見知らぬ女の子2人があたしたちの席に座っています。仕方ないので、別の席を探したのですが、列に並んでいる間にほとんどの席が埋まってしまっていました。
よく見ると、確保していた席近くの床に、無造作にあたしとアトリアさんのポシェットが落ちています。あたしはとりあえず、それを拾おうとしました。
その時です……。
「……どきなさい」
アトリアさんが、あたしたちの座ろうとしていた席にいる2人の女の子に向かって言いました。ですが、当の2人はお互いの話に夢中のようです。アトリアさんの方を見る気配もありません。聞こえていないのでしょうか?
すると、なんとアトリアさんはその1人の座っている椅子の足を思い切り蹴りました。ちょっと乱暴なやり方ですが、さすがにこれでアトリアさんの存在に気付いたようです。
「お前、編入生だろ? なんの用だよ?」
椅子を蹴られた女の子は、立ち上がってアトリアさんを睨みつけています。これは危険な気配を感じます……。
「……ここ、私たちのポシェット置いてあったでしょ? なんで勝手にどかして座ってるのよ?」
「ポシェットぉ? 知らないね? あんたのそのポシェット、足でも生えてるんじゃないか?」
アトリアさんと睨み合っている人の隣りの子はくすくすと笑っています。ですが、その真横では一触即発の空気が漂っています。これは止めに入らないとマズい気がしてきました。
「あっ…アトリアさん! 少し待ちましょう! すぐに別の席が空きますよ? ポシェットはあたしが見つけましたので……」
間に入ろうとしたあたしを、彼女は鋭く横目で睨みました。
「……だめ、待つのは今座っているこの2人の方。さっさとどきなさい」
せっかく楽しみにしていた朝食の時間が大変なことになってしまいました。しかし、ここは多少強引にでもあたしが割って入らないと喧嘩になってしまいそうです!
意を決してあたしが踏み込もうとした時です。
「あらあらぁっ! 編入生はまだわからないことばっかりなんだから優しくしないとダメじゃないの!?」
あたしたちの背中から別の声が割って入りました。その声は聞き覚えのある――、ほんの少し前に聞いたものでした。
振り返ると、笑顔のウェズンさんが立っていました。ただ……、「笑顔」ではあるのですが、なにか威圧感を感じます。先ほどお会いした人とはまるで「別人」と思えるほどに……、です。
あたしたちの席にいた2人組みは、急に直立姿勢になってウェズンさんの顔を見ました。
「うっ……ウェズン寮長、違うんです! これは――」
「学年は同じでも、学校生活ではあなたたちの方が先輩なんだから、優しくしないといけないと思うの?」
彼女は、睨み合っていたアトリアさんともう1人の間に入り、その子の顔を間近で見ています。まるで、目の中を覗き込むようにです。
「あっ……、そういえば、ずーーーっと向こう方に空いてる席があったと思うの。そちらに移動してくれると、私はとっても嬉しいんだけど、どうかしら?」
ウェズンさんは頬に人差し指を当てて、ゆっくりと顔を傾けながら、問い掛けています。
すると、2人の女の子は、朝食の載ったトレーを持って弾かれたようにここを走り去っていきました。
なんだかよくわかりませんが、あたしはひとつだけ理解しました。
ウェズンさん……、恐るべし。
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