第4話 編入式
「ようこそ、選ばれし5人の叡智よ! 私たちは君たちを歓迎する! これから共に学び、励み、磨き上げ、新たなる魔法学の未来を切り開いていきましょう!」
講堂にて代表のシリウスが編入生を迎え入れる挨拶をしていた。数百名のセントラル在学生を前にしてもまったく物怖じせず、舞台役者のように抑揚をつけてその声を響かせる。
彼の挨拶が終わると、講堂に集められた学生たちから壇上に立つ新たな5人の仲間へ向け、温かい拍手が送られた。
『すごい……、こんなにたくさんの人がいて、それもみんな魔法使いだなんて信じられません! これが名門セントラル!』
スピカは、アレクシア王国の中でも辺境も辺境……、馬車で数日かけてようやく城下に辿り着くような遠く離れた村に住んでいた。
当然、村人の数もそれほど多くはなく、彼女はこれほどの人数が一か所に集まるのを見た経験がなかったのだ。
『これだけ人がいたら、友達100人つくるのも夢じゃないかもしれません、くふふ』
壇上でひとり表情を緩めるスピカ。しかし、それは一瞬のことで、すぐに引き締まった表情でまっすぐな眼差しを正面へと向けた。彼女の眼は輝きで満ちている。
新しい世界へひとり踏み出す不安……、それがまったく無いわけではない。ただ、そんな不安を遥かに上回り、かき消してしまう未知への期待感が身体中からあふれ出しているようだ。
アトリアはそんな彼女の姿を一瞥した後、かすかに俯き目を瞑る。その姿はスピカとは逆で、高揚する心を落ち着かせるかのようだった。
拍手の音が徐々になくなり、やがて講堂は静寂へと包まれる。滞りなく「編入式」は無事に終了した。
編入生5人は、シリウスに連れられ講堂から小さめの講義室にその場所を移していた。ここで彼は、今日の「案内役」としての役目を終える。
「それでは、僕はここで失礼するよ。あとは先生方の務めだからね? また学内で顔を合わせることもあるだろう。そのときはぜひ声をかけてほしいな」
彼は出口の前で、編入生たちに向かって美しい所作で一礼すると講義室を後にした。
すると、それと入れ替わるように
猫座の姿勢で瘦せ細った体躯、頬もこけている。黒の頭髪は白髪が入り混じっており、無造作に首の辺りまで伸ばしている。ひと目見ただけで不気味さを感じさせるその男は、講義室の教壇に立つと、じろりと舐めるように編入生5人を見まわした。
5人の学生たちは息をのみ、目はその男に釘付けになっていた。
「こほん……、はじめまして、編入生諸君。私は学年主任のアフォガードだ、よろしく」
わずかな時間、固まっていた編入生たち。だが、次の瞬間我に返り、最敬礼をして大きな声で挨拶をする。
スピカは、お辞儀こそワンテンポ遅れたものの、誰にも負けない大きな声を出していた。
「ふむ……、皆まずは席に着きなさい。私からはカリキュラムの説明と寮への案内をする」
アフォガードは、講義室の最前列にいる学生たちにギリギリ届くくらいの声量で話し始めた。
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