第16話 モンスターハウスの罠

一夜明けて、レイ達は朝食を取っていた。他の冒険者が固いパンや干し肉、ドライフルーツを食べている中、レイ達は柔らかいパンに肉をはさんだサンドイッチに温かいスープだった。


「ありがとうございます。私達にもスープを分けて下さって。」


「気にしないでください。たくさん作りましたのでドンドン食べてくれてかまいませんよ。スープだけでごめんなさいね。」


「いえいえ、ダンジョン内でスープが飲めるだけありがたいですよ。私達は今日で3泊目なんですけど、ダンジョン内での食事は美味しいと言えるモノじゃないですから。」


一夜を共にした他の2組のパーティと一緒に食事をしていたのだ。少しでも情報を得ようとしたレイ達は睡眠時間を削り、他のパーティとともに見張りを行っていたのだ。


睡眠時間は大事とは言ったが、情報も同じぐらい大事だったので、そちらを優先した形だ。


女性4人のパーティはパーティ名『花の集い』、男性2人、女性2人は『銀の月』というらしく、どちらも地元のパーティで地下10階までをメインに活動しているらしい。レイ達はパーティ名を決めてなかったので、パーティ名は伝えなかった。


レイ達は今日には地下10階を攻略する予定なので、二つのパーティとはもう会う事はないだろうが、他の冒険者との情報交換や、交流は思いのほか楽しかった。


食事を終えたレイ達は他のパーティに別れを伝え、ダンジョン攻略を再開した。


「良い人達だったわね。」


「ああ。こういうのも悪くないな。」


「そうね。昔は魔王を倒さなくちゃって焦って急いで冒険してたものね。」


そうなのだ。ボルテックス達と冒険をしてた時は、観光なんかする事もなく、ひたすら前へ前へ進んでいた。まさに最短距離で魔王討伐に向かった形だ。余談だが、ボルテックス達と一緒に冒険してた時も俺達はパーティ名がなかった。自然と勇者パーティと呼ばれるようになり、それが定着してた感じだ。


「そうだな。今も目的の為に観光なんかしてる場合じゃないんだろうけど、できるなら色々経験してみたいな。」


「そうね。別に使命がある訳じゃないんだし、楽しんで行きましょ。その方が意外に目的も早く達成するかもよ。」


「ちがいない。」


「今日も魔法中心でいいか?」


「ええ。地下10階までなら魔物のレベルも低いし、MPがなくなる事もないわ。」


「そうだな。でも残量は気を付けてくれよ。いくらMPが多いからって回復する訳じゃないんだから。」


といっても、マリーのMPは1000。覚えた水魔法のウォータージェットの消費MPは5だ。200回は使える計算になる。1階で出てくる魔物の数は20体~30体程なので、通常であればMPに余力を残すのはまちがいないないだろう。気を付けないといけないのは俺の方だな。レベルが上がったとはいえ、俺のMPは聖獣補正入れて約350だ。


俺は火魔法、風魔法、土魔法、水魔法、雷魔法、光魔法、闇魔法と練習の為、まんべんなく色んな魔法を使ってる。もちろん消費MPは最小が5だが、強い魔法を使えば10~20は消費してしまう。MP回復ポーションはあるがアイテムは使うと無くなるので制限なく使う訳にはいかない。


だが、MPに余力を残して一日を終えるという選択肢も無い。今の俺は少しでも多くの魔法を使って熟練度を上げて行かないといけないからだ。ありがたい事にこの辺の魔物は俺のレベルでも十分剣で戦えるので、MPを気にしながら魔法だけでなく、剣の熟練度も上げて行けば良い修行になるだろう。


その後、俺達は順調に地下10階まで足を進めた。いや順調とは言えないかもしれない。調子に乗った俺達は地下9階でモンスターハウス、いわゆる部屋中にモンスターが溢れる罠に捕まったのだ。1体1体のレベルは大したことなかったがいかんせん数が多かった。


見渡す限りの魔物の総数は100体を越えていただろう。俺達はギリギリまでMPを使いながらダンジョンを進んでいたので、俺もマリーもMPの残量は100を切っていた。


いかに魔物が弱くても、魔物からのダメージが5だったとしてもそれが100体から受ければさすがに耐え切れない。だが、さすがにこの魔物を見逃すのはもったいない。


俺達は急いでMP回復ポーションを飲んで、魔法を連発した。それはもう連発した。狙いなんかつけていない。部屋中にあふれる魔物に対して、狙いなんかつけなくても魔法はドンドン当たった。


回復したMPがなくなるまで魔法を連発してなんとかモンスターハウスの魔物を殲滅したのだ。


そして今、目の前には地下10階のボスがいる部屋への扉があった。


「どうするレイ?さすがにMP0でゴーストキングはいくら私達のレベルが高いと言っても危ないかもしれないわ。」


「そうだね。俺はお互いがMPポーションを飲んでボス部屋に入ればいいと思うけど。もったいないけど、さすがに命には代えられないからね。」


「レイの言う事も一理あるけど、私は今日はボスに挑まない方が良いと思うわ。」


「どういう事?」


「焦ってアイテムを使うよりも、今日は地下9階で休んで、明日朝一でボスを倒すのはどう?地下9階で休んでる冒険者達もいたしね。」


たしかにマリーの言う事も一理ある。当初の予定では1日で2階分を攻略していく予定だったのに気づけば2日目で地下10階だ。知らない間に焦ってたか?それともゲーム脳になってしまってたか。マリー様様だな。マリーの提案に乗るとするか。


「そうだな。なんか焦ってかも。ゆっくり休んでボスは明日にしようか。」


「レイよ。マリーがいてよかったのぉ。」


「そうだな。俺だけじゃ早死にしてたかもな。」


そんなやり取りをミストと交わして、レイとマリーは階段を上がり、地下9階で休むのだった。





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