この物語のハッピーエンドまで。

白井 あい

無知 海を眺める私

 「ねえ、1年前の私、聴こえていますか。私は、これから戦ってきます。眩い光の中で。」

この時の私は、いわばただ砂浜で綺麗な海を眺めているだけのようなものだった。自分と地上を繋ぐ糸が切れるだなんて思ってもみなかった。周りがあまりにも眩しくて、自分の姿を見ている余裕がなかった。ただ、リベンジに必死だった。

 

 小学5年生の私。小学1年生の頃から続けている空手が楽しくて、週4回の練習にも喜んで足を運んでいた。関東甲信越大会前日もいつもと同じように練習に行く予定だった。近くの祖母の家に顔を出そうと自転車に乗った。信号が青になり、ペダルを踏み込み、漕ぎ出そうとした瞬間。時がゆっくり流れているように感じた。足が自転車の後輪に絡まったのだ。足首より下のあたりが、燃えるように熱くなった。すぐに母が駆けつけ、救急病棟へ。医師からつげられたのは全治1ヶ月。私の背中に稲妻が走った。大会は?今までの練習は?私のモチベーションは?この感情はどこにぶつけたらいいの?と。一晩中泣き尽くした。泣くことしかできない自分が悔しかった。あっけなく、全てが飛んでいってしまったんだ。

 そして、次の日。私は棄権した。来年にかけてやる、と。そうするしかなかった。


 月日は、案外あっという間に過ぎていった。自分を締め上げてくれている帯は、去年よりも実力が上がった証拠である一個上の色。ただ、そのハンデとしてだろうか。今年は、大会一週間前に右足の上に包丁を落としてしまった。5針縫われたままの右足を抱えながら戦わなければいけなくなった。だが、棄権という言葉は私の中にはなかった。当時、得意技だった右上段回し蹴り。これはもう運命なんだと。負ける気がしなかったんだ。あの時は。だから、余計にダメだった。


 

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