第3話 カマセーヌとチューリアトル公爵の激戦
茂みに潜みながらマケーヌ・カマセーヌはこれからの計画を考えていた。
この街道にこれからチューリアトル公爵の馬車が通る予定になっている。
中にはその公爵家のご令嬢が15歳の成人になると行われるスキルを授かる儀式を行うため、王都に向かっている際中だ。
護衛の騎士も5人程度、装備もそれなりの距離を歩く為に軽装。そこを俺らが一気に襲い掛かれば簡単に金目になるものを奪うことができる。ご令嬢は奴隷にでもすればさぞいい値段が付くだろう。
思わずにやける顔が抑えきれないといったようにカマセーヌは口角を上げるが、周りの手下たちはその表情が悪魔のように見え、思わず固まる。
ガラガラッ
馬車の車輪が回る音が聞こえ、盗賊たちの表情が引きしまる。馬車より先に二人の騎士、その馬車を挟むように二人、最後に後方に一人という配置で現れた。
俺たちはタイミングを計り、そして作戦を開始する。
まず地面にもぐらせたロープを対面に潜ませた部下共に思い切り引っ張り合わせる。
ピンと張ったロープに足を取られた馬は思うように動けず、チューリアトル家のホワイトドラゴンの家紋に、赤を基調としたライトアーマーを着ている騎士を一人落としてしまう。
「ぐぁっ!」
「なにっ!?」
騎士が乗っている馬の背は平均男性ほどの高さがある。そこから落ちることは相当なダメージを負う事となり、実際に落ちた男の騎士は呻いていた。
流石に二頭の馬力は抑さえられなかったのかもう一人は、落馬せずに馬を落ち着かせ態勢を整えている。
しかし、俺はその隙を逃さず、落馬した騎士を殺しにかかる。部下共も俺に合わせて草陰から飛び出す。
腰から剣を抜きざまに首を撥ねるつもりだったが、やはり公爵の騎士は一筋縄では行かず、体を捻って肩に斬撃を受ける程度に留めた。
馬車の後方でも乱戦にとなっているため、その間に俺はこいつらを早めに始末しないといけない。無傷の青いライトアーマーを着た騎士を部下に任せ、肩に傷を負った 赤いライトアーマーの騎士と対峙する。
「一瞬で決めてやるよぉ」
「黙れ! 盗賊風情が!! 舐めるなァッ!!」
赤い騎士の口調は荒く罵っているが、それでも冷静に剣を前に構え、こちらの出方を待っている。
確かに、この状況で冷静さを失って突っかかってこないのは流石といえる。だが。
「剣閃流 瞬雷」
一呼吸後に息を止め、剣を腰に構えたまま前のめりに倒れる。その倒れた時の重心を利用して地を蹴り、這うような低姿勢から一気に距離を詰め、そこから膝のばねを使って上体を起こしつつ、体の上下で起こる遠心力を剣に乗せ、騎士を逆袈裟切りで飛ばす。
吹き飛んだ騎士の血しぶきが馬車の方まで跳ね飛び、切り付けられた騎士はそのまま倒れる。
隣にいたもう一人の騎士がその光景を見て目を見開き、驚きを露にする。
「いっちょうあがり」
「くっ...」
「おいお前ら、そいつ囲え!」
俺の指示で、二人の部下は即座に騎士を囲む。負傷と疲労具合から、このままだと確実に部下がやられていただろう。
しかし、俺が数秒で赤の騎士を倒してしまったため、この場の戦況が逆転した。
俺は先ほどと同じように一息、呼吸を止め、一気に低姿勢で詰める。
「奴と同じ技は食らわん」
俺の逆袈裟切りに合わせ、騎士も上段から剣を振るう。しかし、俺が振るった剣は地面に刺さり、体の動きが止まった。そのタイミングで騎士の剣は空振る。俺は急に止まったことによる慣性の反動を利用し、左の逆袈裟から体を捻り剣を右肩から担ぐようにして、回転する勢いのまま跳ね、空中袈裟切りによって青い騎士を倒す。
「剣閃流 誘雷」
「な、馬鹿...な」
「ぎゃはははっー! やっぱカマセーヌの兄貴、ツエェーッッ!! がっ...」
「お前らとじゃ、レベルが違うんだよレベルがぁ!! うぐっ!」
俺の剣戟に部下たちは興奮し、叫び散らかす。だが油断していたため、こちらに一気に駆け寄っていた敵の騎士に気づかぬまま、切り伏せられ血しぶきが舞う。
戦況を確認すると、目の前の騎士がこちらに来るまで、四人の部下がやられている。つまりこっちは残り六人。あちらは目の前の騎士合わせて三人。数はこちらが多いが、個人の戦闘力が違う。奇襲を行ったが、思ったよりも騎士の実力が高く、この状況は五分五分といったところだろう。
お荷物が無ければの話だが。
「野郎ども! 隙があるなら馬車を襲え! ないなら騎士と戦いつつ、出来た隙で馬車を襲え!! いいか、まともにやりあわなくともこっちは馬車を襲ってご令嬢を人質に取れば勝ちだ!」
部下共は俺の言葉に鼓舞され、やる気がギラギラとした目に現れる。俺も調子を合わせて気分が昂ろうとしたところで、先ほどの騎士が切り付けてくる。
「チッ」
後ろに飛び退きながら剣を受け、その勢いのまま吹き飛び事で衝撃を緩和し、地面に足を滑らせながら、態勢を整える。
先ほどの騎士と同じくホワイトドラゴンの家紋、黒を基調としたライトアーマー。しかし、兜はフルフェイスの物を使っており、その素顔は見えない。そして、鎧越しにもわかる豊満な胸。だがしっかりとしたくびれと、引き締まった足がスタイルの良さを表している。こんなところで出会わなければ大金を積んでも抱きたいと思うほどだ。
「おいおい、いきなり切りつけてくるとは、卑怯じゃねぇか?」
「...うるさい」
兜から顔は見えないが、その一声は透き通った綺麗な女の声。思わず聞き入りそうになるが、女騎士で、チューリアトル公爵に仕えているという事は。
「剣士において最強の一角に数えられるトゥーメイと戦えるとは、光栄だなぁ」
「...黙れ」
トゥーメイから抜かれた剣。光速という比喩が適しているほどの速さで、俺の首を撥ねにかかる。だが、剣閃流は速さと応用力に特化している剣術だ。従って、動体視力も優れている。
俺は難なくその剣をよけ、反撃に切りかかる。しかし、剣を振った直後に放たれるトゥーメイによる掌打、そして剣技からの蹴り、という一連の攻撃を躱すのに反撃の余裕がなくなり、ついには前蹴りを一発食らってしまう。見た目以上の重さがある。
「くっ、剣闘流か。剣による接近戦から、素手による超接近戦。猛攻撃で相手に反撃の隙を与えない超攻撃剣術、または拳術だな。流石にやるねぇ」
「...減らず口」
「不愛想だねぇこれじゃあ、俺がやられるのも時間の問題かなぁ?」
「...なら、失せろ」
「まぁ、それもありっちゃありな話だな。俺がやられる時間があればの話だがよ」
俺が後ろに目配せをすると、トゥーメイも警戒しながら、後ろを確認する。そこで 行われていた部下共と騎士達との戦いは、騎士が疲労と負傷で動きが鈍くなっており、それに比べてまだ体力があり、負傷を物ともしていない部下共という状況で圧倒的に有利になっていた。
騎士たちはこれまでの長旅、そして仲間がやられた状況で、馬車を守らないといけないという肉体的、精神的な疲労が積み重なりそれが結果として現れていた。
「...お前をすぐ倒せば済む」
「すぐ、ねぇ。倒されるの間違いじゃないのか?」
俺は飄々とした言葉から、一気に圧を増した言葉を吐き、剣を腰に構える。一呼吸後の、無呼吸斬撃。息を吐く間もなく相手を切り刻む。その技名を。
「瞬雷」
居合の要領で抜き放った斬撃をトゥーメイは剣で弾く。だが、服を少し掠めた。
本来の瞬雷であればこれで終わりだが、俺は続けて、剣を返すよう上段から二撃目を放つ。トゥーメイは驚いた様で一瞬、体を硬直させるが、拳で剣の軌道を逸らし、致命傷を避けたる。しかし、腕から一筋の赤い線が走る。
俺はそのまま手首で円を描くようにして、中段横薙ぎの三撃目を放つと、トゥーメイの腹から血しぶきがあがる。
「三連撃」
「...なるほど、まずいかも」
腹を抑えながらよろけるトゥーメイに対し、カマセーヌの方は息が絶え絶えの状態で、呼吸を整えている。しかし、トゥーメイは出血もそれなりにあるはずだが、なぜか未だ余裕そうに見えた。
何とかトゥーメイに深手を与えたが、こちらもエネルギーの消費が激しい。これは早めに倒さねば。
「待てーぃ」
再度、瞬雷 三連撃を放つため、構えようとしたときにそう声がかかる。
振り向くと、白い上着に黒いズボンという見たこともない変な服装をしている、いたって平凡そうな少年が立っている。トゥーメイの方を確認すると、そちらも知らなさそうな顔でそいつを見ていた。
「何だお前は?」
「助太刀いたす」
「いや、誰なんだって聞いてんだ」
俺の質問に答えずに言った少年に、改めて問いただす。しかし、質問に答える気はないようで、木の棒を持ちながら突っ立ている。これ以上こいつに時間を割くのは無駄だと判断したカマセーヌは、剣を無造作に振る。
戦いにおいてド素人に見えるこの少年は、ただの斬撃で上半身と下半身が簡単に別れるはずだったが。
「ワーォ!」
という声と共に剣が弾かれる。奇妙な違和感を抱きながらも、再度剣を振る。
「ワーォ! ワーォ! 足首やめろ!」
変な掛け声により、カマセーヌの斬撃はすべて弾かれる。妙な焦りを感じたカマセーヌは足首を切りつけるがこれも弾かれた。いやな汗がどっと流れ落ちる。
どういうことだ、こいつはどうみてもただのド素人。俺の攻撃を避けるどころか認知できるはずがない。それを、弾くだと。いや、ならば次は違う個所を狙う。
「足首やめろ。喉やめろ。腕やめろ!」
なんだと、すべて見切ったというのか。くそっ、温存の余裕はないか。
それぞれ狙ったところを正確に答えられ、そして弾かれていると感じたカマセーヌは、全集中をこの男に向けた。トゥーメイも何が起こっているのかわからない、理解できない、といったようで、あっけにとられてみている。
「瞬雷ィ!!!」
「首に攻撃すな!」
カマセーヌが放った渾身の一撃で首を狙うと、切れはせずとも弾かれる感じがなかった。今までで一番の手ごたえを感じたカマセーヌは連続して首を狙う。
「首に攻撃すな、すな、すな、すな」
目の前の平凡な少年は首で止まった剣を、ご丁寧につまむようにして剣をどけている。焦燥感から何度も首を狙ったが決定打にはならないそう悟ったカマセーヌは腰に剣を構える。
ただ狙うだけがダメなら、これならどうだ。
「剣閃流 瞬雷 三連撃」
「足首、喉、腕やめろ」
カマセーヌが無呼吸斬撃で、止めていた息を吐いてしまう。
ちっ、最期の首への一振りが出来ねぇ。こうなれば一度態勢を整えて———。
「首にせんのかーい」
少年がそう発した瞬間に、いままで行った全ての攻撃がカマセーヌに跳ね返る。結果、両足首、両腕、そして顎を思い切り叩かれた衝撃が走り、吹き飛び転がり倒れる。
「あ、ぐっ...」
顎を揺らされた衝撃と、大技直後による酸欠によってカマセーヌの意識がだんだん遠のいていく。
あと、少し、だったのに。こんな、わけのわからないやつに...。
そうしてカマセーヌの意識は暗闇に落ちていった。
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佐藤はカマセーヌを倒した後、近くで血を流して倒れている青いライトアーマーの騎士に駆け寄る。
「大変や!」
そうして、近くにしゃがみ込み持ち上げる。
「四葉のクローバーみつけてもうた!」
その騎士の頭近くにあった四葉のクローバーを。
「いや、そこは俺を助けろ!」
「確かにー」
倒れていた青い騎士が、思わず起きながらそうツッコむ。
先ほどまでのカマセーヌに切られた怪我が完全に治っており、青い騎士とトゥーメイは驚く。続けざまに、佐藤はもう一人倒れている赤いライトアーマーの騎士に声をかける。
「おい、大丈夫か! 生きているか!?」
「お...れは、もう———」
もはや、ぎりぎりで生きているといった状態の騎士は最後の力を振り絞って何か言おうする。
しかしそれを遮りながら佐藤が赤い騎士の頭を叩く。
「はっきり喋れ」
「出来たらやってるわ!」
叩かれた赤い騎士は思わずといったようで、起きながらツッコミを入れる。そしてまたもや、カマセーヌからの傷は完治し、赤青の騎士二人とトゥーメイは驚きまくった。
「「「こわっ!!!」」」
その現象の怖さに。
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