第3話 初配信で悪魔召喚 後

「願いを、ツケる?」

「先に対価だけお支払いして、後から願いを叶えていただこうかなと。もし対価が足りなければ、後から追加でお支払いいたしますので!」


 ベルゼブブはにやりと悪い笑みを浮かべた。

 曲りなりにでも悪魔、もしかすると悪巧みをしているのかもしれない。こちらはただの人間、魔法を使われた日にはひとたまりもない。

 ごくりと息をのみ、悪魔の言葉を待った。


「このベルゼブブに願いをツケようとは。その対価として、お前自身をもらい受けても文句は言えないな?」

「あ……」


 黒い靄——恐らく魔法と思われる力を纏ったベルゼブブの右手が迫ってくる。

 やらかした。

 そういえば、対価の制約をつけていなかった。制約がないということは、私から全て奪っても文句は言えないのだ。

 さようなら、私の人生。

 生き急いでいるようなことをしてしまったのは自覚している。けれどまだぴちぴちの16歳、現役女子高生。もう少しは独り身を謳歌したい、そんなお年頃。

 だからこそ、その思いのたけを大声で放った。


「結婚は成人してからでお願いしまーす!!!」


 突如、私の周りからまばゆい光が放たれる。

 どうしたんだ、私の体。

 もしかして、今のが願い事になってしまったのだろうか。


「お前の言霊、いや願いの強制力か。その力も働いているとはいえ、悪魔の力に抵抗できるとは。これほどの魔力を持った人間、数百年ぶりだ」

「本当、ですか?」


 大歓喜案件がすぎる言葉だった。

「オカルトマニア笑」と言われてしまいそうなほど、心霊現象にあったことがなかった。今まで「心霊現象にあったことがないオカルトマニアとかいるんですね~」と小馬鹿にしていた人たち、聞いていますか。悪魔に抵抗できる程度の魔力、備えちゃっているらしいです。

 ベルゼブブの言葉に浮かれていると、当の本人は首をかしげていた。


「魔力があるのは認めるが、勘違いをしているようだから訂正させてもらう」

「勘違い?」

「結婚するとは言ってないぞ。魂を貰い受けるとは言ったが」

「それって、結婚じゃないんですか?」


 魂を貰い受ける=結婚。

 私の脳内方程式では、そのように認識していた。

 けれど悪魔的な認識は違っていたらしい。あまりにも恥ずかしすぎる。


「穴があったら入りたい、でしゅ……」

「我の言い方も悪かったからな、仕方ない」

「お気遣い、感謝します」


 まさか悪魔に気遣われるとは思ってもみなかった。

 やっぱり悪魔は悪い人ではないかもしれない。こちらの言葉さえ間違わなければ、良き友人として付き合っていける存在なのだろう。


「それよりも重大なことが一つある」


 魔界の大悪魔が重大というのだ、きっととんでもないことなのだろう。

 思わずごくりと息をのむ。

 驚かずに聞いてほしい、とベルゼブブは言った。私はその言葉に大きくうなづいた。


「お主の願いのせいで、魔界に戻れなくなった」

「魔界に戻れなくなった」

「復唱しなくても良い」

「魔界に戻れなくなった!?」

「大声を出さなくとも、お主の可愛い声は聞こえておるぞ?」

「でもどうして願いが関係しているんですか?」

「結婚は成人を過ぎてからがいい、と言っていただろう? 要するに、成人年齢である18までお主が結婚しないように見守らなければならなくなった」


 脳の処理が追い付かない。

 私の願いのせいで、魔界へ帰れなくなった。

 大悪魔のベルべブブなのだ、きっと魔界でのお仕事や経済的影響や信頼関係に傷がついてしまうだろう。一般人の些細な願い(個人的には一大事)のせいで。

 ということは私にも責任の一端があるのではなかろうか。


「責任をもって、ベルゼブブさんを幸せにします!」

「何故そうなるんだ!」

「呼び出した責任や願いで縛り付けてしまった責任もありますし、そのまま放り出すというのはいろいろと心配で」


 街の未来とか、ベルゼブブさんの生活とか。

 先ほどまで冗談とはいえ、街を壊滅させると宣っていた悪魔なのだ。もしそんなことが起きてしまった場合、私の責任にもなりうる。それにこの事態を引き起こしてしまったのだから、こちらの世界での面倒を見るのは私の役目だろう。

 魔界の優雅な生活とまではいかないけれど、ある程度の生活の保障はしてあげたい。


「そこまで重く考えなくてもいい。数千年を生きる悪魔のほんの一瞬の娯楽だ、せいぜい我を楽しませればよいだけだ」

「本当にそれだけでいいんですか? 魔界の政界とか経済界とか影響出ないですか?」

「そこまで心配せずとも、魔界はやわじゃない。それにお主は大悪魔ベルゼブブの加護が期間限定とはいえ得られるのだぞ、お得ではないか?」

「言われてみれば、とてもお得ですね!」


 完全に悪魔との契約前向きピーポーになっていた。

 あまりにも好条件だ。とはいえ怖いのは、その代償だ。


「納得したようだな。それで対価についてだが」

「やっぱり命とかですか?」

「いや違う。配信を共にせよ」

「背信、ですか……」


 相手は悪魔。

 やはり背信行為を行わせることで、神の影響力を減らす画策をしているのだろう。きっと私は天国へ行くことは叶わない、悪魔と契約を結んでしまったから。けれどこの悪魔が、死後私の魂を大事にしてくれるだろうと信じている。

 こうなったらありとあらゆる悪魔的儀式、全部網羅しよう。後年のオカルト好きのために、書籍を残してウィ〇ペディアに載るような契約者になってやろう。

 覚悟を決めた時だった。

 ベルゼブブは腕を組み、自信満々に言った。


「字が違うぞ。今お主がしている配信を共にさせろと言っているのだ」

「今している、配信?」

「ほれ、視聴者20万人が我らの問答を聞いておったではないか」


<コメント>

 コメント

 コメント:セナちゃん、みってる~???

 コメント:俺たちを放って、悪魔といちゃつくとは……。けしからん、もっとやれ!!!

 コメント:悪魔と契約おめでと笑

 コメント:成人まで結婚できない系VTuber

 コメント:セナちゃんはリアル高校生確定か……

 コメント:ベルゼブブさまの声もかわええなあ

 コメント:初配信からぶっ飛んでた

 コメント:これは伝説



「ああああああ!!!!!!」


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