初配信で本物の悪魔を召喚したら、大人気VTuberになってしまった件について。

白鷺。

第1話 初配信で悪魔召喚 前

 現在VTuberは2万人を超えている。

 その中には天使や吸血鬼、動物や妖精など多種多様な種族が存在している。ほとんどの場合は「中の人」がいて、何かになりたいと願った人間が扮して活動を行っている。

 しかしその一割は……本物の人外だという。


 ♢♢♢

 21:00 都内某所


 一万人の視聴者の前で、本日デビューの個人勢VTuber≪天魔てんまセナ≫(本名・赤坂聖菜あかさかせな)は声高らかに宣言した。


「せっかくの初配信なので、昨日ネットで見つけた召喚術やります!」


〈コメント〉

 コメント:初手召喚術マ!?

 コメント:待て。

 コメント:ぶっとびが過ぎる。

 コメント:本当に召喚出来たら伝説だぞ。

 コメント:めえまま、たしゅけて……。


 たしゅけて欲しいのはこっちの方だよ!

 こっちはその「めえまま」のせいで、リアルに召喚術するんだからさ!

 しかも一万人も来るなんて、聞いてなかったよ!


 ≪天魔セナ≫はSNSフォロワー四十万人の大人気イラストレーター≪鹿角かづのめえ≫が生んだ二人目のVTuber(めえ自身がセルフ受肉しているので正しく言うと三人目)だ。

 オカルトが大好きで、その楽しさを広めるために活動を始めたというのが表向きの理由。

 けれど本当は、幼稚園からの親友である鹿角めえ(本名・上野芽生うえのめい)の口車に乗せられてVTuberを始めることになったのだ。


「初配信っていうのはね、インパクトが大事なのだよ。せっかくの良いカラダ、せっかくのアピールポイント、それを活かさない手はない。賢い聖菜ちゃんなら分かるよね?」


 モデルデータを渡される時、にやにやしながら言っていたのは記憶に新しい。

 腰まで伸びる長い銀髪に真っ白な肌。きらきらと輝く宝石のような青い瞳。たくさんのフリルの装飾で可愛くアレンジされたセーラー服。

 大人気イラストレーター様が描いた体なのだ、確かに業界最高峰の出来と言えよう。

 

 とはいえお察しの通り、私は個人VTuberである。かつ無名の新人。

 視聴者は多くて五〇人くらいだと思っていた。(もちろん、五〇も大きな数字なのは分かっている)

 だからこそ、ここまで多くの人に見られる想定をしていなかった。

 オカルト好きなアングラな人たちと一緒に、細々趣味程度で活動を行っていく予定だった。

 そもそも、視聴者数が膨れ上がってしまった原因は二つある。

 キャラデザ担当が有名イラストレーター≪鹿角めえ≫であること。こっちはある意味想定内ではあった。初配信前一か月は毎日のように宣伝してくれたし、ファンアートもたくさん描いてくれた。これは本人なりの責任だったのだろう。


 そしてもう一つの理由は鹿角めえがキャラクターデザインを担当した、天魔セナの「姉」にあたる存在だ。個人的にだけれど、こちらの理由がかなり占めていると思う。

 VTuber最大手事務所「ぶいすたあ」に所属する登録者百万人の大人気ライバー≪鬼灯ほおずきあめ≫である。天魔セナの初配信告知に反応し、「初めての妹ちゃんです! 一緒に見守りましょう!」と懇切丁寧に引用リツイートしてくださったのだ。


 ええいままよ!

 こうなったら、とことんやってやろうじゃないの!


「一応、魔法陣も用意しているんですよ。五時間かけて、大きな紙に書きましたよ。マッキーペンで」


〈コメント〉

 コメント:マッキーペン召喚草

 コメント:不敬が過ぎるw

 コメント:準備えらい。

 コメント:応援「は」してる(成功するとは言ってないw)

 コメント:血とかは難しいもんな。


「お話はここまでにして、早速召喚しちゃいましょうか!」


 椅子の後ろに用意していた魔法陣の前に立って、大きく息を吸う。

 本当に召喚してしまったとしても、塩とか用意しているし。大丈夫、大丈夫。

 今まで回ってきたパワースポットパワーだってあるんだから、ある意味神様の守護はあるはずだ。有名神社のお守りも部屋中に飾ったし、御朱印帳だって手元にある。九字だって切れるし、十字架も用意したし、ニンニクもある。

 ありとあらゆる悪魔的存在に対抗できるもの、全て用意したんだ。

 そもそも成功できるとも限らない、いやこんな心持では悪魔も召喚されてはくれないだろう。

 本当に召喚する気持ちで、唱えるのだ。


『我 主を従える者

 漆黒の使者 闇の英雄よ

 我が身を捧げよう そして契りを

 来たれ 魔界の王

 我の呼び声に応えよ 悪魔ベルゼブブよ』


 しーん。


 特に変化なし。

 風の一つも起きず、一万人の視聴者の前で呪文を唱えた人間が誕生しただけだった。

 まあ、こういうこともある。


「あはは、失敗しちゃいましたね。初配信ですからね、こういうこともありますよ~」


〈コメント〉

 コメント:おつかれw

 コメント:これから頑張ろう。

 コメント:ぶっとんだ初配信だぜ(内心心配してた)

 コメント:召喚術、正直興味持った。

 コメント:わかる↑


「興味持ったって、本当ですか!?」


 あ、ついつい食いついてしまった。

 こういう趣味は人に言うべきではないと思っていた。だからこそ、自分が話すことによって興味を持ってくれたのが嬉しかった。


「あ、試したいって方はぜひやってみてくださいね。実際に召喚できたかとかも教えてもらえたら嬉しいです。もちろん、自己責任でお願いしますね~」


〈コメント〉

 コメント:塩対応草

 コメント:さっきの食いつきどこ行ったw

 コメント:自分が無事だったからってよお……。

 コメント:許せねえよなあ。

 コメント:明日試してみる。

 コメント:引用元 kwsk


「引用元詳しく、ちょっと待っていてくださいね」


 えっと、なんていうサイト名だったかな。

 ああそうだ、『魔界の不思議大集合 君も今日から大魔術師』みたいな感じの名前だったな。

 コメントを返しながら、マウスカーソルを動かす。


「昨日偶然見つけたサイトだったので、怪しさ満点だったんですけど結果は案の定でしたね。今コメント欄に貼りつけるので。終わったら概要欄にも貼っておきますね~」


 件の名前を検索バーに入力する。

 けれど「サイトが見つかりません」というメッセージが出てくるだけだった。


「あ、あれ。おかしいな。サイトがなくなってる?」


〈コメント〉

 コメント:どうしたの?

 コメント:本当にオカルト!?

 コメント:急がなくて大丈夫だよ。


「皆さん。優しいコメント、ありがとうございます。配信が終わってから、改めてサイトのURLを貼らせていただきますね」


 ここはリスナーさんのやさしさに甘えよう。ただでさえ慣れない配信をしているので、検索に集中してしまうとお喋りが疎かになってしまう。

 最後に魔法陣を確認して、本格的に初配信を進めようとした時だった。

 魔法陣が徐々に光を帯びながら、回転し始めた。


「え、嘘……」


 その瞬間、強風と共に光が溢れた。

 あまりのまぶしさに、目をつぶってしまった。

 目を開けると、そこには一人の少女が佇んでいた。


「我はベルゼブブ。かの有名な七つの大罪の暴食、蠅の王ベルゼブブだ!」


 この非現実的な出来事を前にしてしまえば、他のことは何も目に入らなくなるのは考えるに容易だろう。

 そう、私は配信をつけっぱなしということを忘れてしまっていたのだ……。





 —――――

 作者です。

 初めての連載ですので、優しく見守っていただけますと幸いです。


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