【19】アリネが盗賊になった理由
アリネは俺が死んだ後、遺書通りに13歳になるまで家を出ても困らない様に、外の世界のことについて色々学びながら過ごしていた。それぞれの国のことや職業、貨幣などについてある程度のことを一番弟子であるユーレンスから学んだのだという。
一番弟子であり、弟子達の中で最年長であったユーレンスには生前にも死後にも色々頼ってしまっていた部分がある。ただ、ユーレンス以外の弟子達を外の世界に連れて行ったことが無かったため、どうしても外の世界について教えるにはユーレンスを頼るしかなかったのも事実であった。
ユーレンスには一番弟子だからって理由で色々押し付けすぎたかもなぁ……。会うことがあったら謝らないといけないな。
そんなことを考えながら話を聞いていると、アリネが13歳になったときの話をし始めたためちゃんと聞く事にする。アリネは家を出ると同時に盗賊になったと話し始めたところで一旦止める。
「待て待て、どうしてその流れから盗賊になったんだよ……」
「え? 何か変だったか?」
「いや、変というか……、アリネならその能力を活かして冒険者とか騎士とかにもなれたし、それなりに上にもいけたと思うんだけど」
「あー、そういうのは興味なかったというか……」
そう言うとアリネは首の後ろ側を揉みだした。アリネは昔から家の物が壊れているときに誰が壊したのかを聞いたときとか、怪我だらけで帰ってきた時にどこに行っていたのかを尋ねたときなど、何か言いにくいことがあるとこのしぐさをすることが多かった。
……アリネのやつ何か隠してやがるな。……でも、騎士とか冒険者にならなかった理由で隠すことなんてあるか?
アリネの様子に怪しさを覚えたため、もう少し踏み込んでみることにした。
「……それじゃあ、盗賊になった理由はなんだ? 冒険者や騎士にならないで、盗賊を選んだのにはそれなりの理由があるんだろ?」
「うーん。それは……」
アリネはどこか言いにくそうにそっぽを向きながら首の後ろを揉んでいたが、しばらくするとチラッとこちらを向いてゆっくりと口を開いた。
「えーと、師匠は覚えてる?」
「? 何を?」
「そのー……、うちの大好きだった絵本……」
「絵本?」
「うん」
確かに幼い弟子達のために色々な絵本を買っていたし、読んであげることもあった。ただ、急に好きな絵本が何だったのかを尋ねられると困ってしまう。家にあった絵本はゆうに20冊を超えていた上に、弟子達の数も多かったため、パッとはすぐに出てこない。
「絵本、絵本……」
家にあった絵本を思い出してみるも、一向にアリネが好きだった絵本は出てこない。諦めて答えを聞こうかとも思ったのだが、チラッと見えたアリネの表情は悲しそうであったためもう少し頑張ってみることにする。
考えること数分、分からないと言おうとしたところで、ふと何かが脳内に舞い降りてきた。
待てよ……。今この話をするってことは、盗賊になった理由と好きな絵本が関係しているってことだよな。そして、盗賊団の名前は……、確かガンボボ盗賊団……。
記憶と記憶が繋がり、雷に打たれたかのような衝撃と共にある絵本の名前が浮かんできた。
「もしかして、”ガンボボ盗賊団の冒険”か?」
そう尋ねてみると、アリネの表情にパァっと花が咲いた。
「そう!! ”ガンボボ盗賊団の冒険”!! 覚えてくれてたんだ!!」
「まぁ、今思い出したんだけど……、それが何か関係があるのか?」
「もちろん!! その絵本が大好きでずっっっと盗賊になりたいって思ってたんだよ」
その回答を聞いた瞬間全身の力が抜けてしまった。
そ、そんな理由で盗賊になったの……?
色々な人を襲って生活する盗賊。絵本が大好きでそんな犯罪に手を染めてしまうといったアリネに呆れてしまう。
「……なぁ、アリネ。どうして、盗賊になって人を襲うんだ? それが悪いことだって分かってるだろ?」
「え? そうなの?」
キョトンとしているアリネ。その表情は嘘をついていたり、誤魔化しているといった様子はない。むしろ、本当に悪いことなのか分からないといった感じだ。
「いやいや、悪いことに決まってるだろ。人を傷つけたり、人の物を奪ったりするんだぞ?」
「でも、本には悪いことなんて書いてなかったし、ガンボボ盗賊団は正義の盗賊団なんだよ!? それに――――」
アリネは”ガンボボ盗賊団の冒険”の内容を興奮気味に語り出した。確かに話を聞いていると、ガンボボ盗賊団は一本的な盗賊団と比べて良い行いをしているかもしれないが、村や街、街道を通ってる人を襲って生活するなどほとんどは他の盗賊団と変わらない。
こんな絵本を買ってきた自分も悪いけど、どうして悪いことと良いことが分からないんだ……。
絵本の内容を聞きつつ頭を抱えていると、ふとある考えが浮かんだ。
「ストップ!! ちょっと一回俺の話を聞いてくれ」
「え? う、うん……」
「アリネ。罪のない人間を殺すことは悪いことか?」
普通の人に聞けば、ほとんどの者が悪いと答えるであろうこの質問をするのには大事な意味があった。
「それは、うーん……。分からないけど、悪いことなんじゃないかな?」
「それじゃあ、どうして悪いことなんだ?」
「えー? 難しいこと聞くなぁ……」
アリネは腕を組んでうーんうーんと頭を悩ませながらどうして罪のない人を殺すのが悪いことなのかを考えている。
「そうだなぁ……。悲しむ人がいるからかな? うちも師匠が死んじゃった時悲しかったし」
「なるほど……。じゃあ、次は人の物を盗むことは悪いことか?」
「それは、悪いことじゃないよ。何だって、絵本の中のガンボボ盗賊団だって……」
「ストップ、ストップ!! その話は今はなしにして、俺の質問だけ答えてくれ」
「わ、分かったよ。でも、この質問は何か意味があるの?」
「あぁ、とっても大切なことなんだ」
その後もアリネに対して他人の家を燃やすのは悪いことなのかなど、その行為が悪いことなのかどうかという色々な質問をしてみた。
「なるほど……」
質問に対するアリネの返答から、どうしてアリネが盗賊になったのかが何となくだが分かった気がする。
「アリネ、最後の質問だ。アリネは部下達に村とかを襲うときとかに、なるべく人を殺さない様にって指示を出していないか?」
「うん、出してるよ。それがどうしたの?」
その返答で疑惑が確信に変わった。
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