【15】アリネとの師弟対決-1

 先制攻撃は俺の魔法であった。放たれた石弾ストーンバレッドはアリネに向かって真っすぐ飛んでいくものの、石弾ストーンバレッドはアリネに当たることなく、アリネが座っていたソファーに突き刺さった。


 流石に当たらないか。


 アリネは突き刺さった石弾ストーンバレッドを眺めつつ、驚いた様子でこちらに話しかけてきた。


「へぇ、その年で魔法を使えるなんてすごいんだね」


 完全に舐められている。アリネはどこか余裕そうに口元には笑みを浮かべていた。敵を侮るなとあれほど言ったのにと呆れながら、どうやってアリネを無力化するかを考える。


 下手な魔法は躱されるし、かといって接近戦も……。


 そんなことを考えていた次の瞬間、アリネの姿が消えた。


「……まずい!!」


 突然のことで一瞬思考を止めてしまったが、反応というよりも反射に近い速度で何とか体を捻りながら横に転がった。すると、先程まで俺が立っていた場所を大きな剣が通り過ぎる。あのまま立っていたら、恐らく体が真っ二つ、そうならなかったとしても内臓やら骨やらがやられていたであろう。


 まったく……。俺も敵を侮るななんて人に言えたもんじゃねぇな。


 一瞬でも気を緩めてしまった自分に反省しつつ、体を起こしてアリネの方に向き直した。


「おぉ、すごいね!! まさか避けられるなんて思ってもいなかったよ」


 心の底から戦いを楽しんでいるのか、アリネは楽しそうに笑っている。


 あの時から笑顔は全然変わっていないんだなぁ……。


 アリネの笑顔にどこか懐かしさを感じつつも、このまま戦っていてもただただ押されて負けるため、どうやってアリネを攻略するのか再び考えを巡らせる。


 接近戦はアリネに分がある。かといって、魔法で攻撃したとしても、今の俺だと大した魔法は使えないんだよなぁ……。


 中々攻略方法が思いつかない中でも、アリネの攻撃の手は一向に緩まない。


「ほらほら!! 防御するだけだと勝てないぞ!!」


「くっ……!!」


 俺の身長ほどもある大剣から繰り出される攻撃を盗賊から奪った剣で何とか防ぐ。ただ、武器の格差もさることながら、いくら身体強化ボディエンハンスで強化しているとはいえアリネの方が力が強いようで、敵の攻撃に押されてじりじりと後退することしかできない。


 どうする……!! 何とか距離を取りたいけど……!!


 魔法を使って何とか距離をとるものの、遠距離で攻撃をする前に一瞬にして距離を詰められる。


「右!! 左!! 上!! どうしたどうした!! さっきまでの威勢はどこにいったんだ!!」


「くそっ……!! どんだけ強くなってんだよ……!!」


 アリネはいつでも止めを刺せる状況にありながらも、まるで俺に教えているかのように言葉にしながら攻撃してくる。これではどっちが師匠なのか分からないなと思いながら隙を探っていると、一瞬だけ目を離してしまった。


「しまっ……!!」


 慌てて攻撃に備えようとしたものの間に合わず、大剣がもろに脇腹に直撃して体が吹っ飛ぶ。何かを考える暇もなく壁に思いっきり激突した。


「お!! 今のはいいのはいったなぁ。おーい、大丈夫か?」


 遠くの方からアリネの声が聞こえてくる。意識が飛びそうになりながらも、どうにかして上体起こした。


「痛ってぇ……」


 攻撃を完全に防ぐことはできなかったが、何とか防御魔法を発動させることはできていたため、体が真っ二つということにはならなかった。ただ、あれだけの攻撃を食らって無傷という訳にもいかず、脇腹の大きな傷からは血がダラダラと流れており、衝撃で骨も何本か折れているようだ。


 アリネは追撃してくる様子はなく、俺が起き上がるのを待ってくれているようだ。そのため、まずは自分の回復に努めることにした。


回復ヒール……」


 つい最近覚えた回復魔法を使って自分の傷を癒す。


「へぇ、すごいじゃないか、お前回復魔法も使えるんだな」


 余裕そうに口元に笑みを浮かべているアリネからして、今の自分の姿はどれほど情けないものだろうか。ボーっとする意識の中、アリネの顔をよく見てみると、所々に幼い頃の面影が残っているのに気が付いた。


「こんなに成長してたんだな……。まぁ、12年も経てばアリネが成長しているのは当たり前か……」


 アリネの姿を最後に見たのは12年前、アリネが6歳の時であった。あのアリネがこれほど強くなっていることに嬉しさを覚えつつ、盗賊をやっているという事実に再び悲しくなった。


 これはあまり使いたくなかったけど、やるしかないか……。これ以上、アリネに情けない姿を晒すわけにもいかないからな。


 俺は立ち上がると、アリネの方に向かって歩き出す。


「ようやくか……。どうだ? 多少は回復できたんじゃないか?」


 アリネに怪我をさせないように戦っていたが、そんなことができるほどの実力は今の自分にはない。そう、今の”状態”の自分には……。


「……すまんなアリネ、お前のことを少々見くびっていたようだ」


「はぁ? 何を言って……」


制限開錠アンロックリミット


 その魔法を唱えた瞬間、アリネは地面に突き刺した大剣を両手で握り直して臨戦態勢を取った。どうやら、ここからは真剣勝負になりそうだ。


 自分の体に巻き付いていた鎖が外れていく感覚の中、肩を回したり、足を大きく上げたりしながら軽く体を動かして変化に慣れさせる。


「……よし。いくぞアリネ」


 師弟対決の二回戦目が開始された。

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