【13】盗賊団のボスの正体
洞窟内部は盗賊達が自分たちで掘ったのか、元々何者かによって掘られていたのか、いくつもの分かれ道があったため、道に迷わない様に分かれ道に印をつけながら奥へ奥へと進む。
「それにしても……、誰もいないな」
かなり洞窟内部に入ったと思うのだが、一向に盗賊を見つけられないでいた。洞窟内部には盗賊達が生活をしていると思われる道具や部屋は見つけたものの、肝心の盗賊がおらず状況を掴めないでいる。
「いったいどこにいるんだよ……。もしかして、俺の侵入がバレたか……?」
少しずつ盗賊達の戦力を削っていく作戦であったが、もし俺の侵入に気が付いて態勢を整えていたとしたら、1人で何人もの盗賊を相手にしないといけなくなってしまう。厄介なことになったかもしれないと思いつつ洞窟内を慎重に進んで行く。
「ヨウどうだ? 敵はいそうか?」
「相変わらずおらぬよ。まったく、わらわは犬ではないのだぞ……」
「まぁまぁ、そう言うなって」
ヨウの目は魔力の探知に長けていた。アジト内の物陰などに盗賊が隠れていたとしても、ヨウの能力があれば襲われることは少なくなるため、ヨウを召喚して洞窟内を調べていたのだ。
そんな中、だらんと頭の上に寝っ転がっていたヨウが頭を上げて辺りを見渡し始めた。
「……のう、フェリガンよ。何か聞こえぬか?」
「ん? どこから聞こえてくるんだ?」
「向こうの方じゃ」
そう言ってヨウ指差した方に集中してみるが、特に何かが聞こえてくることは無い。ただ、俺よりもヨウはこういった感覚に鋭い部分があったため、とりあえずヨウの案内の元、音のする方へと向かうことにした。
しばらく歩いていると遠くの方から話し声が聞こえたため、音を立てないようにゆっくりと音の発生源に近づいていく。
「……だ。それに、……」
「ですが……。それと……です」
声のする方に近づいていくと、段々話している内容がハッキリと聞こえてきた。
「だ・か・ら!! どうして、何も取らずに戻ってきたんだって聞いてるんだよ!!」
「あ、姉御ぉ……。先程も説明した通り……」
「あーもう!! 何回言えばいいんだ!! そんな嘘をつくんじゃなくて、本当のことを言え!! ほら、怒らないから!!」
「そ、そうは言っても……」
どうやら姉御と呼ばれる存在が村を襲った時の報告を聞いているようであったが、他の盗賊達同様あまり信じていないみたいだ。
盗賊達に気づかれない様にこっそり部屋の中を覗くと、たくさんの盗賊達が見えた。どうやら、ここに集まっていたようだ。盗賊達の人数を把握して、姉御と呼ばれている人物を見てみようともう少しだけ顔を出して中を確認する。
……あれ? あの顔何処かで……。
姉御と呼ばれている盗賊の顔を見てみたのだが、短めに切り揃えられた燃えるような赤髪、鼻に横一文字の大きな傷、その顔を見た瞬間、頭の中で何かが引っかかった。しばらく、じーっとその顔を見ていると、頭の上に乗っていたヨウが話しかけてくる。
「のう、フェリガンよ。あやつ……、もしかして弟子ではないかえ?」
「弟子? あの姉御とか呼ばれている盗賊がか?」
「そうじゃ。あの者の魂は見たことがある気がするのじゃ」
弟子にあんな子いたっけ……。
弟子達の顔を1人1人思い出してみるも、あのような女性がいた記憶は無い。弟子達の多くはもっと幼い子供達ばかりで、あれほどの大きさの弟子は数名しかいなかった。
……いや待てよ。そうか、あの頃のままじゃないなくて皆成長しているんだ。
自分と同じように弟子達の時間も過ぎているということを思い出す。自分の年齢が12歳ということは、弟子達も12年分の成長をしていることになるため、それを加味したうえで思い出してみることにした。
……まさか、アリネ!? アリネなのか!? いやいや、そんな訳……。
弟子のアリネではないかと疑って盗賊の方を見てみると、どんどんそうとしか思えなくなってくる。成長しているとは言えども、どことなくその顔に面影が残っている。それに、アリネの腕には昔、つまり自分がクレザスだった時にアリネの誕生日にプレゼントした腕輪がしてある。その腕輪は特別に作らせたものであったため、同じものを持っている者は存在しない。
「アリネ……。あんなに大きくなって……」
弟子の成長した姿を見ることができて、感動で胸がいっぱいになってくる。ただ、それと同時に胸が締め付けられるような感覚にも襲われる。そして、その感情が徐々に怒りに変わっていく。
確かに、確かに自分の道を進めとは言ったけど、どうして盗賊なんかになったんだ……!!
「お、お主、大丈夫かえ? ま、まずは落ち着け……」
ヨウが話しかけてくるが、この感情を抑えることができない。成長したアリネの姿に喜び、感動などの感情が生まれ、そして、人々を襲って生活しているアリネに対して、怒り、悲しみという感情が生まれる。色々な感情で頭がごちゃごちゃして考えがまとまらない。
どうして、どうしてなんだアリネ!! 俺は、こんな盗賊になって人々を襲うために育てた訳じゃないぞ!!
感情がとうとう抑えられなくなって飛び出した。
「アリネ!!」
盗賊達が一斉にこちらを向いて俺の存在が気づかれてしまったが、そんなことは関係ない。アリネにどうしてこんなことをしているのか聞かないと気が治まらない。
「あ、姉御!! あいつですよ。あのガキが俺達の邪魔をしたんですよ!!」
「はぁ? お前何を言って……」
「アリネ!! こっちにこい!!」
再びアリネの名前を呼ぶと盗賊達に動揺が走った。俺とアリネを交互に見ており、せわしなく首を動かしている。一度感情を爆発させて行動すると不思議なもんで、先程までの抑えきれないような感情が徐々に落ち着いてきて少しは冷静になることができた。
「ど、どうして、姉御の名前を……」
盗賊達はうろたえている様子であるが、流石は俺の弟子といったところか、特に慌てることなく俺のことを観察しているようだ。
「どうして、うちの名前を知ってるんだ?」
「それは、俺がお前の師匠だからだよ」
そう言うと、アリネはキョトンとした後、急に笑い出した。そして、一通り笑ったかと思うと、今度は冷たい目で俺のことを見つめてくる。
「……うちの師匠は1人だけだ。それを、お前みたいな子供が二度と名乗るんじゃねぇ。……殺すぞ」
すごい殺気だ。よっぽど師匠という言葉が気に食わなかったのであろう。
「アリネ、俺はお前と話がしたい。もう一度だけ言うぞ、こっちにこい」
沈黙が流れる。アリネが一体何を考えているのか分からないが、ただただ俺のことを見つめているだけで特に何かしてくる様子はない。
十数秒が経ち、アリネは大きくため息をついた。
「……何か冷めちまった。うちと話したいんだったら、部下達を倒してからにしな。うちは奥で待ってるからよ」
「待てアリネ!!」
アリネは俺の制止も聞かずに洞窟の奥へと向かう。言葉での説得は無理なようだ。アリネを追いかけようとすると、目の前に盗賊達が立ちふさがる。
「おっと待ちな坊主。姉御の命令だからよ。姉御と話したかったら、俺達を倒してからにしな」
人数的有利があるからなのか、盗賊達は何処かニヤついており、どことなく余裕すら感じた。急いでいることもあって、流石にイライラが込み上げてくる。
「出てこい、ラファイン。サンルフ」
炎のたてがみを持つライオンの姿をした召喚獣ラファイン。バチバチと雷の音を立てながら、毛を逆立たせている狼の姿をした召喚獣のサンルフ。そして、元々召喚していたヨウが俺の前に並ぶ。
「おいおい、どうしたんだよこの状況は」
「相変わらずお前は馬鹿なのだなラファイン」
「あぁ!? 何だとサンルフ!!」
「こやつらを倒せということに決まっている。そうであろう?
ギャーギャーと騒いでいるラファインとサンルフを呆れたように見ているヨウ。何度も見てきた光景だ。
「まったく、うるさい奴らじゃのぉ」
「はぁ!? てめぇこそ何でいるんだよ!!」
「お主らよりも先に召喚されていたからに決まっておるであろう。少しは頭を使え」
相変わらず仲の悪いラファインとサンルフ、そしてヨウであったが、戦いとなったら今の俺が召喚できる中では頼りになる召喚獣だ。
「そこら辺にしておけ。お前らにはこいつらの相手をしてもらいたい」
「それは良いけどよ、あんたはどうすんだ。俺達4人だと少しばかり過剰じゃねぇか?」
「俺はこの先にいる奴に説教をしに行く。お前たちはここにいる盗賊を倒して拘束したら、俺の後を付いてこい。なるべく殺さずに無力化するんだ。いいな?」
そう言うと、3体とも何かを悟ったのか、いつものような砕けた態度を止めて姿勢を正した。
「かしこまりました」
返事を聞いた俺が歩き出すと、3体とも俺の道を開けるかのように盗賊達に襲い掛かる。この3体であれば、ここにいる盗賊達の人数が多いとしても力としては劣らないだろう。
俺は盗賊達を召喚獣の3体に任せることにして、アリネが待っているであろう洞窟の奥へと向かった。
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