【11】盗賊達から情報を聞き出す
村の牢屋。俺は拘束した盗賊達の前で椅子に座っていた。
「で、お前達はどこに住んでいるんだ?」
先ほどから盗賊達の住処を聞き出そうとしているのだが、一向に口を割らない。多少の痛みを与えているのにも関わらず、何一つ喋らない様子を見るからに中々忠誠心は強いようだ。
うーん。
このまま続けたとして、この盗賊達が口を割るとは思えない。そのため、あまり使いたくはなかった奥の手を使うことにした。
「出てこい、タリオン」
魔法陣から現れたのは頭の前後左右にお面をかぶっており、貴族のような服装を身にまとい、右手に大きな本を持っている召喚魔であった。
「おぉ、これはこれはフェリガン様。お呼びいただき、ありがとうございます」
そう言って深く下げた頭を上げたタリオン。そして、タリオンが頭を上げると泣いている女の子のお面が見えるだけで、どんな表情をしているのかは見ることができない。召喚魔は召喚獣や召喚使とはまた違って厄介なところがある。そのため、いくら契約をしているといっても油断はできない存在だ。そして、その中でもタリオンはまだ安全な方なため、契約し直している数少ない契約魔である。
「タリオン。こいつらからアジトの場所を聞き出したいんだけど、できそうか?」
そう尋ねてみると、タリオンは盗賊達の元に歩み寄り、顔をグッと近づけてまじまじと3人のうち手前にいた盗賊の顔を見つめだした。タリオンの異様な姿に、最初は圧倒されている様子であった盗賊達も負けじと睨みつけている。そして、少しのけぞったかと思うと、勢いを付けてタリオンの顔目掛けて頭突きをかました。
おー、勇気あるなぁ。あの盗賊。
そんなことを思いつつタリオンの方を見てみるも、何事も無かったかのようにじーっと盗賊達を見つめているだけであった。その様子に恐怖を感じたのか盗賊達の顔は引きつっており、それ以上何かをすることは無く大人しくしていた。
「ふむふむ、フェリガン様。この者達であれば問題なくできるかと思います」
「……本当だな?」
「はい、私タリオン。フェリガン様に一切の嘘はついていないと誓います」
そう言いつつ胸に手を置くタリオン。
……まぁ、今は信じるしかないか。
一見すると礼儀正しい召喚魔ほど油断ならない。召喚主に対して粗暴な態度の召喚魔の方がまだ単純で扱いやすいのだが、こういった礼儀正しい召喚魔は何を考えて、何を企んでいるのか分からないため注意をしなくてはならい。
「分かった。それじゃあ、さっそく始めてくれ。俺が知りたいのはここに来た目的、それとどこをアジトにしているのか、後は盗賊団の規模だ」
「かしこまりました。それでは……」
タリオンは盗賊の頭に左手を乗せる。
「ではまず初めに、あなた方がここに来た目的は何ですか?」
タリオンがそう尋ねると、盗賊は馬鹿にしたように鼻で笑った。ただ、タリオンはそんなことを気にする様子もなく、続けてアジトの場所と盗賊団の規模について質問していく。
「ふむふむ。なるほど、なるほど……」
盗賊は頭に乗っている手をどかそうともがいているが、タリオンは盗賊の頭から手を離すことなく何やらブツブツと呟いている。そして、右手に持っていた大きな本を宙に浮かせて何やら書き込んでいる。
タリオンの能力は他者の思考を読むことであった。どれだけ質問とは別のことを考えたとしても、記憶の奥深くに存在する本当の情報を隠しておくことはその情報を完全に忘れてしまうこと以外にはできない。そのため、いくら他のことを思い浮かべようとタリオンの前では無意味なのだ。
相変わらずすごい能力だよな……。まぁ、対処できない訳じゃないから万能って訳ではないんだけど……。
そんなことを考えながらタリオンが情報を読み取るのを待っていると、タリオンは盗賊の頭から手を離してこちらに歩いてくる。
「お待たせしました。こちらが今回読み取った情報です」
そう言ってタリオンは本の差し出してきたため、それを受け取って書いてある内容を読む。
……まぁ、ある程度は予想していたけど、まさか本当に森の中にアジトがあったなんてなぁ。
その本に書かれていることはタリオンが盗賊から読み取った情報である。その情報によると、盗賊達が村を襲った理由は金品や食料を手に入れるためであり、アジトは今朝俺がいた森の奥深くにあるのだという。タリオンの本にはアジトまでの道のりや目印などが丁寧に書かれており、盗賊団の規模は30名ほどとのことだ。
「なるほどね。道理で最近魔物達が森から出てきていたわけだ」
恐らく、盗賊団が森で魔物を狩りに狩りまくったことで、食料が無くなってしまった魔物が食料を探すために、森を出て村まで来たのだろう。情報を持ってきていた紙に映し直して、本をタリオンに返した。
「よし、タリオンありがとう。戻ってもいいよ」
「お別れの時間が来てしまったのは残念ですが、フェリガン様のお役に立てたようで良かったです。また私の存在が必要になりましたらいつでもお呼びください」
そう言ってスーッと消えるタリオン。タリオンの能力は1か月に3つの質問までしか使用できないため、次呼ぶ機会があったとしても、早くて1ヶ月後だろう。
牢屋の鍵をかけて外に出てみると、既に辺りは赤みがかった夕日が村を包んでいた。焼けてしまった村の建物や怪我人達のことが気になったため、一旦家に戻った後、村を回りながら村長を探すことにした。
「これは……、酷いもんだなぁ……」
村の中では焼けてしまった建物が目立っていたが、ウォネークのおかげもあってか被害は最小限で抑えられている。それに、幸いなことに村人達に怪我人はいたものの、亡くなってしまった者はいなかった。村人達の怪我の状態を見るに、明らかに致命傷を避けるようにされており、恐らくだが盗賊達に殺意は無かったのかもしれない。
そんな村の現状を
「村長ー!!」
「おぉ、フェリガン!! どうじゃった? 盗賊達は情報を吐いたか?」
「はい。どうやら、盗賊達が村を襲ったのは金品や食料が目的だったようで、アジトは森の中にあるみたいです」
「そうか……。それで、盗賊達の人数はどれぐらいかは分かったか?」
「盗賊達の数はおよそ30人です」
「30人……」
その数字を聞いた村長は、苦しそうに顔をゆがめた。
村を襲ってきた10人の盗賊でさえも、村は壊滅的な状況に追い込まれた。恐らく、俺がいなかったら何もできずに村の金品や食料は奪われていただろう。そのため、その3倍もの盗賊がいると聞いて村長が顔を歪めるのは当然のことであった。
確かに俺がいればこの村を守り切ることはできるかもしれない。ただ、その度に村が焼かれてしまっては被害がとんでもないものになってしまう。そのため、守りではなく攻めに出ることにした。
「村長。俺はこれから盗賊団のアジトを叩きに行きます」
「何を言っておるんだ……。もしお前が殺されたりなどしたら……」
「村長!! 今盗賊団を叩いておかないと、後々面倒なことになります。それに、もし今30人の盗賊達に村が襲われたら、俺だとしても村の者達を全員守り切れません」
1人1人であれば問題ないであろうが、まだ見ていない20人の実力も分からない上に、30人同時に村を襲われたら、いくら召喚魔法が使えるといっても圧倒的に手が足りない。そのため、追ってくると考えていないであろう今盗賊団のアジトを叩いておく必要があった。
「お願いします。これ以上被害を出さないためにも……」
村長は俺のことはもちろん、村のことも考えてアジトを叩くのを渋っているのだと思う。俺がもしやられてしまったら、この村の戦力はグッと減ってしまう上に、村人達に魔法やスキルを教える者がいなくなってしまうのだ。村のことを考えるとすぐに了承はできないのであろう。
村長はしばらく俺の顔をジッと見つめた後、はぁ、とため息をついた。
「……分かった」
「じゃあ……!!」
「ただし!!」
俺の言葉を遮った村長は俺の肩に両手を置き、
「必ず、戻ってくるんじゃぞ……」
真っすぐの俺の目を見つめてくる。
「はい!!」
力強く返事をして俺は村を後にした。
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