ガンボボ盗賊団
【10】襲撃者
村人達が魔物を狩れるようになってからというもの、得られる肉によって食糧の面で、素材などは街で売ることによって経済の面で村も安定していた。
そういう事情から村では狩り当番を交代で務めて定期的に魔物狩りを行っている。そして、今日はちびっ子武闘会の準備や片づけで疲れているだろうと、狩りの当番ではなかったのだが当番を代わって村の近くにある森に来ていた。
「あと数体狩ってから戻ろうかな」
血抜きと解体を行いながら他にも獲物がいないかと辺りを見渡していると、遠くの方で煙が上がっているのが見えた。
「何だ? あの煙……、しかもあの方角って……」
煙が上がっているのは村の方角だった。さらに、ここから見える煙の大きさからしても村から上がっている可能性が高い。
何かを燃やす予定とかってあったかな? あの煙の量だとかなり燃やしているみたいだけど……。
村の予定や村人達が話していたことを思い返してみるも、どう考えても何かを大量に燃やすといった話は思い出せない。何か嫌な予感を感じた俺は、とりあえず死体をそのままにしておいて早々に引き上げると村に急いで戻ることにした。
村に戻るにつれて煙がどんどん大きくなり、その煙の数も増えている。明らかに火元が増えているのが見て取れる。
「おいおい……、まじかよ……」
村の入り口にたどり着くと、そこには信じられない光景が広がっていた。燃え盛る村、民家などの建物からは火の手が上がっており、村の至る所では村人達が倒れている。
その状況に思わず茫然としてしまったが、このままでは駄目だと急いで召喚魔法を発動した。魔法陣から現れたのは、水色の体をした1mほどの蛇の姿をした召喚獣のウォネーク。水に
「む。この状況は……」
辺りを見渡しているウォネークの顔を掴んで自分の方を向かせる。
「ウォネーク!! 消火しながら村を回ってくれ!!」
「それはどういう……、おい!! どこに行くのだ!!」
ウォネークが呼び止める声が聞こえるが、それを無視して村の中へと入っていく。賢いウォネークであれば、すぐにこの状況を把握して消火活動を始めてくれるだろうから、細かい説明は抜きにして今はとにかく村人達の状況を確認しておきたかった。
倒れている村人達がいるものの1人1人を治療していたらどんどん被害が広まってしまう、そのためまずはこの騒ぎの原因を解決しなくてはと考えて村の中に入っていく。すると、村人達が集まっているのが見えたためそちらに駆け寄る。
「皆!! 状況は!?」
「おぉ!! フェリガン来てくれたか!!」
「ちょちょ、落ち着いてください!! すぐにいかないといけないので、まずは教えてください!! 襲ってきたのはなんですか?」
抱き着いてきた村人をはがして、村人の両肩を掴んだ。
「あ、あぁ、すまん。襲ってきたのは、盗賊だ」
「盗賊!? 魔物じゃなくて盗賊だったんですか?」
「あぁ、俺が聞いたわけじゃないが、他の奴がガンボボ盗賊団って名乗ってるのを聞いたんだとよ」
魔物じゃなくて盗賊だったのか……。
村人達にスキルや魔法を教えているからこそ分かるのだが、この村の防衛能力は決して低くはなく、下手したら小さな街といっても申し分ないほどの防衛能力を持っていた。そのため、そこら辺の盗賊レベルであれば問題なく撃退できると考えていたこともあって、村を襲ったのが魔物ではなく盗賊だと聞いて驚いた。
「……分かりました。俺は今から盗賊達を倒しに行きますので、皆さんはここに待機しておいてください」
「待機なのか? フェリガンは一緒にいてくれないのか?」
確かに戦う能力のない村人達をこの場に置いておくのは危険かと思って、ヨウを召喚することにした。初めてヨウの姿を見た村人達は驚いていたが、敵ではないこと、皆を守ってくれる存在だということを伝える。そして、ウォネークの存在と特徴も話して、村の消火活動を行っているため危険ではないことを伝える。
「ヨウ皆を守ってくれ。頼んだぞ」
「はいはい。分かったから早くいくのじゃ」
いくら弱くなっているヨウといえども、盗賊数人であれば対処できる。この場をヨウに任せて盗賊達を村から追い出すために、この場を離れることにした。
村の中央にいくにつれて倒れている村人達が増える。その中には戦う能力が無い者もいれば、村の防衛を担当するような戦う能力がある者も混じっている。今すぐ助けられないことに歯がゆさを感じながらも、この原因を取り除くために走っていると戦っている者達が見えた。
すぐに戦闘に加わるのではなく、敵がこちらの存在に気が付いていない状況を活かすために、まずは建物の陰に隠れて敵を観察することにした。
「1、2、3……、10人か。中々やるみたいだな……」
盗賊が10人に対して村人達は14人で戦っている。人数で勝っているとはいえ村人側が押されている理由は、盗賊達もスキルや魔法を駆使して戦っているからであろう。実力的にはそれほど差は無さそうだが、対人戦の経験の差が
大体の実力を測ることができたため、いよいよ奇襲をかけることにした。範囲攻撃の魔法を準備する。このまま発動させると村の人達にも被害が及ぶ可能性があるため、盗賊達と村の人達がいい感じに分かれる瞬間を待った。
……今だ!!
盗賊と村人がきれいに分かれたタイミングで建物の陰から飛び出して駆け寄りながら、魔法を発動させる。
「
打ち上げられた炎の球は放物線を描いて盗賊達の元へと飛んで行く。その速度は決して速いとは言えないが、こちらの存在に気が付いていない盗賊達にはこれでも十分だ。
炎の球が盗賊達の後ろの地面に落ちた瞬間、炎をまとった竜巻が盗賊達を襲う。意識外からの攻撃により盗賊達、そして村人達までもが意味が分からないといった様子でうろたえている。全員の意識がその魔法に向いた。一瞬の隙ではあるが、その一瞬の隙が戦場では命取りになる。
「
再び意識外からの攻撃になすすべがない盗賊達。わざわざ速度の遅い
「皆!! このまま一気に片づけるぞ!!」
俺の存在に気が付いた村人達は水を得た魚のように元気になり、一気に形勢を逆転することに成功した。その後の戦闘は一方的なもので、ものの数分で決着がつく。
「助かったぜフェリガン!!」
「まじでダメかと思った……」
戦いを終えて一息ついている村人達であったが、まだすべて終わったわけではない。俺は、村人達に回復魔法をかけつつ、怪我人の救助や消火活動をするように指示を出した。
「分かったけどよ……、フェリガン、お前はどうするんだ?」
「俺は、こいつらの処理をしてから向かうので、先に行っておいてください」
そう言って捕らえた盗賊達を指差す。
「あー、殺すなよ? 一応そういったことは村長が決めることになってるから……」
「はい。大丈夫ですよ。ちょっと話を聞くだけなので」
村人達が救助と消火のために離れていくのを見送った後、捕らえた盗賊達を見る。何人かには逃げられてしまったが、3人も捕らえられたため情報を聞き出すためには十分であった。
「……さぁて、始めますか」
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