第8話:準備をしよう

 さてさて、時間と場所が変わって俺の自宅。

 時刻は午後11:00となった。

 日付はさらに3日が経って木曜日だ。

 しかし、家というのはやっぱり落ち着くな。

 特に、夜の人の声すらしないこの時間は良い。


「ふぅー……」


 この一週間、今まで以上に多忙だった。

 めったにクラスの奴らとは話さないように振舞っていたというのに、あの自称巫女が先週の夜の儀式に殴りこんできたことで俺の周りの人間関係が少し変わってしまった。


 俺と全く話すことのない奴からも昨日は話しかけられた。

 内容はあの自称巫女の話がメインだったのだが。

 どうやら自称巫女は、ほどほど学校内の(特に同学年)有名人のようなのだ。

 確かに、この小説のヒロイン顔というだけあってかわいらしい外見ではある。


 小柄なボディで小動物のように懐いてくる様子を見ると「かわいい」という言葉がしっくりとくる。

 それはもう「○○クラスにこんなかわいい女子がいる」といった具合に話が広がっていったのだろう。


 俺はかわいいとは一切思わない。


 とりあえず、俺が自称巫女に提案した協力の全貌について話す必要があるだろう。

 いや、その前になぜこの話をするために3日と時間が空いてしまった経緯を順々に

説明したほうが都合がいいのか。


 理由はどうってことはない。今、これから俺がやろうとしている"あること"の準備に時間がかかったからだ。

 なんといったって、情報もなければ材料もないのだから準備にも時間がかかって仕方がなかった。

 だが、これはこれで好都合だったかもしれない。

 あの自称巫女が俺のこの数日の行動で察して勝手に除霊だ除霊だと暴れまわっても不都合だった。

 即座に行動に移してしまえば、それはそれで「俺が悪魔である説」あるいは「俺が悪魔と内通している説」が自称巫女の中で上がる可能性もあったからな。


 この時点で勘の鋭い読者なら、もうわかるかもしれないが俺がしようとしているのは「悪魔の召喚」だ。

 俺の本業をここで見せておかないといけない。

 召喚する悪魔の全容はまだ教えなくてもいいだろう。


 そして、俺が自称巫女に提案したことは


「ミキちゃんに霊の存在を信じさせよう」


 といった具合のものだ。

 改めてこの3日の間に起こったことを軽く説明しようか。


 もちろん霊はいないし、騒動の一件たりとも全く起こっていない。

 なら話は余計に簡単で、俺が悪魔を使って騒動を起こせばよかろう。


 それも学校中に蔓延するウィルスのようなものではなく、ある特定の人物にのみかかるようなピンポイントな霊障を起こす。

 そのためには対象の人物のありとあらゆる情報が必要になるため、こうやって3日と時間がかかってしまった。


 その人物とはもちろん"ミキちゃん"。


 本名"相澤あいざわ 未希みき"である。


 召喚にはその対象の名前、肉親、血、そして毛髪が必要になるのだ。

 名前は名簿を、肉親は先生に聞けばあっさりと教えてくれたため問題なかった。

 毛髪もホロリと落ちたものを回収しておいた。

 その光景を誰にも見つかってないといいのだが。


 見つかっていたら色々とヤバイ、マジで。


 ただでさえ先生に"相澤 未希"の親御さんと少しお話がしたいなんて明らかに怪しい名目で、名前を担任から聞き出したから、何かを疑われる危険性が増しているというのに。


 そして召喚の条件のレパートリーを見るとわかると思うが、『血』の採集が困難を極めた。

 これだけはどんなに待ってもタラリと簡単に流れるものではない。

 だが、今日の数学の授業で偶然にも紙で手を切ってくれたのだ。

 すかさず、俺が紳士的に「大丈夫かい」とティッシュを差し出した。


 "相澤 未希"は俺の対応に「ありがとう」と礼を言ってきた。


 悪いがそれはこっちのセリフなのだよ、グヘヘ。

 ティッシュはスタッフ(俺)が回収しましたヨ(^ω^)。


 ……やめよう。清廉なオトコ主人公のセリフではない。


 そして、自称巫女にももちろん頼みごとをしている。

 お化け騒動がどんどんと広がっていると"相澤 未希"を含む自分を疑っている人物を中心に伝えるようにお願いをした。

 霊というのは「いる」と認識してやっと存在できるなんとも華奢な連中だ。


 ……というのが一般的な常識だ。

 俺に限ってはイレギュラー。

 悪魔に人の「常識」は通用しない。


 認識なくとも霊障なんていくらでも起こす。


 だから相澤にはいやでも霊に対する意識を持ってもらう。

 その心の弱いところを狙って霊が憑依したことにする。

 そっちのほうが今後の言い訳が楽になるんじゃないか、という考えだ。


 これで何が起こるかというと、今まで霊の存在を否定してきた奴らに勧告ができる。


 ……というのが3割ほど。

 残りの7割は完全に俺がむしゃくしゃしたからである。

 感情丸出しの相澤に対する「嫌がらせ」だ。


 これで、ここ数日の俺の行動を全て話した。

 これだけ話すのに1600字近くも使ってしまった。

 一話2000字ちょっとしかないこの小説ではもったいなすぎる。


 いつものメタ発言であるがいつもどうりスルーの方向で行く。

 ではこれから儀式を始めようと思う。


 バックからミコンを取り出しページを開く。

 そこに付属品の羽ペンで「相澤 未希」と書く。

 そしてその隣に相澤の父親と母親を追記する。

 それも、日本語ではない独特な言語で。

 羽ペンをコミック雑誌のおまけのような扱いをしたが、俺自身も本当のことだと思っているから言及はしない。


 そして事前に床に書いておいた魔法陣の真ん中に相澤の髪の毛が入った茶封筒と、今日回収した血の付いたティッシュを置く。


 これで準備は完了。

 あとは前の金曜日同様ミコンに手を当て、呪文を唱えるだけだ。


「*************」


 陣が光り始める。自分の部屋でやっているため、体育館のように壮大には光らなく、実に小規模なものだが十分だろう。


 魔法陣の真ん中に置いてあった茶封筒とティッシュが燃えるように消えた。


 ……成功したようだ。


「"憑依召喚・メア"」


 そう唱えたとともに部屋の床一杯に書いてあった魔法陣は消え、俺の部屋は

いつもどおりの風景になった。

 今回は、悪魔が現実世界に顕現するような召喚ではない。

 今しがた召喚した悪魔は、目の前にもいない。

 すでに相澤のものにいるはずだ。


 さーてと、やることはこれで完璧に終わったわけではないがほぼ終わった。

 明日に備えて今日はぐっすりと寝るとしようか。

 俺がで悪魔だったとしても疲れはもちろん現れる。

 夜のほうが元気だとしても睡魔にも襲われる。


 明日は先週の金曜日よりも忙しくなる予感がぷんぷんとする。

 ということで、続きはまた明日話すとしよう。


 ……あぁ、時計の時刻は12:44だった。


 おっと、もうじゃないか。

 これは失敬。


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