ダメな巫女娘に悪魔の加護を。

琴吹風遠-ことぶきかざね

はじまりはじまり

ゼロにはゼロの良さがある

第1話:プロローグを言おう

 学校のチャイムが昼の終わりを告げる。


 昨日も同じ時間に同じように、おとといも同じ時間に同じように。


 いつかイレギュラーなことはないのだろうか。

 そんな夢にも満たないことばかりを考える。

 呆れた日の繰り返しだった。


 これから教室にはどんな時でもけだるく「うーい」と返事をする教師、佐々木が来る。次の授業は確か保健体育だったはず。

 たしか、授業内容は予定だと「男と女のアレとコレ」だった。

 思う人にとってはメインディッシュにも思える「理想の保健体育」だろう。


 だが、男子生徒待望のラッキーな授業だと考えるが普通だが、実のとこ俺にとってはまったくそんなことない。


 理由はとくにその佐々木が柔道部の顧問をやっていて無駄に厳しいとか、主観的なものでもない。


 男だけでなく学校イチの超絶美人が同じクラスにいて男だけで「ウホホーイ!!」と猿のオタケビを上げることに気が引けるという客観的なものでもない。


 俺がいるこの場所「私立英嶺高校」は確かに男女共学であり男女の関りがないわけでもない。


 もっと個人的な事情でこの授業内容に興味がないのだ。


 はっきり言うと、俺は「人」であって「人ではない」からだ。

 「半人半魔」と呼ばれる『人』と『魔』のハーフなのだ。


 この俺に一体何があったかを話し出すとずいぶんと字数・・を食うためここは省かせてもらうが……


 とりあえず、この授業が興味の範疇の外にあるわけなのだ。

 それどころか、悪魔である俺は(いや、厳密には半分は人ではあるが……)人との関わり、恋愛、そして今回の保健体育の内容である「男と女のアレとコレ」に興味がない以前に、初めからニンゲン自体と関わらないようにしている。


 『美女と野獣』は現実には存在しない。


 おっと失礼、自己紹介を忘れていた。


 俺の名は"神前こうさき 滉樹こうき"という。


 "こう・こう"と同じ発音が繰り返される不思議な名前ではあるが我慢してくれ。

 見てくれだけは普通に高校1年ではあるが年齢が普通ではない。


 もう自分が何年ほど生きてるかを覚えてすらいないのだ。

 かれこれ30年は生きていると思う。

 そこの話もまた長くなるから省かせてもらおう。

 ようは学校生活は自分の体質の関係でニンゲンと関わらずに送っているのだ。


 ……つまりぼっちである。


 そこはどうでもいい。


 今は外でもぼんやりと眺めながら俺は"ニンゲン"の男女関係について勉強する。

 今日はなぜかは知らないが早めに学校が終わるらしい。この授業を切り抜ければあとは自由の身ってもの。


 さてと、放課後の予定としては…………

 あまり言うべきではないが、家にでも帰ったらとある儀式を行う。

 その儀式が何なのかも、ここではあえて省かせてもらおう。


 そんなご丁寧にプロローグにがっちり書く必要ない。実際に儀式のときに説明したらよいのだよ。


 まぁまぁ、メタ発言はさてとおき、授業がもうそろそろ終わる。

 空を見ていたらあっという間だな。

 とっとと帰って放課後の予定を終わらせたい。

 その一心で、終了の鐘とともに立ち上がった。


 ……が、そううまくいかなかった。

 帰る直前、いきなり先生に呼び出されたのだ。


 なにか品行方正ひんこうほうせいに反する不祥事でもしたのか?

 そう思ったが、人間関係自体が欠片とない俺にとってはそれはあり得なかった。


 悲しくも。


 ……いや、悲しくはないな……うん。


 そして、その呼びだしの内容は単純で「日直当番の放棄」であった。

 はい、俺のミスです。忘れてましたとも、ええ。

 しかも、今日に限って尋常じゃない量の仕事を任された。

 明日のプリントの用意、流し台の掃除、先生との二者面談、そしてクラスの様子トーク。

 これらがすべて終わるころには正直、帰ってから儀式を行う元気などとっくになかった。


 ならどうするか……


 学校でやろうじゃないか。


 別に、自宅でなくてはならないわけではない。

 自宅を選ぶ理由もただ単に誰もいないからだ。


 さて、先生も帰った。

 学校には俺ただ一人。

 時刻は20:48。


 静かだ。

 そして、体育館はさらに静かだ。


 もしかしたら、自宅よりもこれは隠密性があるかもしれない。


 そうとも感じられる素晴らしい静寂だ。


 体育館の床に教室から盗んできたチョークで丁寧に大きく魔法陣を描いていく。


「すーっ……ふぅ…………よし……」


 そうつぶやき、カバンから本を取り出す。

 この本は決して教科書のようなものではない。

 俗に言うと「ミコン(悪魔の手帳)」だ。


 それを左手に、右手はそっとミコンの上に、足は体育館の巨大な陣の上に。


 あとは、呪文を唱えるだけだ。

 また軽くため息をして口をひらく。


「**********************」


 人の言葉では発音もできない言葉が静かだった体育館中に響き渡る。


 魔法陣はじょじょに青く淡い光を放ち始める。


 そして……


「そこまでだーーーーーーっ!!!!! この、悪魔めえぇーーっ!!」


 その言葉は俺のまじないよりもとどろき、俺を魔法陣の放つ青い光よりも青ざめさせた。


 この時点で分かることは学校は別に隠密性に優れていないということ。


 そして、このセリフを発した女を俺は偶然にも知っていることだった。


 しかしこれは俺の30年を超える長い日常の終わりと、これからの長いイレギュラーな日々の始まりに過ぎなかった。


__さぁ、俺の悪魔のような、悪魔の青春を始めようか__

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