あなたはそう言うけれど

食連星

第1話

穏やかな日常は爆弾だ。

抱え込んだまま生きられたら。

維持する事で,幸せが続く.

見せかけでも.


『どんなご関係ですか?』

わっ.

目を見開きながら,隣の友だちをなだらかに見上げる.

どうしよメディアだ.

口も開いてたかも.

「私は好きなんですけど,

この子は,ただの友人だと思ってるようです.」

へっ!?

『だそうですけど,どうですか?』

どうですか?

向けられたマイクが.

向けられた視線が.

向けられたカメラが.

口をほわんと開けながら,上の方を丸を描くように見えてない目を動かす.

質問者の顔見て,またパチッと目を開けたり閉じたりしながら,

見る.隣を.

「えー…」

あー…

ん?

「えっ何でマイク向けられてるんでしたっけ.」

『街頭インタビューで,カバンの必需品はって

質問を投げかけています.

皆さんに.』

にこにこ笑うレポーターの顔が,笑ってるのか分からなくなった.

「カバンっ

カバンだって.

ニコ.」

焦って言葉を出す.

腕をぺちぺちしながら。ニコの。

「痛い痛い。

いっちゃん.

今日,カバンは持たなくていいかって.

スマホだけじゃん.」

ニコが,のんびり言う.

あぁそうだった.

近所のコンビニまでだから,いいかって.

鍵もニコが持ってくれてる.

「カバンの必需品ですか?

皆さんと大体一緒ですよ~.

あっあれは私だけかもしれないですね.」

ぴょんと気が付いたニコが,

にまにま笑った.

本当に嬉しい時だ,あれ.

「何?」

「香り。」

目の前で顔にしゅっと吹きかけた。

おっと大丈夫。

私、反応出来て目を閉じられた。

う~ん。

「ニコの香り~。

これ好き~。」


「いっちゃんにまたたび。

私これつけると、いっちゃんから

好き好きして貰えるんですよねっ。」

レポーターと

カメラと

「ねっ」

私に向けて得意気な顔をした。

においが好きだなんて言えなくなった。

口元だけ笑って目が泳ぐ。

「わ…

私…アイス買いに来た」

んだった。

「だよね。

も~私ら行きます~。

それじゃっ。」

突撃までニコの腕に巻き付いてたのに。

私の手。

何だか気軽に距離詰められなくなった。


「やばい、あれ何処の局?」

まずい変な格好だ。

上の下も柄合わせだ。

「全国、朝だね、あれは。」

「何で、あんな事言ったの~!?

冗談マジキツ。

まじできついって。」

「こっちも、まじのまじだから。」

へ!?

「決意表明。」

うふうふ笑いながら、手が巻き付いてきて、

腕が自分のではないみたい。

着せ替え人形の可動域感じるみたいな動き。

着せ替える時に凄い角度で入れ込んでた事思い出した。

いつも腕持ってた私と

いつも腕持たれてた相手と。

逆になって意識すると、

もうよく分からない。

「ニコ」

「なぁに?」

「いつも腕重たくなかった?」

「何で?

触れ合えるって幸せじゃない?」

うんって…

今うんって言わなくちゃいけないはずなのに。

おかしいぞ。

重たい。

心の荷重が凄い。

あははって笑ったけど、ニコは多分お見通しだ。

ニコが笑って気を取り直した所も確認して、

尚うんと出してこられないのは。

でも、手を離したりはしないニコの事も知ってる。


ふわぁ中涼しい。

同じ動きでコーナー前へ。

ニコ気遣いながら付いて歩く。

「いつものいく?

半分こする?」

ニコが上から覗いてる。

半分この気分じゃなかった。

「今日、ちょっこの気分。」

「いっちゃん、チョコいく?

どれ?」

「あれ。」

「これ?」

「それ。」

うん。

店に入って自然と離れた手に注目しながら、

上の空で選んだチョコアイスは、どうでも良かった。

寧ろ私はアイスを買いに、

目的として来てんだろうかって。


いそいそ食べようとする。

店出て、ぼんやりと。

急いで帰って食べる道もあった。

帰路は手と腕を考える事を避けたかった。

暑い日差しと

落ち着かない気持ちと

溶けていく心。

だったら良かったのかもしれないけど

アイス蕩けていく。

ぽたぽたチョコが手に零れて、

見てたニコがペロッと舐めた。

ひゃ

声が出て上目遣いにニコが笑う。

私、これをニコにした。

どんな気持ちでニコは受け止めたのかな。


「同じ味。

がするかと思ったけど違う。」

ニコが笑う。

「どんな味?」

「いっちゃんの味。」

あ…

同じ事言った気がする。

言われて気が付く。

女の子同士なんだから、いいじゃんって

ニコは言わなかった。

言わなかった。


もう、だいぶアイスは諦め気味に食べてた。

自分の分は自分で払ったからお勉強代だ。


「ニコ、」

「何」

「今から話すからっ」

「うん。」

「けーくんとくっつけてくれたよね。」

そうだよニコが私とけーくん繋げてくれた。

別れたけど。

「いっちゃん可愛かったねー」

ニコが笑う。

「別れさせたのも私。」

ニコが真顔で言った。

え…

「んーん、けーくんと私は終わりの方

惰性だったから。

ニコは関係無い。」

好きなとこ探さないといけないのに

嫌なとこ集め始めてた。

多分お互いに。

好きだったのに分からなくなってた。

「ニコ全部知ってるでしょ」

相談も愚痴も出来事も全部全部ニコに入れ込んだ。

始めから終わりまでドラマの様に。


「にこさん、どうしてくっつけてくれたの?」

「いちかさん、好きだって言ってたから。」

「いちかさんって呼ばないで」

「にこさんって呼ぶから」

「にこっにこって呼ぶからっ」












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あなたはそう言うけれど 食連星 @kakumi

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