現代で魔法が使えてしまった男子高生の話
羽消しゴム
厨二病共が夢の跡
「ちちんぷいぷいアバダ○タブラッ!・・・・・・はぁ、これもだめか」
暗く閉じきった部屋。時計の針は既に2時の方向を指しているが、唯一の光源であるパソコンに向かっている美少年───そう、僕である。
スーパーのマダム達にお菓子や飴ちゃんをたくさん貰えてしまうほどの顔面偏差値を誇る僕である。
そして、こんな時間に起きてまで“
そう確信したのはとある夜、雨が窓を強くうちつける夜中にふざけて、昔やっていたゲームのキャラが使える技の一つ、『サンダーエレクトロ』を唱えた・・・・・・その刹那、轟音が辺りを支配した。
何事かと思えば、僕の家の目の前に雷が落ちてきたんだ。しかも家に当たるギリギリの距離で。
僕は
魔法使えるんじゃない?───と。
それからは簡単だ。電子書籍やアニメ、古本屋に置かれた怪しい本や、メル○リに売っていた呪物などそれらしきもの買い漁り、魔法の探究を進めた。
結果、進展ゼロ。
お金が尽きただけである。
ちなみに魔法が使えることを母さんに話したら、「もうそろそろで発病しそうと思ってたら、まさか本当に来るなんて」と何故か恥ずかしそうに顔を赤くして、何かを呟いていた。
その反応に思わず、まさか母さんも魔法使えるの?と聞いた時には「馬鹿なこと言わないで宿題しなさい」と怒られてしまった。
まぁ、美少年の僕にかかればすぐに終わったんだけどねっ!
ちなみに答えがあっているかどうかは視野に入れてない。ともかく答えを書いて時間短縮するのが一番だ。
そんな僕が最後に頼ったのはインターネットの海だ。
あらゆる検索をかけて、魔法に関することを調べている真っ最中だ。でも正直、インターネットなんて変な情報しかないからあんまり頼りたくはなかったんだけどね。
そういえば調べている途中で中二病っていう謎の単語を見つけたんだけど、あれは一体なんだったのか気になる。来年で中三になるけど、もしかして中二限定で発病する病気のことなんだろうか。
───怖いから調べるのはやめておこう。なんかいやな気がするし。
中二病という謎の単語に恐れ戦きながら、カタカタとキーボードをタイプする。けど出てくるのは信憑性の無い情報と、いかにも怪しいサイトに繋がってますよといった釣る気満々のURLばかり。
同じく魔法を使える人を探してはみたが、全部ウソかホントか分からないようなものしかない。
「・・・・・・潮時かなぁ」
眠気覚ましの微糖缶コーヒーを片手に、目に優しくないパソコンのモニターを見つめる。
薄々分かってはいたけど───この世に魔法なんてものはないらしい。僕が起こした雷も、母さんに聞けば避雷針を家の近くに置いていたから、きっとそれが原因だって言われてしまった。
僕は言い返そうとしたけど、辞めた。
納得した自分がいたからだ。
それなのに僕が今こうして魔法の探求をしているのも、言わば母さんに言われたことへの否定に近いのかもしれない。
あの雷が避雷針で起こった雷なんかじゃない、魔法は存在する、っていう現実逃避だ。
つまり僕は今、時間を無駄にして現実逃避をしている。
・・・・・・なんだろう、めっちゃ虚しい。
「あーあ、ほんとに魔法だと思ってたんだけどなぁ・・・・・・」
雷の件から2週間たった現在でも、何度か魔法を使おうとしたことはある。アレコレ模索して、何度も何度も発動させようとしたんだ。
けどダメだった。
何をしてもダメだった。
そうなれば、いい加減諦めもつくだろう。あれは偶然だったと。
でもまぁ、変な黒歴史にならずに済んで良かったと思う。いや、そう思うことにした。
「はぁ・・・・・・いつまでも落ち込んでても仕方ないし、さっさと寝よっと」
開いていたパソコンを閉じ、ベッドに腰かける。
窓から見える景色は真っ暗だが、雲ひとつない夜空が星を綺麗に写していた。
まだ心はモヤモヤとしているが、空を見ていれば幾分かマシだ。
「綺麗な空だなぁ・・・・・・こんな時にいきなり“雷”が落ちたら、ちゃんと魔法が存在してるって言えるのになぁ」
まぁ、雲ひとつない空からいきなり雷が落ちるなんてことは無いと思うけどね。そんな青天の霹靂じみたことは起きるわけないし。
だとしてもちょっとだけ、また雷が落ちないかなって思ってしまうのは、僕の往生際が悪いせいかな。
窓の外は相も変わらず綺麗な星空を写していて、周りの家の明かりはほとんど付いていない。妖しく光る月がただ照らしてるだけ。
なんだか、自分がとってもちっぽけな存在に思えてきた・・・・・・なんだか悔しい。
折角なら最後に何か唱えてやろ。
そういえば、言葉を繋げて呪文のように唱えることを詠唱って言うんだっけ?正直、今までアニメとかあんまり見てこなかったから、サブカルチャーの知識は少ない方だとは思う。
これもあんまり期待はしてないし、正直口に出すのは恥ずかしかったからなかなか出来ずにいた。
でも最後だし、いいよね。
「雷よ・・・・・・落ちろ?」
特にいい詠唱が思い浮かばずに疑問形になってしまったのはご愛嬌。
僕が真っ暗夜空に、詠唱モドキの言葉を紡いだ。
「・・・・・・・・・。やっぱりだめかぁ」
窓の外の景色は変わらない。
やっぱり前の雷は偶然だったようだ。
僕は落胆する気持ちを抑えきれずにいそいそとベッドの中に潜り込む。明日は普通に学校だから、今の時間に寝たら授業中に寝てしまうのは免れないだろうけど、今はもうそんなこと考えたくなかった。
アラームをセットして、目を閉じる。
「おやすみ」
誰が聞いてるわけでもない言葉を一人呟いて、微睡みに身を任せた。
───その時だった。
ドガァンッ!!!という凄まじい轟音と揺れにより、僕は叩き起された気分で目を開けた。
寝ぼけ眼にスマホを見るが、まだ数分しか経っていない。
なんだなんだと窓を開ければ、外はとてつもない雨が猛烈な勢いで降りしきり、稲妻が夜を駆ける龍のように夜空を迸っていた。
・・・・・・いや、龍のようにって言うかアレ完全に龍じゃない?神龍とかそこら辺の蛇のような姿形をした雷を帯びた龍が、雨の中を飛び回っているように見えるんだけど?
「・・・・・・えっ?」
目の前の光景が信じられずに、思わず目を擦る。
「・・・・・・えぇ?」
何度も何度も目を擦って、冷たさによって結露した窓を何度も拭ってなお、そこに龍はいた。まるで何かを探しているかのように、延々とクルクル回っている。
そしてどうやらそれが見えるのは僕だけじゃないみたいで、窓から下をみれば騒ぎを聞き付けた人が空を指さしながら何か言っている。
ほっぺを抓ってみるが夢ではないらしい。
その“龍”は、夜でも分かるほどに輝く白と濃い赤色の入った体色をしていて、どこか神聖そうな雰囲気がある。大きさは動き回ってて分からないけど、めちゃくちゃ大きい。
八階立てビルくらいありそうだ。
お陰で金色の瞳がハッキリと見えた。爛々と光る美しい瞳の色だった。
そんな美しい荘厳な龍が今、僕の眼前で空を飛び回っている。
「・・・・・・これ、現実?」
僕は未だに現実を受け止めきれずに、放心気味で龍を見つめていた。
「でも、何を探してるんだろ」
傍から見れば、龍は何かを探していて、それを見つけるために悠々と空を飛び回っているように見えた。
ていうかそもそも、この龍は一体どこから?
僕が寝てからまだ数分しか経っていないのに、どこからともなく雨が降り出して、雷が鳴りだして、挙句の果てには龍が姿を現した。
まるで誰かに“召喚”されたかのようだ。
・・・・・・え、まさか僕?
確かに詠唱らしきものはしてたけど、あんな適当なヤツで?
「いやいやまさかそんなわけ・・・・・・ない、よね?」
気のせいだろうか。
自分ではないと否定しつつ窓の外を見ていると、龍と目が合った気がした。
思わず目をそらす。
が、事態は既に手の取り返しがつかないところまで進んでいた。
なぜならそこには、窓から数メートルの距離まで近づいてきた大きな龍が、僕を覗き込んでいたのだから。
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