I’ll be a knighs.

からあげのおにぎり

成る




「申し訳ないけど、受験要項の身体基準を満たしてないから受けさせることは出来ないね。」


「そうですか、わかりました。」


 少年は肩を落としつつ建物を出る。


「はぁ。やっぱり、小さいと騎士になれないのでしょうか。」


少年は、騎士見習い募集と書かれた紙を見ながら気落ちしたようにぼやく。少年は身の丈の倍近い荷物を背負い直すと、自分の暮らす孤児院へと向かった。

 孤児院に着くとそこの主人であり、育ての親であるシスターが子供達の面倒を見ていた。


「ただいまです、シスター。」

「あら、おかえりなさいバル。騎士見習いの件、どうでしたか?」

「はい、身長が足りないからダメだと言われました。」

「そう……。あまり、気落ちしないで。」


 そう言って、シスターが少年、バルを慰める。


「そういえば、お隣の公爵様が騎士見習いの募集をかけていたわよ。」

「本当ですか!これはいてもたってもいられません!今すぐ向かいます。」


 バルは急いで身支度を整えると、孤児院を飛び出した。

 バルは孤児院のある王都を飛び出し、公爵領領都を目指していた。公爵領まで徒歩で十日、馬車で五日ほどである。そこから領都までは徒歩で二日三日といったところだ。馬車などは乗合の馬車があるが、バルの荷物が大きく追加料金を取られるため選択肢から除外し徒歩で向かった。幸いバルは身体能力に自信があるため意気揚々と領都へ向かった。




 王都を出て三日目のやや陽が真上を過ぎた頃、バルの耳に微かに怒号と剣戟の音が聞こえた。

 バルは迷いなく音のする方へ駆け出す。音は道なりの先にある小山の向こうで鳴っていた。バルは背中に背負った荷物を感じさせない身軽さと速さで小山を登り音の先を見る。

 そこには数台の馬車とそれを襲う百匹近いの魔物、そして馬車を守るように戦う騎士達であった。

 それを見たバルは小山を最大速度で駆け下りつつ背中に背負った荷物を解く。 丁度、小山を駆け下りた頃、荷を解き切り姿を現した斧槍(ハルバード)を両手に握りしめ馬車の方に気が向いている魔物を背後から握りしめた斧槍で横なぎに吹き飛ばす。魔物達の群れを吹き飛ばしながら馬車を守る騎士達を指揮する壮年の騎士に声を掛ける。


「私は旅の者です!お困りの様子のため助太刀いたします!」


 壮年の騎士はこちらを見て一瞬、目を見張るがすぐにこちらに答えた。


「助太刀、感謝する!すまないがしばらく魔物の気を引いて欲しい!」

「わかりました!」


 バルはそう答え、斧槍を振り回し吹き飛ばす。興奮しながら馬車の方を向いていた魔物達は大暴れをするバルへと敵意が向かった。

 半数近い魔物がバルへ向かう。それをバルは何も考えず体の動くままに斧槍を振り回し魔物達を吹き飛ばしていく。

 全体の二割ほどの魔物を倒す頃、馬車の方から大きな魔力のうねりを感じそちらを見ると馬車の上に乗った少女が身の丈の半分ほどの杖を天に掲げ呪文を唱えていた。

 呪文を重ねるごとに魔力のうねりが大きくなり彼女の頭上に大きな火球が現れる。知能が低いとされる魔物たちも流石に危険を感じたのかまだ馬車の方を向いたままの魔物達は少女に向かう。

 それを予め想定していたのか騎士達はやや広がって展開していたのを馬車の周辺に密集し少女を襲おうとする魔物達を完璧に捌く。そして魔力のうねりが最高潮に達した頃、少女は杖を振り下ろした。


「ホーミングファイヤーレイン」


 少女がそう呟くと頭上の火球が破裂し炎の雨となり魔物に降り注いだ。

 不思議なことにその雨は騎士やバルに降り注ぐことはなく周囲の魔物のみに降り注いでいた。

 そうして炎の雨が魔物達を燃やし尽くした後、バルは斧槍を地面に突き刺し馬車に近づく。壮年の騎士もそれに気づき剣を鞘にしまいバルに近づく。二人は近づくと迷いなく握手をした。


「助かった少年。君がいなければ我々も無事じゃすまなかっただろう。」

「いえ、あなたが方が魔物を捌き切ったのとあの魔法を使った方のおかげでしょう。」

「ハッハッハ、謙虚な少年だ。おっと自己紹介が遅れた。私は公爵家親衛隊三番隊隊長シノアス・グランだ。改めて助けられたぞ少年。」

「いえいえご無事で何よりです。私の名はバル。騎士を目指している者です。今は公爵領での騎士見習い募集のお話を聞きつけて向かっているところです。」

「なんと、君ほどのものが騎士どころか騎士見習いですらないと!?」

「はい。なんでも募集要項の基準を満たしてないとかで。」

「なるほど。王都の連中は頭の固いもの達ばかりだからな。まあ、少年には悪いが君が騎士見習いにならなかったおかげで助かった。」


 そう言ってこちらに笑いかけていると馬車の少女から壮年の騎士シノアスに声が掛かる。


「シノアス、ずるいわよ!自分だけ会話して!私にもお話させなさい!」


 先の魔法の時と違った声のトーンにやや驚きつつ少女を見る。少女もまた目線をシノアスからバルへと移す。


「さて、あの魔物の群れを吹き飛ばした英傑様はどんな姿かs……え?か、かわいい〜♡え、ホントにこの子があの魔物達を吹き飛ばしたの?スゴいわね君!お礼にハグしちゃうわぁ。」

 

そう言って少女はバルを抱きすくめる。


「殿下、まだ馬車からおりないよう伝えたではありませんか。それにお礼にハグなどあなたがしたいだけでしょう。すまない少年。こちらは公爵家が三女、ディアンヌ・ウィン・アルセンヌ様だ。殿下の気が済むまでこのままでいてくれないか。」

「はい、わかりました。大丈夫です。こういったことには慣れているので。」


 気のいいおじさんと言った風貌から一気に振り回される苦労人という風貌に変わったシノアスを見て苦笑しつつバルはディアンヌになされるがままにする。


「失礼ねシノアス!まさかあの鬼神の如き武人がこんな可愛らしい子だったのよ!抱きしめたくもなるわよ!あなた、名前は?」

「え、あ、バルと申します。」

「了解。バルね。私のことはディアと呼びなさい!あなた、この道を通ってるてことは公爵領へ向かっているのよね?もしよかったら何だけどお礼をしたいから一緒に来てくれないかしら?」

「そのことで私からも頼みがあるのだ少年。いやバル殿。」

「シノアスさん、そんな殿なんて付けないでください。」

「いや、私は君にお願いしたい立場だ。もちろん断ってくれて構わない。先の戦闘で我々も幾許か戦えるものが減ってしまった。君のような強者が共にいてくれるだけでとても心強いのだ。もちろんお礼もその分、弾ませよう。なんならウチの親衛隊に口聞して入隊できるようにもしよう。だから頼めないかね?」

 

バルは驚きづつ返事をする。


「わかりました。護衛のお話、引き受けます。」

「ありがとう。バル殿これからよろしく頼む。」

「やった!これからよろしくねバル君。」




 バルが護衛を引き受けてから三日。馬車一行は順調に行程を進んでいた。

 その間、バルはディアの抱き人形になったりおしゃべり相手になったりしていた。

 そうやって和やかに進んでいたが山間の道に差し掛かり三台ある馬車の最後の馬車が狭い道に入った瞬間、左右から一行に矢が降ってきた。

 その矢は馬車を操る御者のみを狙い、負傷させていた。一行は止まらざるを得なくなり騎士達は臨戦態勢をとる。

 すると山の木々の中から盗賊達が姿を現した。おおよそこちらの三倍ほどの人数が見えた。

 バルも馬車を飛び出し馬車に括り付けられた斧槍を取り構える。盗賊達はまた矢を放つがこちらは練度の高い騎士達でありしっかりと飛んでくる矢を弾く。すると右目に大きな古傷を負った盗賊が喋る。


「チッ、思ったよりも減ってねえじゃねか。まあ、いい。てめえら弓じゃ意味ねえ。人数はこっちが上だ、囲んで殺せ。」


 そう指示すると盗賊達は盗賊に似つかわしくない手入れのされた槍や剣を持ち騎士達に襲いがかる。

 騎士達やバルが応戦するがただの盗賊とは思えない動きと複数で騎士を相手にすることで実力が上であるはずの騎士達も苦戦をせざるを得なかった。

 その一種の不気味な均衡は三十分ほど続いていた。互いに軽傷者はいるが戦闘不能のものはいない。そんな中、ついに盗賊の頭が動いた。

 盗賊の頭は一人で五人を相手どる、バルに向かって駆けた。バルもまた少し苛立っていた。

 実力は間違いなく低いのだがつかず離れずの距離で攻撃してくる盗賊達はとても戦いづらかった。そこへ盗賊の頭がバルに向かって最大速度で短剣の刺突を急所へ放つ。バルは辛うじて体勢を崩しつつ皮一枚で短剣を躱す。

 バルは自分を襲う盗賊を盗賊はバルの斧槍を見て動きを止める。


「まさか。あなた、いやお前は……!」

「その斧槍は……!テメェは……!」


バルは怒髪天を突かんばかりの激情で、盗賊は見るものを怖気させる凶相で叫ぶ。

「父さんの仇いいぃぃぃぃぃいいい!!!!」

「この眼の仇イイイィィィィイイイ!!!!」


 心は怒りで荒れ狂っているバルだが頭はあくまで冷静に盗賊の頭(以降、カシラ)を分析していた。


(あの時と同じ短剣を二刀!間違いなく父さんが対峙していたあの盗賊!)


 バルの父は元冒険者であった。妻の懐妊を機に冒険者を引退。密かに憧れていた騎士として故郷の村へ帰った。

 しかしバルが生まれて三年が経つ頃、肥立ちが悪く体調が崩しがちだった母は遂に起き上がることすら出来なくなった。

 彼女は死に際、バルに一つ助言をし、夫に激励をかけると思い残すことは無いように息を引き取った。

 さらにそこから二年、もうすぐバルが五歳になる頃だった。村に盗賊が現れ、村人達に襲いかかった。

 もちろん村人達や父は反撃するが苦戦し村長の屋敷へ避難し立て篭もることになった。

 玄関の前で父は盗賊に応戦し屋敷に立ち入れないようにしながら戦っていたが、盗賊達を指揮していた男が逃げ遅れたのだろうバルと同じぐらいの女の子を抱き上げ、首元にナイフを突きつけた。


「騎士サマよぉ、このガキがどーなってもいいのかぁ?」


 それを見た父は歯噛みしながら斧槍を投げ捨てるそれを見た盗賊はパッと腕を離し女の子を逃した。女の子は父の方へ駆け出す。

 それを見たカシラはニヤけるとおもむろに振りかぶり女の子の背に向かってナイフを投げた。父は駆け出し、女の子を庇うように抱きしめる。

 その父の背にナイフが突き刺さる。それを見たカシラは凶笑を浮かべながら、父に近づく。


「キャハハハ、たかがガキ一人に騎士様が命を脅かされるんだァ。哀れだねェ、騎士様ってのは。ってことでさっさと死ねやァ」


 そういってカシラは短剣を振り上げる。父は不意を突いて立ち上がり指でカシラの右目を潰した。

 しかしカシラの短剣もまた父の首に刺さっていた。父は倒れ込んでカシラもまた地面をのたうちまわっていた。そこへ盗賊の一味がカシラに近づく。


「お頭、蹄の音です。ずらかりやしょう!」


 それを聞いたカシラは立ち上がるともう一本の短剣を抜き、倒れている父に近づく。


「良くもやってくれたな、騎士サマよぉ。トドメやァ」

「うわああぁぁぁぁあああ!!」


 バルがカシラに体当たりをかます。五歳にも満たない子供の体当たりなど大した威力ではないがカシラの意識が父に削がれていて不意をつけたこと。そして偶々ではあるが、体当たりをした時のバルの頭の位置がカシラの鳩尾だったことから、カシラを吹き飛ばすことに成功する。


「ッチ……ガキィ、邪魔しやがって!チッ、テメェらずらかるぞ!」


 響く馬蹄の音が近くなった事を感じたカシラは撤退を指示し、自らも森へ駆け出す。

 バルは盗賊達が撤退したのを見た後、父のそばに駆け寄る。


「とうさん、とうさん」


 バルは父のそばで膝をつく。父はバルの頭に手を置くと優しく撫でながら言う。


「バル、よくやった。……いいか、バル。騎士は役職ではない、守るべき存在を守り抜く気概を持つものだ。お前は今、それを果たした。お前は立派な騎士だ。これなら父さんも心配いらん」

「まだぁ、やだぁ、死なないでぇ」

「泣くなバル。大丈夫だ、父さんも母さんも一緒にお前を見守ってる。だから強く生きろバル」

 

そう言って微笑むと父は息を引き取った。


 過去を思い出し、奥歯を噛み締めるとバルは父の仇であるカシラに向かって駆け出す。

 あの頃より老けてはいるが右目の傷と握る短剣は間違いない仇敵の姿であった。


「あの時のガキじゃなえかぁ。歳をとってもチンチクリンなままじゃねえか。キャハハハ、会いたかったぜぇ。その様子じゃあの騎士サマもくたばったみてえじゃねえか。ついでにテメェもあの世に送ってやるよぉ」


 そう言ってカシラもまたバルに向かって駆け出す。二人の戦いは周りのどの戦いよりも激しいものだった。

 そこへ他の盗賊から横槍が入る。その一瞬でカシラは姿を眩ます。バルは周囲を探すが見当たらない。


「おい、ガキィ。この嬢ちゃんがどうなっても知らんで?」

「ディア!」


 カシラは密かに馬車に近づき乗っていたディアを人質にとっていた。それを見たバルは斧槍を投げ捨てる。

 そしてあの時と同じようにカシラはディアを掴んでいた手を離す。ディアはバルに向かって駆け出した。そのディアに向かって盗賊が振りかぶる。

 その姿を見ながらバルは母が死に際の言葉を思い出す。


「バル、もし守るべき存在を見つけてその存在に刃が届きそうなときこう唱えなさい。――



「「雷神」」


 と」


 そう呟くとバルは雷を身に纏う。バルは投げ捨てたハルバードを拾いカシラが投げたナイフを弾き落とす。この間僅か一秒であった。


「んだと……ッ!?」


 カシラの顔が驚愕に染まる。しかしバルもまた身に纏う雷が解け、息が絶え絶えになっていた。この魔法は魔力、体力共に消費が激しく、一瞬使うだけでも魔力をごっそり使う。

 そこにカシラは抜き目なく斬りかかるがバルもまた斬り返す。バルは背後のディアを守りながら戦う。そこへ他の盗賊がディアに向かって斬りかかる。

 一瞬、バルの意識が逸れ致命的な隙となる。そこへ容赦なく頭は短剣をバルに突き出す。しかしそれはバルが仕掛けた罠だった。


「「雷神」」


 そのバルの声を聞いたカシラは咄嗟に切り返しバルと距離を取る。しかしバルはお構いなしに一歩踏み込む。纏った雷はディアを狙う盗賊を穿ちディアの身を守る。一歩踏み込んだバルは呟く。


「「雷神の怒り(トールハンマー)」」


 纏った雷は斧槍へ集まり雷で大槌を作っていた。カシラは思わず顔を引き攣らせる。


「ハハッ、ここで潮時かよ」


 その言葉を最後にカシラの意識は途切れた。カシラに奥の手を叩き込んだバルは激戦の疲れと魔力の使い過ぎによる魔力切れでその場で倒れ気を失った。





「知らない天井です」

 

 バルは目覚めるとご豪奢な天井が目に映った。


「おはよう、バル」

「ディア様!」


 バルは思わず起きあがろうとするが、ディアは起きようとするバルを抑える。


「まだ寝てなさい。魔力は回復したけど無理に魔法で体を強化したせいか全身ボロボロよ」


 バルもその言葉を聞き後から来た体の鈍い痛みに顔を顰める。


「ところでバル。私を命懸けで守ってくれた貴方にお願いがあるのだけど」

「お願いですか?」

「私の専属騎士になってくれないかしら」


 バルは思考が止まっていた。


「これは公爵家当主である父上も認めているわ。元々この領の騎士募集も私の専属騎士を探すものだったから」


 その言葉に止まっていたバルの思考が動き出し、ようやく理解を示した。


「しかし良いんでしょうか。私のような孤児が殿下のディア様の専属騎士など」

「大丈夫よ。この一件でシノアスがとても貴方のことを推していたから。精鋭が集まる親衛隊でもかなりの腕前のシノアスがあれほど推挙するなんて何者なんだって父上も驚いていたわ。今回の功績とシノアスの推挙もあってとある条件を元にバルが専属騎士になるのを認めt「なります。」……え?」

「どんな条件であれ騎士になれるのです、ならぬ手はありません」

「ふふ、まさか即答なんて。であればバルこれから私のことをしっかり守って頂戴ね?」


 これが後に大陸全土にその名を轟かせる賢者の女帝と雷臣(ライシン)と呼ばれる二人の出会いであった。

    

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