冗談

「本当にウチ来るの?」


 私が自分の部屋に友達を招いた経験はほぼ皆無。それこそ、薺ちゃん位しかあげた事はなかった。

 その薺ちゃんでさえしばらくは来ていないので、これは私にとって大事件だった。

 それなのに今、部屋に招き入れようとしてるのは、今日初めて会った魔法少女。灯花ちゃんの方は魔法少女なのかは不明だが、話を聞いていると確実にそうなのだろう。

 

「あれ? もしかして本当は嫌だった?」

「凛は強引だからねー」

「お前も大概だろ」


 二人は本当に仲が良いみたいで、それは私と薺ちゃんとはまた違った関係に見えた。


「嫌な訳では無いんだけど、私友達がですね、その、あまりいなくて」

「あらー、そうなんですね。じゃあ今日は二人も友達が増えましたね」

「早く入ろうぜー。アイス溶けちまうよ」


 こんなにもあっさりと、いとも簡単に友達が出来るものなのかと、薺ちゃんよりもコミュニティ能力の高い二人に驚かされる。

 魔法少女になっていなければこの出会いもなかったと思うと、また一つシェイムリルファには感謝しなくてはならない。

 李凛ちゃんと、薺ちゃんの険悪なムードは頂けないが。


「そうだね、入ろうか。お兄ちゃん、がいるかもしれないけど、気にしないでね」

「んんー? 親御さんはいらっしゃらないのですか?」

「うん。二人共海外で仕事してて、私とお兄ちゃんだけで暮らしてるの」

「そうなんだ、大変じゃん。掃除して、洗濯して、メシ作ってか。生活力高そうだな」


 シェイムリルファは家にはいなかった。実際の所、バレたらバレたで仕方がないし、彼女もあっけらかんとしているのでバレた所で大した事ないと腹を括っていたが、どうも肩透かしを食らったようだ。


 二人を招き入れると、李凛が案内するまでもなく家の中を突き進む。

「こういう家って、大体二階が子供部屋だろ?」とまだ靴を脱いでいる灯花を置いて階段を駆け上がって行く。


「ごめんねえ。多分、楽しいんだと思う。凛、あんな性格だし、家庭環境もグッチャグチャだったから」

「全然平気だよ」


 家庭環境がグッチャグチャの話が聞こえなかったように、触れないように返事をするも、構わずに灯花は続ける。


「凛も友達作るのに苦労してたから。仲良くしてあげてね」

「おーい、これどっちが莉々の部屋なんだー? 開けちゃうよー!」


 灯花が「李凛をよろしく」と、甲斐甲斐しくお願いしたそばから、二階から李凛の大声が響く。

 楽しいからとはいえ、初めて上がった人の家で勝手に階段を上がり、大声で叫ぶのもどうなのかと思ったが、友達が出来るという事はこういう事なのだろうと無理やり自分を納得させた。


「ええ!? ちょっと待って!」と私も急いで階段を登ると、李凛ちゃんは兄、の部屋を開ける寸前だった。

 私は慌ててドアの前に入り込み李凛ちゃんを制止した。


「ダメ、ダメ、ダメ! お兄ちゃん、神経質なところあるから」

「あ、そう。てことは、この部屋は兄貴の部屋ってことか」

 

 確かにお兄ちゃん、が神経質というのもあるがシェイムリルファがいる可能性もあるので余計に慌てた。これだけ騒いでも二人共顔を出さないのだから、恐らく家にはいないのだろうが。


「怪しいな。本当に兄貴の部屋か? なんか隠してるんじゃないの?」


 本当に李凛ちゃんは凄いと思う。初めて上がった家で勝手に突き進み、勝手に部屋を開けようとするのだから。しかも隠してるって、一体私が何を隠してると思っているのだろうか。

 そんなに怪しんでも、事件性を感じるものは一切無いし、この部屋は完全犯罪が行われた事件現場でもない。ただの兄、の部屋だ。


 こんな李凛ちゃんのような行動は私には絶対に出来ない。呆れるを通り越して尊敬の念が湧き出るほどだ。


「こ、こっちだからね。はい、どうぞ」

「なんだこの部屋は!?」

「え? 変、かな?」

「こんなに綺麗に整理整頓された机。物が散乱していないベッド。ゴミ一つ落ちてない床。これが、部屋だと!?」

「はいはい。凛の部屋とは大違い過ぎて驚きだねー」

「李凛ちゃんの部屋、今度行ってみたいな」

「凛々ちゃん。好奇心は猫をも殺すんだよ。滅多な事口にしない方がいいよー」

「まあ、いいや。アイス食おうぜ」


 二人は私に色々な事を教えてくれた。魔法少女になった経緯や、家庭の事情。『鉄血の乙女』を作った理由。それは底抜けに明るい李凛ちゃんからは想像出来ない程の辛い過去だった。同時にまた灯花ちゃんも。


「そんな真面目な顔すんなよ。終わった事だしね。今更過去の感傷に浸ってもられないし」

「そうそう。私なんて魔法少女にならなくてラッキーくらいにしか思ってなかったしねー」

「え? そうなの?」

「物心ついた時から訓練、訓練、また訓練」

「親の依頼にも連れてかれたしな」

「魔法少女になりなくてもなれない人達には申し訳ないですけどね。私は親の財産でニートが出来ればそれで十分だったんですよー」


 李凛とは違ったベクトルで灯花もぶっ飛んでるので二人の話を聞いていると思わず笑ってしまう。親の財産でニートが出来る事は聞く人によっては、十分どころか究極の贅沢だろう。


「話変わるけどさ、覚悟って結局何だったんだよ。驚くって言ってたから家に上がる時思わず身構えたよ」


 あれで身構えてたとは。普段どれだけなんだと思うも、私はひとまず言い訳を考える。下手くそな言い訳を。そして案の定思いつかない。

「……そんな事、言ったっけ?」と、とぼけるのが限界だった。


「言ってたよな?」

「言ってましたっけー?」

「い、言ってないよ」

「じゃあいいか。莉々トイレどこ?」

「私も私もー」


 李凛は興味が失せたように、灯花は興味が元から無いように話題をぶった切った。

 似てないようで似ている二人。血の繋がりを感じざるを得なかった。


「部屋を出て右だよ。二人同時は入れないからね」


 自分の想像の斜め上をいく二人ならやり兼ねないと、思わず突拍子もない忠告をしてしまう。


「ええ!? そうなんですか?」

「マジかよ」

「ふ、二人共!?トイレは一人ずつ入るものだよ!?」


「冗談だよ」と、二人は部屋を出て行った。本気に聞こえる冗談は、なんとも恐ろしいものである。

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