魔法少女・マジカルリリィ(仮)

@uma1234

シェイムリルファ

 魔法少女シェイムリルファは、誰が見ても、誰に言わせても、まごう事なき魔法少女だ。その外見や、立ち振る舞いはもちろんの事、絶対的、圧倒的な実力を誇るナンバーワンの魔法少女。


 サラサラで艶のある髪、抜群のスタイルに整ったルックス。そしてその可憐な姿からは似つかない超高火力の魔法であっという間に敵を殲滅する戦闘スタイル。


 ピンチになっている所なんか見たこともないし、聞いたこともない。もしも彼女が負けるなんて事があろうものなら、あっという間にこの世界は滅ぼされてしまうかもしれない。

 流石にそれは少し言い過ぎたかもしれないけど、そう思わせる程の存在感を彼女は私達に示し続けてきた。


 見た目も完璧で、話題性たっぷり。もちろん実力も申し分無し。彼女に私が憧れるのは仕方が無いし、当たり前の事なのだ。

 ネットニュースでいつも見かける彼女の活躍。テレビや街中で聞こえる彼女の話題。絶対に手が届かない、まるでアニメのキャラクターみたいなシェイムリルファ。


 私にも彼女みたいに才能があればなんて妄想に耽っていた事もあったけれど、現実はそう甘くは無かった。魔法の試験はいつも下から数えた方が早い成績だし、運動神経もからっきし。もっと言うと人付き合いも上手く無いし、会話をしていると笑顔も引きつってしまう。

 ペアで実践形式の模擬戦を行う時なんて、まず足を引っ張る事は確実だし、連携なんて取れたものじゃない。作戦を練る時だって顔は強張り、自分の意見なんて言えた事は一度だってない。


 小さい時から恋焦がれた存在は、歳を重ねるにつれて露呈していく私という人間の根幹と共に、ますます遠いものとなっていった。


 だけど、きっとこれが大人になっていくという事なんだと思う。現実を知り、己を知り、身の程を知る。 

 憧れや希望を力に、私もいつかシェイムリルファみたいに!なんて思っている子はきっと星の数ほどいるに違いない。 

 だけど実際の所、彼女に代わる魔法少女はずっと現れていないし、きっとこれからも出現する事はないのだろう。そして今日もシェイムリルファは魔獣を倒す。来る日も、翌る日も。


 そんな彼女の衝撃的なニュースが私の目に飛び込んで来たのは、私が魔法少女の道を閉ざされた日の事だった。


 その日、教官室に呼び出された私は、魔法少女としての終わりを宣告された。現実を突きつけられた。「今のままでは魔法少女はおろか、彼女達を支える企業に勤める事も難しい」と。これには私も落ち込んだ。まさか魔法少女に関わる仕事すら出来ないとは。


 この宣告は、魔法少女育成機関からの除名と言われたも同然なのだ。除名になんてなったら、一般の学生をまた一からやり直す事となる。こうなると本当に最悪で、ただでさえ人付き合いが出来ない性格の私は、年下の同級生しかいないクラスに放り込まれる事となる。


 魔法少女の夢が絶たれるだけではなく、私にとって罰ゲームみたいな辛い日々が幕を開けてしまう。


 この事実に落ち込む私は真っ直ぐ家に帰る気分に慣れなかった。気分転換にと川を越えた隣町にある気に入りの本屋に足を伸ばす事にした。辺りはすっかり暗くなっていたが、そんな事は気にせずにトボトボと下を向き歩き続ける。


 誰もいない陸橋の真ん中に差し掛かると私は工場地帯の灯りに視線を向けた。涙のせいでぼやけて映るその景色は、私の心とは正反対にとても輝いていて、なんだか自分がとてもちっぽけな存在だと思い込まされた。


 こんな所を誰かに見られたら恥ずかしいと涙を拭った瞬間、滅多に鳴らない携帯が珍しく音を上げた。

 私の携帯が鳴るのは親からの連絡か、かろうじて一人だけ出来た友達、シェイムリルファのニュース位のものだ。どちらにせよ確認しなければと、携帯の画面を開いた私は生まれて初めて自分の目を疑った。


『シェイムリルファ、敗北』


「……シェイム、リルファが?」


 自分の描いてた将来が閉ざされ、そして同時に憧れの存在がまさかの敗北という知らせ。何も考えられなくなってしまった私は放心状態のままその場にへたり込んでしまった。


 再び携帯から通知音が響く。今度は緊急時に流れる警戒信号だった。近くに魔獣が出現したという知らせだ。だけど私はその場を動けなかった。いや、動こうとしなかった。いっその事こと、もうこのまま魔獣に殺されてもいいと思ってしまったのだ。

 辺りにはサイレンが鳴り響き、緊急避難せよとの放送がけたたましく流れる。


 目を瞑り空を仰いだ次の瞬間、辺りが一瞬明るくなり、大きな音と共に目の前の川に何かが落ちてきた。落ちた、というよりは墜落だろうか。

 その衝撃はかなりのもので、私が座り込んでいた陸橋の上まで水柱があがる程のものだった。

 相当な大きさのものが落ちてきたのか、なんにせよ、かなりの衝撃でなければここまでの水柱はあがらないだろう。


「そこ、危ないよ」


 唐突に背後から聞こえた聞き馴染みのある声。聴き間違えるはずが無いその声。私は驚きながら振り返る。


 そして反対側のアーチ橋を見上げると、そこには敗北したはずの憧れの魔法少女、シェイムリルファが立っていた。

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