第69話 アナザーSIDE もう戻れない


「嫌だ、嫌だ気持ち悪い、あっちいけ、豚女ぁぁぁーー」


「卓也、貴方、母さんが解らないの!」


「お父さん助けて、助けてよぉぉぉぉぉーー」


どうしてこうなっている。


3日間行方不明になっていた卓也が帰ってきた。


家内は喜び、収容されていた病院に来たのだが…これだ。


息子はなにがあったのか可笑しくなっていた。


男性の前では普通だったが、少しでも女が絡むと凄く切れ暴れる。


気絶して運ばれた時に現場に居た女性警察官。


目を開けた途端に…


「気持ち悪いんだよ…放せ、放せよーーーっ」


そう叫んだそうだ。


仕方なく、拘束服を着せて輸送したらしい。


事故にあった為にパニックになっているのか?


そう思っていたが…違ったようだ。


大人しくなったから拘束服を外したら、女性看護師相手も罵り暴れ、手を挙げた。


「なんだかの精神的疾患の可能性が高いと思われます!今回、女性看護師に手を挙げたのは、病気と言う事で不問にします…このまま、精神病の患者としての入院をお勧めします」


そう医者に言われた。


「「ですが…」」


「今の彼は、普通じゃありません、このままだと人を殺しかねない状態ですよ…」


流石にこう言われたら、反論は出来ない。


「「お願い致します」」


我々はそうお願いするしか無かった。



◆◆◆


卓也と一緒にこっちの世界に帰ってきた。


だけど、私にはもう卓也への愛情は全く無くなってしまった。


あれ程、好きだった。


間違い無く、異世界に行くまでは愛していた。


だが、あの私を蔑むような目…


『愛している』そう言ってくれた口が『気持ち悪い何処かいけ』そう言って来た。


何時も優しく微笑んでいた彼が、憎しみを込めた目で私を見つめてくる。


あれは駄目だ。


幸せだった今迄の過去が全部消え去った。


今の私は『可愛さ余って憎さ100倍』


好き、愛、そんなの、簡単に壊れてしまった。


卓也を見ていると、悲しみや憎しみの感情が沸いて来る。


3週間も待てば、元に戻る。


それは解っている…だけど。


もう、私は卓也を受け入れる事はないと思う。


あの憎悪の籠った目を、私は忘れられない。


◆◆◆


「本当に許してよ!美里…」


「私なんて嫌いなんでしょう? オークの方がまだましなんだよね?」


「そんな事はないよ…あの時は本当にどうかしていたんだよ!頼むから許してくれよ…なぁ」


3週間たって卓也が私の家に来た。


どうやら、可笑しくなっていた時の記憶はあるようだ。


今の卓也は、あの時の卓也じゃない。


あれは『悪夢』だった、そう思えば良い。


私が「ゆるしてあげる」そう言えば元のさやに戻れる。


「そうね…」


「許してくれるの? 美里ありがとう…えっ」


卓也に触られた瞬間、気持ち悪くなった。


「うげぇぇぇぇぇーーーー」


盛大に吐いた。


きっと…私達はもう、元に戻れない。


憎悪の気持ちをぶつけられた私は…卓也を体が受け付けない。


「美里!」


「ごめん…体が受け付けない」


「美里…」


多分、もう駄目なのかも知れない。







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