第10話 お金は要らない


「お~い、理人!」


「カセリアさん?!」


街中で声を掛けられた。


「どうかしましたか?」


「うん、お金が溜まったから会いにきた! はい!」


そう言って渡された袋には金貨が5枚入っていた。


「これは一体なにかな?」


この間のミムの件で大体想像はつくけど…


「ん?普通に貢物だけど? もしかして少なかったか?」


どう言えば良いんだろうか?


嬉しいと言えば嬉しいけど、ちょっとな…


「男女が付き合うのにこの世界だとお金が必要なんですか?」


「当たり前じゃないか? 男に貢ぐのは女のかいしょうだからね!」


「それどうにかならない?」


「ああっそうだな!理人程の男に金貨5枚は無いな…済まなかった!出直してくるね」


ハァ~なんでそうなる。


「カセリアさん! 俺、別にお金なんて要らないですよ? 寧ろ、こんなお金より、普通に会って貰えた方が嬉しいですよ…」


「お金が要らないのか? 普通は女の価値は貢ぐ金額で決まると思うのだが…お金が要らないなら! 理人は私に何を望むんだ」


何を望むのか…う~ん。


「そうですね…もし何か望んで良いなら、出来るだけ、会って貰えたら嬉しいですね」


「理人、まさかと思うがお金なんて要らない。一緒に居たい、そう言うのか?」


「そうだけど?」


「嬉しい…」


「え~と?」


「嬉しいって言ったんだ…私は顔に傷を負って全てを失ってしまった。理人みたいな美少年が付き合ってくれる…それだけで凄く嬉しい…今の生活で本当に夢みたいなんだ…男の子と付き合える…それだけで幸せなのに…そんな事を言って貰えるなんて…本当に信じられない…」


「あの、もしかして忘れていませんか? 好きになったのは俺からだと思うんだけど」


「…え~と…」


「ハァ~『余りに綺麗なのでつい見惚れてしまいました…すみません』そう言ったと思うんだけど?」


「確かに言われたけど…あれは冗談だったんじゃないのか?」


「『その傷も素敵です』そうも言った筈ですが?」


「いや、だけど…そのね」


「俺にとってカセリアさんは凄い美人にしか見えません! だから、一緒に過ごせるのが凄く嬉しいんです!だから貢ぐお金を溜める位なら、もっと一緒に過ごす時間を作って下さい…その方が嬉しいですから」


「あっあの…本当にそれで良いのか? そんな事言われたら、毎日でも誘っちゃうからな…本気にしちゃうからな」


「勿論! それじゃ行きますか?」


「行きますかって…何処に?」


「ご飯でも一緒に食べよう! お金は返すから、ご飯だけ奢って下さい」


「そんなので良いのか? あっあっ…理人、その手」


手を繋ぐ位で耳まで真っ赤にしているし…俺も全く女慣れしていないんだけどな…


「嫌なら放すけど?」


「ううん、全然嫌じゃない! 凄く嬉しいよ理人…まさか男に手を握って貰えるなんて思わなかったよ…本当に、本当にありがとう」


「気にしないで貰えると嬉しい…握っている俺も、その恥ずかしいから」


「あはははっ、理人には驚かされてばかりだな…自分から女の手をとる男なんて理人位だ…、少年の手って凄く柔らくて暖かいんだな」


そう言われてみれば、カセリアの手はゴツゴツしている。


元騎士…そう考えたら当たり前だよな。


「そう、それじゃ行こうか?」


「うっうん」


顔が赤い美人って可愛いな。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る