第71話 閑話 桜と明日香ちゃんの松山道中記
とってもユル~イ内容です。本編とはあまり関係ありませんが、箸休めにお楽しみください。
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魔族の伯爵マンスール改め、美鈴の配下となった魔公爵レイフェンを連れたデビル&エンジェルはワゴン車に乗って松山駐屯地へと入っていく。
「大魔王様、この地はもしやヴァルハラの兵が集う場所ですかな」
「その通り、1名で数百人を相手できる屈強なる兵が多数おるゆえに、迂闊に戦いなど挑むでないぞ」
「も、もちろんでございまする。ところであちらに並ぶ鉄製の箱は何でございますか?」
「あれなるは戦車だ。火を吹く魔道兵器であるな。2、3両でそなたらの国の街であったら簡単に攻め滅ぼすぞ」
「さすがはヴァルハラであります。さては地上に天罰を下す神々からもたらされた武器でございますな」
色々と勘違いしているレイフェンだが、口にしている言葉の意味は概ね合っている。異世界の武器と比較すれば、そこに並ぶ戦車一つとっても天罰級の破壊をもたらすであろう。
「くれぐれも魔族の管理をよろしくお願いいたします」
たまたま宇都宮駐屯地には捕虜管理施設があったのだが、ここ松山にはそのような施設はまだ準備されていないらしい。聡史たちの案内を務める駐屯地の副司令はレイフェンが心から美鈴に心服しているのか疑問を持っている様子が窺えるが、まあそれは無理もないこと。
「どうか安心してください。すでに魔王の配下としての名を捨て去って新たな生き方を選択していますから」
美鈴の説明に副司令はやや安堵した表情を浮かべているが、周辺に小銃を手にする隊員が小隊単位で居並ぶ様子を見ると警戒を解くつもりはないと明白に宣言しているに等しい。
このように厳重に警戒はされているものの、聡史たちはひとまず用意された個室に通されて一晩ゆっくり過ごすのであった。
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翌日デビル&エンジェルが朝食をとっていると、聡史のスマホに着信が入る。
「もしもし、楢崎です」
「私だ」
着信の主は毎度お馴染みの学院長。
「朝からどうしましたか?」
「魔族の扱いに関してダンジョン管理室の内部で意見が分かれて処遇が決まらない。明日私が松山に出向いて面通しをするから、それまでは駐屯地で待機してもらいたい」
「了解しました。駐屯地の方々に迷惑が掛からないようになるべく外に出ないようにします」
この結果、デビル&エンジェルはもう1日松山駐屯地に滞在することになった。
その日の昼前…
トントン!
聡史の部屋をノックする音が響く。
「お兄様、ちょっといいですか?」
「なんだ、桜か。入っていいぞ」
聡史が声を掛けると、中に桜が入ってくる。そしてなぜかそのあとに続いてもうひとりの人影が… その影はいつものお約束通り明日香ちゃんで間違いない。
「お兄様、今日一日暇になりましたから、私と明日香ちゃんで松山市内を観光しようと思いまして。よろしいですよね」
「お兄さん、八校戦では食べ歩きができなかったので、是非とも松山の名物が食べたいんですよ~」
桜と明日香ちゃんがおねだりモードで聡史に迫っている。元々この二人はレイフェンとは特に大きな関わりは持ってない。むしろ2回も死に至らしめられた記憶が蘇ってレイフェンが挙動不審に陥るから、桜をある程度遠ざけておくほうがいいかもしれないと聡史も考えている。
「いいだろう。駐屯地の副司令官に許可を得てから外に出るんだぞ」
「さすがはお兄様ですわ! 話が分かります」
「桜ちゃん、やりました! これで念願の食べ歩きが実現しますよ~」
明日香ちゃんの中で観光という言葉が持つ意味とは食べ歩き以外に存在意義はないよう。ともあれ二人は満面の笑みを浮かべて、駐屯地の司令部へそそくさと向かうのであった。
◇◇◇◇◇
副司令から許可を得た桜と明日香ちゃんは送迎用のワゴン車に乗って松山駅にほど近い場所で駐車場に降り立つ。
「桜ちゃん、おススメの名物デザートってどんな感じなんですか?」
「明日香ちゃん、それは見てのお楽しみです」
「なんだかとっても期待が膨らんできましたよ~」
明日香ちゃんがこれだけ盛り上がっているのは、桜がスマホで見つけたご当地グルメの有名店にこれから向かうため。桜によると、その店には全国的に名を轟かす驚異のご当地デザートが置いてあるらしい。
二人はさっそくナビを見ながらその店に向かって歩いていく。目的の店は降り立った駐車場から歩いて2分の場所にある。ビルの1階にあるシャレた造りの店が本日の二人のお目当てとなっている。
「桜ちゃん、なんだか可愛い感じのお店ですよ~」
「いい感じですね。美味しそうな気配がひしひしと伝わってきます」
「あれ? ご当地名物のデザートの有名店のはずですよね。でもお店の看板はトンカツ屋さんですよ~?」
「そうですわ。このトンカツ屋さんが本日の目的のお店ですから」
「トンカツ屋さんのデザートなんて本当に大丈夫なのかという気がしてきますよ~」
明日香ちゃんはやや不安な気持ちを抱えている様子だが、桜は一向に頓着せずに店に入っていく。だがその前に…
「明日香ちゃん、私が手を引いていきますから目を瞑ってください。そのほうがインパクトがありますからね」
「インパクト? ひょっとしたらものすごく大きなデザートが出てくるとか? これはちょっと期待感が出てきましたよ~」
店の前にはメニューのサンプルが飾られており、それを明日香ちゃんが見てしまったらお楽しみが半減してしまう。だからこそ桜は、わざわざ明日香ちゃんに目を瞑らせているらしい。ちょっとしたサプライズを企んでいるのであろう。二人はそんな状態で店内に入っていく。
「ふぅ~、やっと席に座れましたよ~。桜ちゃん、早くお目当てのデザートを注文しましょう!」
「フフフ、明日香ちゃんはもう待ち切れないんですね。それでは店員さんに注文しますから全部私にお任せしてもらいますよ」
明日香ちゃんの了解を得て桜は店員さんに注文を伝える。明日香ちゃんが座っている後ろの壁にメニューがデカデカと張られているが、完全にブラインドに入っているため桜が何を注するのか全然知らされていない。そして桜がいつものように怒涛の注文を開始。
「幻のトンカツ定食と魅惑のヒレカツ定食、カツ盛り定食、ハニーマスタードカツセット、全部キャベツマシマシのご飯大盛りで! それから、このパフェを二つお願いします」
「はい、ありがとうございます」
店員さんは桜からの注文を受けると戻っていく。彼女の表情は「二人でこんなに食べ切れるのだろうか?」という疑惑の色がアリアリ。だがそんな心配など桜の前でまさに無用の長物。カウンターに戻っていく店員さんを見送った明日香ちゃんは桜に向かって身を乗り出す。
「桜ちゃん、なんだかパフェという声が聞こえてきましたよ~。このお店でパフェが味わえるんですか?」
「明日香ちゃん、全ては料理が届いてからのお楽しみですわ」
桜はイタズラっぽい笑みを浮かべたまま明日香ちゃんを煙に巻いている。そして待つことしばし…
「お待たせしました。幻のトンカツ定食と魅惑のヒレカツ定食はどちらですか?」
「はい、私です。取り皿を2枚お願いします」
桜が定食を受け取ると、定食のお皿からトンカツ、キャベツ、ご飯を取り分けて、明日香ちゃんに手渡している。
「桜ちゃん、ありがとうございます。それよりも、なんで私の分のご飯を一人前頼まなかったんですか?」
「フフフ、それも含めてお楽しみですから」
謎の言葉を残して、桜はテーブルに並ぶトンカツ定食を食べ始める。ここまでの流れはごく当たり前のトンカツ屋の極々当たり前の光景と、明日香ちゃんの目に映っている。
桜の態度にやや疑問を感じながらも、明日香ちゃんは桜から分けてもらったトンカツとご飯を口にする。
「美味しいトンカツです。でもこのくらいの量では、いくらなんでも私のお腹はいっぱいになりませんよ~」
「まあまあ、すべてはデザートのためですから」
なおもイタズラっぽい笑みを浮かべつつ、桜は後から運ばれてきたカツ盛り定食とハニーマスタードカツセットまであっという間に完食する。その食欲は、止まるところを知らない。その圧倒的ともいうべき食べっぷりは周囲のお客さんを唖然とさせている。
そしてついに、ついに本日のメインとなる明日香ちゃん待望のデザートが運ばれてくる。
「お待たせしました。トンカツパフェです」
「はぁ~?」
明日香ちゃんの目が点になっている。目の前に置かれたのはスライスされたリンゴやキウイフルーツ、ミカンやチェリーなどが美しくあしらわれたフルーツパフェ。一番下には抹茶アイスが置かれて、その上には生クリームがたっぷりとトッピングされている。
ここまでは普通のパフェとしか呼べない。だが店員さんは確実に「トンカツパフェ」と言ったはず。そして明日香ちゃんの目が点になっている。
その原因はパフェの最も外側にまるで花びらのごとくに6切れのトンカツが差し込まれていること。花弁のごときトンカツが明日香ちゃんに大いなる混乱を引き起こしている。
だがしかしこれぞ松山が誇るご当地グルメとして全国に知られる〔トンカツパフェ〕に相違ない。国民的な人気を誇る鉄道のスゴロク的なゲームにも実装されている、知る人ぞ知るという凄いメニューが桜のサプライズの正体らしい。
明日香ちゃんは目の前に置かれたトンカツパフェをじっと見つめてから桜に視線を向ける。さらにもう一度トンカツパフェに目を遣ってから、改めて桜に向き直る。
「桜ちゃん、パフェにトンカツが刺さっていますが…」
「それはトンカツパフェですから当たり前ですわ」
「いやいや、そういう問題じゃないですよ~! なんでパフェにトンカツなんですか! その理由が知りたいんですよ~」
「明日香ちゃん、世の中には意外な組み合わせがあるんですよ。まあ騙されたと思って食べてみてください。こんな感じでトンカツにフルーツやクリームを載せて、手で掴んで食べるのがおススメらしいですよ」
桜はカラッと揚がったトンカツにスライスされたリンゴを載せてから生クリームをたっぷりつけて口に運ぶ。
「ややや! これは新たな世界がベールを脱ぎましたわ! 有り得ない組み合わせと思いがちですが、実に美味です。さあさあ、明日香ちゃんも食べてみてください!」
桜が本当に美味しそうな表情で食べているのを見て、明日香ちゃんも怖々とトンカツパフェに手を伸ばす。まだその表情は心から桜を信じていないよう。
表情には何らかの葛藤する色合いを浮かべながらも、桜と同じようにトンカツにスライスリンゴと生クリームを載せて一口…
「( ,,`・ω・´)ンンン?」
最初の一口を相当躊躇ったはずの明日香ちゃんだったが、手にした一切れをペロリと食べ終えている。
「桜ちゃん、これは新たな発見ですよ~。まさかトンカツとパフェがこんなに相性がいいとは思いませんでした!」
明日香ちゃんの世界感が180度転換している。ソースがかかったトンカツとフルーツ、そしてクリームが奏でるハーモニーが絶妙な味わいをもたらしている。一見有り得ないこの組み合わせこそが、意外な美味しさを口内で醸成するポイントのよう。
「明日香ちゃん、私のおススメのご当地グルメはいかがですか?」
「桜ちゃん、これは満点ですよ~! トンカツがデザートになるなんて、歴史を変える大発明です」
「ネットでお取り寄せもできるみたいですよ」
「桜ちゃん、お言葉ですがネット通販などというものは私のデザートに対する美学に反しますよ~。こうして実際にお店に足を運んでこそ、真の美味しさを味わえるんです」
「今度取り寄せてみるつもりですが、明日香ちゃんは食べないんですね」
「もちろん食べます! 桜ちゃんは私の親友ですから一緒に食べましょう!」
発言がコロコロ変わる明日香ちゃん、とはいえ右手をグッと握り締めて熱くデザート論を語っている姿からはデザートにかける情熱に溢れている。そして言いたいことを言った後は、もう夢中になってトンカツパフェを食べまくる。
そして全てを食べ切った明日香ちゃんは、名残惜しそうにトンカツパフェが入っていたガラス製の器を見つめている。
「うう~… もう一杯行きたいところですが、お腹がいっぱいでもう入りません。本当に残念ですよ~」
「パフェとトンカツの組み合わせですからね~。カロリーの面では凄いことになりそうですわ」
定食を3人前以上完食した桜が言うべきセリフではないような気がするが、レベル600オーバーともなると消費するカロリーも半端ではないので、あっという間に本日の昼食も消化されてしまうのだろう。毎日大量の食事を食べても一向に太らないのが桜の体質的な特徴。これだけをとっても、並の人間には有り得ない話だろう。
「「ごちそうさまでした~」」
「ありがとうございました~」
お会計を済ませて店を出た二人は、腹ごなしに松山城を見学したり商店街を眺めながら道後温泉までやってくる。
「桜ちゃん、美味しい昼ご飯の後は温泉が待っているなんで、完全に観光気分ですよ~」
「明日香ちゃん、タンジョン攻略のご褒美ですから、きっとこのくらいは許してもらえます」
もちろん二人は、歩いている途中に伊予柑ソフトクリームだとか、霧の森大福、揚げ鯛バーガーなどをチェックしている。温泉でお腹をへらしてからこれらの品々をとっくりと味わうつもりらしい。桜と明日香ちゃん二人掛かりのグルメレーダーは、美味しいご当地の名物を逃すはずはない。
こうして色々な店に顔を出して、午後から夕方にかけての二人の食べ歩き&温泉ツアーは幕を閉じる。満足げな二人は、昼前に降り立った駐車場で駐屯地から配車される迎えのワゴン車を待っている。
「桜ちゃん、色々と食べたおかげでもうお腹いっぱいですよ~。さすがに晩ご飯はパスしようかな~」
「私は普通にいただきますわ。明日香ちゃんは脇腹の贅肉と相談しながら食事をしてください」
「ムキィィィィ! せっかく忘れていたのに、桜ちゃんは何でそんな話を思い出させるんですかぁぁ!」
「明日香ちゃんが忘れないように絶えず戒めるのは親友としての私の役割ですから」
食べ終わってからのお約束が炸裂している。明日香ちゃんは桜の一言で大ダメージを食らった模様。だがもうデザートを我慢しないと決心した明日香ちゃんには、怖いモノは存在しない。スカートのホックが怪しくなろうとも、これから先もデザートを食べまくる所存のよう。
「それにしてもいい街ですね。機会があったらまたやってきたいものです」
「桜ちゃんが言う通りですよ~! いつかまたトンカツパフェを食べたいです」
こうして食べ歩きと温泉ですっかり松山の街に魅了された二人は、迎えのワゴン車に乗り込んで駐屯地に戻っていくのであった。
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異世界から戻った途端に松山の街を満喫する桜と明日香ちゃん。このくらいの楽しみがなければダンジョン攻略などやってられるか!… てな具合で充電完了した二人を含めた一行は魔法学院に戻っていきます。この続きは出来上がり次第投稿します。どうぞお楽しみに!
「面白かった、続きが気になる、早く投稿して!」
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