5月の病は恋煩い

からあげのおにぎり

恋なのか……?

 はぁ、朝だぁ〜憂鬱だぁ〜。ゴールデンウィークが終わったぁ〜。人生おしまいだぁ。

 そう五月病に苦しむ俺の名前は皐月 涼(さつき りょう)地元の高校に通う平々凡々な男子高校生。そうドンキーコングだ。あー、休みてえ、学校行きたくねぇー。ゴールデンウィークは終わるんだぁ。一生休みがいいよ。なぜ俺がこうも苦しんでいるかと言うと五月病もあるが学校で出回ってるとある噂についてだ。そう悶々としている俺の部屋がノックも無しに開かれる。


「涼、朝だよ。学校だよ、ベッドから出てきなさい」


 そう言いながら俺の部屋に入ってきたのは隣の家に住む幼馴染である、月本 神奈(つきもと かんな)だ。


「んだよ、神奈。俺はゴールデンウィーク明けという憂鬱をベッドで消化してるんだ。邪魔するな〜」

「アホなこと言ってないでさっさと出てきなさい」


 そう言って神奈は慣れた手つきで俺が纏う布団を引っぺがす。


「うぎゃ〜、横暴だぁ〜。動物愛護団体に訴えてやる〜」

「いくら動物愛護団体でも涼のことは愛護できないと思うわ」


 早く降りてきなさいよ〜、と仕事を終えたとばかりにひらひらと手を振りながら部屋を出ていった。俺はそれを見送って開いたままの部屋の扉を閉め、大きくため息を吐く。

 俺が憂鬱になる理由の一つが神奈であった。神奈とは物心ついた頃には既に一緒にいた。遊んで喧嘩して仲直りをしてを繰り返していたら気づけば高校生になっていた。元々、可愛さの片鱗は幼い頃からあったが小学生の高学年には何人かの男子に告白される程度には出来上がっていた。中学では月に一回は告白され、可愛さに磨きがかった高校では週に二、三人に告白されるということもザラにあった。その事に関しては俺自身、気にしてはいなかったのだが俺の心が悶々とし始めた理由は神奈が最近、所属した生徒会の会長と付き合っているという噂が流れ始めたからだ。会長は眉目秀麗、成績優秀、運動能力は飛び抜けているわけではないがそれでも優秀な部類というチートキャラだ。彼と神奈が仲睦まじく歩いていたのを見た事がありそこから勝手に悶々として彼女に対して勝手に気まずさを感じていた。それを感じさせないように接してはいるがぶっちゃけしんどくはある。そう考えながら支度を終え部屋を出た。




「そりゃ恋だな」


 親友の有瀬 拓真(ありせ たくま)は菓子パンを貪りながら言う。


「は?そんなんちゃうし」

「まぁ、そんなムキになるなって。俺の主観だよ。違うって言うなら気にすんな。……そっちの方が面白いし」


 最後になんて言ったか聞こえなかったが拓真の言葉にとりあえず納得する。




 放課後、俺は教室を出て下駄箱に向かう。途中、廊下で大きめの段ボールを持った神奈を見かけて後ろから近寄り神奈の持った段ボールを奪い取る。


「どこに持っていくんだよ」

「へぇ〜、涼にしては殊勝な心がけじゃん。生徒会室横の倉庫までよろしく」


 しばらく無言が続くがそこに気まずさはなく一種の心地よさがあった。


「そういえばさ」


 何?とこちらに顔を向ける神奈に心にモヤモヤもぶつけるように口を開く。


「生徒会長と付き合ってるって本当なん?」


 俺は、バクバクとうるさい心臓を押さえつけるようになんでもないような顔をしながら神奈に聞く。横目で神奈を見る神奈は目を見開いて俺を見つめていたかと思うと唐突に笑い出した。ひとしきり笑うと彼女は目尻の涙を拭いながら言った。


「もしかして最近、そのこと気にしてたの?道理で距離を取ろうとしてくるわけだ。」

「べ、別にそんなんじゃねぇよ」

「ふーん。じゃあさ涼。


私と付き合ってよ」


「は?」

「ん?だから、いちいち私に彼氏ができたできないで涼がモヤモヤするなら付き合っちゃえば良いじゃん。私、涼のこと好きだし」


俺が言葉にならない呻き声をあげていると


「なーんてね。本気にした?冗談だよ、冗談。安心しなよ、会長とはただの先輩後輩だから。……それに涼から告白させたいし」


 最後になんて言ったか聞こえなかったがそう言って神奈は歩き出した。

 その後ろ姿を見ながら高鳴る心臓は恋煩いなんかじゃない……はずだ。

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