4月9日(水) 午前ー③
教室に入ってきたのは、剣を帯びた青髪の男性。
先ほどまで学生らしく騒いでいたのに、クラスメイトの全員がその男性に何かを言われるまでもなく口を閉じているのは、さすが貴族の血だと感心する。
「ごきげんよう、皆さん。私がこのクラスを担当するフェルトです。気軽にフェル先生、とでも呼んでください。科目は剣術を教えることになっています。これからよろしくお願いしますね」
教室が少しざわめいた。確かその名は平民であるにもかかわらず、準男爵の称号を叙勲された者の名だったはず。それも、その強さからカルフェン様直々に取り立てられた実力者。柔らかく微笑む姿からは想像できないが、武術大会で幾度も優勝した剣の達人で、様々な紛争地でも暗躍していたとの噂なのだが、まさか教師になっていたとは。
「色々思うところもあるでしょうが、今は飲み込んでもらって。まずは皆さんに自己紹介でもしてもらえますか。そちらの、窓側の方から順に、簡単に名前と得意魔術でもお話しいただけますか?」
クラスメイトも先生のその判断を是としたのか、少し置いて指名された生徒が立ち上がった。
「はい!僕は――――」
そうして何名かの生徒が自己紹介をしたのちに、殿下に番が回ってきた。
彼はいつものように自信満々に腕を組み、ビリビリと響く声をあげた。
「俺はサミュエル・アイリスレーギア!王家の者ではあるが、ここでその名を使うつもりもないから、どうか気楽に接してくれ。好きな魔術は光剣(フォトンソード)!これからよろしく頼む!」
みな拍手をしてはいるが、ほとんどが微妙な笑みを浮かべていた。
そりゃあ本人が宣言しようが王族を軽く扱える訳ないし、王族として振舞いたくないならせめてファミリーネームを隠せばいいのに。その辺りを本人が口に出すかどうかが、下々の気にするところであろう。
で、肝心の本人は微妙な顔してる周りに気付かないというバカさ加減で、もうどうしようもない。っと、呆れてないで私も自己紹介をしなければ。
「ごきげんよう、みなさま。私はマーガレット。得意魔術は強化魔術。殿下の婚約者として、これからよろしくお願いいたしますわ」
簡潔に、しかしある部分を強調して言い切って、図々しく隣に座っている聖女へ視線を向ける。あっすごい。捨てられそうな子犬みたいに震えている。可愛い。入学式の時はたくさんの生徒の前で話していたというのに。
とにかくセシリアに喋ってもらうため、小声で彼女に声を掛けた。
「早くなさい。あなたの番ですよ」
「は、はいっ!」
彼女は明らかに緊張しているという様子で、ガタンと大きな音を立てて立ち上がった。
「えと、セシリアと申します!守るのが得意で、最近治癒魔術も覚えました!不束者ですが、よろしくお願いしましゅ!」
最後にお辞儀をして――また人形劇のようにカチコチになっていたので、ひと睨みしておいた――次の発言者へと移っていった。
そのあとは粛々と紹介が進んでいき、全員が終わったのを確認してからフェルト先生が口を開いた。
「さて、皆さん終わりましたかねー。本日の予定としては、この後諸々の連絡をして終わりです。まずは授業の受け方ですが、受けたい授業があればその場所に行って、担当の先生に許可を貰う形ですね。ただ、この教室もクラスで集まる時に使いますので、場所を覚えておいてください」
ここまでは事前に聞いていた情報通り。先生の許可が必要なのは、単純に上級生の授業を受けさせないためというのもあるし、危険なことをさせないためでもあった。
「食堂はそれぞれの
先生のその確認にはセシリア以外のクラスメイトが頷く。その様子にフェルトが苦笑いを浮かべていた。
「あー、一応説明しておくと、今いるここが教練
気軽に放たれた強い拒絶の言葉に、クラスが少しだけ騒がしくなる。
「名前の通り魔導現象の研究をしているのですが、色々とぶっ飛んだ連中が集まってまして。どうしても用がある時は私に声をかけてください」
この
「食堂の話に戻るのですが、学園が運営している大規模食堂は各
生徒による軽食屋は経験のためにもピッタリと、公式に学園から認められているものだ。そしてそのまま卒業後も店を続ける者も多い。
「あとは寮について。基本二人部屋で、家具は好きなように変えていいですが、ちゃんとルームメイトと相談して決めてくださいね。後は今日の夕方に寮長からも説明があると思うので、詳しくはそちらでお願いします」
学園生活に必要な諸々の説明が終わり、フェルト先生が教室全体を見渡す。
「以上。では、最後に皆さんに向けて一言だけ」
こほん、とフェルト先生が言葉を区切り、軽薄そうな笑顔を真面目なものに変え口を開いた。
「あなた方はこれから、入学式で見た、あの偉大な魔導師を目指すことになります。そして私も目指す側です。一緒にあの男をギャフンといわせてやりましょう」
ぞわり、と肌がざわつく感覚。おそらくただ魔力を放出しただけなのだろうが、それだけで生徒と先生とのレベルの違いを教えられる。
自分たちはまだ未熟な魔術士見習い。この学園に相応しい魔術師にならねばならないと、生徒の心が一致した瞬間だった。
「本日の予定はここまで。あとは門限まで、好きに校内を散策していただいて問題ありませんのでー」
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