61 ホテル密会
みなとみらいのラグジュアリーホテルには不釣り合いな、パンパンのスポーツバッグを下げた
〔父〕「また大きくなった。さすが俺の子だ。日焼けしてもカッコいい」
〔餌〕「止めてよ、恥ずかしい」
ロビー前で明らかな未成年にぎゅうぎゅうと抱き着く中年男性の姿であったが、
〔父〕「今日は暑いから中で食べよう」
合宿帰りの着古したTシャツ姿に気後れしている
めったに着ないドレスシャツ姿で、餌はフレンチレストランの客となった。
〔父〕「学校はどうだ。あの大荷物なら、友達と泊り旅行でもした帰りか」
〔餌〕「うん。今サッカー合宿の帰り」
餌は内心の
〔父〕「吹奏楽は辞めたのか。中学までは吹奏楽部にいただろう」
〔餌〕「クラリネットは好きなんだけど、部活が肌に合わなくて」
〔父〕「この前話していたビーチサッカーってのは、遊びじゃなくて部活でやっているのか」
〔餌〕「一応部活と言えば部活なんだけど……。部活みたいに厳しくなくて、友達数人と、サッカーが好きな
〔父〕「そうか。お前が楽しいならそれで良い。ランチのコースにしようか。肉は鴨のロースト、魚はイサキのポワレだって。どっちにする」
〔餌〕「おいしい方」
その言葉に父は
〔餌〕「父ちゃんまだ食欲不振なの。この前だって豆腐サラダしか食べなかったし」
〔父〕「そんなお年頃なの。
〔餌〕「早いよ」
〔父〕「そんな事言っても、元々そんなに食べる方じゃねえ。知ってるだろ」
〔餌〕「そうだよね。
餌の目は、そっと置かれたアミューズ(前菜)に注がれた。
肉と魚をぺろりと平らげた餌がデザートテーブルに案内されると、
〔餌〕「父ちゃん、こう言うのは食べるんだ」
〔父〕「胃もたれしないからな」
〔餌〕「僕もいつか、こんな所に女の子と来たいな」
ピーチソルベの香りを口いっぱいに広げながら、餌はうっとりと一枚板のテーブルを撫でる。
〔父〕「言うようになったな。彼女はいるのか。サッカーをやっているならモテるだろ」
〔餌〕「それが全然。それに今は同じ世代の女の子はホントにどうでも良くって」
〔父〕「年上好みか。血筋だな。あてはあるのか」
〔餌〕「あてって言うか。今通ってる美容外科の先生が、何年か後にストライクゾーンに入りそう」
〔父〕「美容外科だって。そんなの母ちゃんが許してくれるのか」
〔餌〕「後輩の
〔父〕「そりゃいくら何でも年上過ぎやしないか」
父は思わずピーチソルベを皿に落とした。
〔餌〕「その後輩と一緒に出る試合がこれだよ。ほら」
餌はスマホをタップして、試合の公式サイトを開いた。
〔父〕「ずいぶん立派な大会じゃないか。これにお前が出るの。その体で」
〔餌〕「これでもゴールやアシストいっぱい決めてるよ。大戦力だもん」
へえそりゃすごいと言いながら、父はスマホの画面に見入った。
※※※
〔餌〕「やっぱり父ちゃんから母ちゃんに直接渡そうよ。父ちゃんと会ってるのを誰かに見られて、パパ活だと勘違いされたらしいんだよ。母ちゃんは僕には何も言ってこないけど、かなり心配しているらしいんだ」
またしても
〔父〕「だってお前の父ちゃんだからパパ活に決まってるだろ」
〔餌〕「そういう事じゃなくて。その、少年売春的な意味での」
〔父〕「悲しいね。父が子に小遣いをやるのが、そんな目で見られる世の中になっちまったとは」
父はしばし考え込んだ様子だったが、首を横に振った。
〔父〕「母ちゃんには会えねえ。決心が鈍る」
〔餌〕「決心って何だよ。母ちゃんだってきっと父ちゃんの事」
〔父〕「
〔餌〕「まさかとは思うけど、父ちゃん。まさか本当にマフィアの
ゼリーの袋片手に、餌は
〔父〕「今の俺は、ハゲタカの死肉をむさぼるハイエナよ」
父親は、まったく俺も
※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。
※2024/4/29 一部改稿
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