31‐1 ユニフォームはうどん粉病

 シャモが『お百度参り』こと藤巻ふじまきしほりから逃れられる部活の日。

 HRを終えた松尾が練習場に向かうと、赤色のうどん粉病Tシャツに身を包んだシャモが松尾に声を掛けた。

 シャモの中では太陽の輝きをデザインしたはずが、えさの一言ですっかりうどん粉病Tシャツとして認識されている曰くつきのTシャツである。


〔シ〕「とりあえずこれ着て」

 言われるがままに濃紺のうどん粉病Tシャツに身を包んだ松尾をシャモがスマホで撮影していると、助っ人の下野広小路しもつけひろこうじがやって来る。


〔シ〕「おっ、下野しもつけ君これ着て」

 オレンジ色のうどん粉病Tシャツを渡された下野しもつけは、今着るんすかと二人を見てたずねた。


 プロレス同好会に赤色のうどん粉病Tシャツを渡すと、シャモは仏像に声を掛ける。

〔シ〕「今日の練習は絶対これ着ろよな」

〔仏〕「ももいろのうどん粉病シャツ。だせえ絶対嫌。飛島にでも着せとけって」

〔飛〕「お言葉ですが、僕はもう深緑色で確定ですから」

 シャモの言いつけ通りに深緑色のうどん粉病Tシャツを持参した飛島が、ポップアップテントから顔だけ出した。


〔仏〕「いーやーだ! 松尾、交換して」

 先に着替え終えた松尾の鼻先にももいろのうどん粉病シャツを突きつけると、仏像はずんずんとポップアップテントに入る。

 松尾は無言でももいろのうどん粉病Tシャツをテントに投げ込んだ。



※※※



 色とりどりのうどん粉病Tシャツを着込んだ面々の中で、一人着古した大仏Tシャツを着た仏像はがんとしてももいろのうどん粉病Tシャツを着ようとしなかった。


〔餌〕「うっわ心狭っ。僕の子宮色のTシャツと取り替える」

〔仏〕「そんな色絶対にお断りだ」

〔松〕「子宮色って……。もっと他に言い方があるでしょう。八重桜色とか、コスモス色とか。仏像さんはももいろがお似合いです。着ず嫌いはいけませんよ」

〔仏〕「俺にTシャツを投げつけておいて良く言うよ」

 仏像は再度松尾にももいろのうどん粉病Tシャツを押し付けようとしたが、松尾はまたも無言で仏像にTシャツを突き返した。




〔餌〕「おせち三段重事案以降さらに野獣化が進んでいます。花粉眼鏡時代が懐かしい。大人しい子だとばかり思っていたのに、まさかこんなドSの野獣キャラだとは」

〔松〕「野獣やじゅうじゃないです。ドSでもありません!」

〔シ〕「いいや、さすが春日かすが先生のおいっ子だよ」

〔餌〕「どS女医の血筋はどS」

 餌とシャモが松尾をつつく中、仏像はももいろのTシャツをシャモに突き返す。


〔シ〕「着ろよな。大会エントリー用の写真撮影なんだって」

〔仏〕「制服でいいじゃん。ほらな。誕生日会で俺が言った通りいらんもの作って俺らに押し付けるんだよ。新香町美濃屋しんこちょうみのやは俺たちからどれだけ金をむしり取っていくんだ」


〔下〕「え、このTシャツってシャモさんの家が作ったんすか。買い取りは無理っす。俺の財布の中は残り三千円切っとるし」

〔三〕「そうだそうだこの悪徳業者あくとくぎょうしゃああ。大富豪の藤巻家の婿になるんだろ。これ以上私腹を肥やしてどうする気だあああ」

 三元が下野に便乗して悪乗りする。


〔シ〕「頼む、その苗字はせめて学校内では聞きたくなかった」

〔三〕「今日は美濃屋じたくに帰るんだっけ」

 藤巻家と学校と美濃屋の魔の三角形に翻弄される男・シャモは肩を落としてうなずいた。

〔餌〕「結局まだ『お百度参り』に取りつかれたままですか。あの後、何か変化は」

〔シ〕「俺の英会話と簿記ぼきスキルが上がったぐらい」

〔三〕「予備校かよ」

 ぶっと噴き出す三元さんげんに、シャモは笑い事じゃねえんだよとこぼす。


〔シ〕「俺が欲しかったのは『普通』の彼女。高三の夏だよ。花火だよ、海だよ、恋だよ。制服着て一緒に下校するラストチャンスだよ。それを寄りにもよって。餌、お前が蒔いた種だぞ。責任もって何とかしろって」

〔餌〕「留年すれば解決ですよ。おお我ながら何と素晴らしいアイデア」

〔シ〕「どこがだよ!」

 シャモはテーブルに突っ伏すと、やってられねえとつぶやいた。




〔多〕「Hey Guysよう野郎ども!」

 やや遅れて現れた多良橋たらはしは一人びしっとスーツ姿で決めている。心なしか肌色も良く若々しい。

〔青〕「びしっと強そうな写真撮りましょう。就活は第一印象が命です」

 放送部員にレフ版を持たせた青柳あおやぎが、多良橋たらはしの後ろから顔を出した。

 


〔服〕「就活? いや大会エントリー用の写真だよね」

〔仏〕「今日写真撮るなら前もって言えよ。色々準備があるんだって」

〔松〕「青柳部長だ。今度は一体何を企んで」

 松尾は野獣の勘で青柳あおやぎを警戒している。

〔麺〕「コンシーラーとかハイライトとか持ってきたけど使う。でも政木まさき君なら素顔で絶対大丈夫だよ」

 元落研で現放送部員の麺棒眼鏡めんぼうめがねがメイクボックスを差し出した。


〔シ〕「お前らすげえな。放送業界の仕事を一通りマスターするつもりなんだ。あれ君って元落研の麺棒めんぼう君」


〔青〕「そうですよ。彼の隠れた才能はメーキャップ技術とペン回し。特殊メイクもペン回しも名人級です。あなたがたは彼の能力を上手く活用できませんでしたが、我が放送部に来ればほらこの通り」


〔麺〕「じゃーんっ。私、麺棒眼鏡めんぼうめがねの手に掛かればえない陰キャ軍団もフォトショ要らずでイケメン化」

 二枚の写真を麺棒眼鏡めんぼうめがねは誇らしげに見せた。


※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。

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