第10話 ~光の正体を明かすか否か~
「成程、確かに剣君の報告と一致するところがあります」
「まだ疑ってたんですか?」
「少々、デリケートな問題でもありますので」
続けてセレナが剣から受けた報告を語った。
剣は爆発時刻になっても現れない光に痺れを切らし発信機を元にに光を追跡。
しかしそこに光の姿はなく、存在したのはルイスと少女の二人だけ。更にルイスは少女を保護して欲しいと依頼してきた。
気を失った少女を担ぎ、脱出ポッドでルイスと共に脱出した、との事だった。
「詳細なやり取りについては剣君からお聞きください。
と、セレナが一息つくと皆一様に顔を歪ませている。そして光は眉間に皺を寄せて。
「本当に女の体に……ねぇ」
「女の子……ついになっちゃったかぁ」
ディランは頬がぴくぴくと痙攣し、ギャリカは目を瞑って口元を手で覆い隠す。
「間違っても光ちゃんなんて言わないで下さいね! ただでさえ面倒な性格なんだから」
そんな二人を見かねて雪花が言うと三人が笑いだす
「ほ、本当に、ふはは、女になっちまいやがったか」
ディランは腹を抱えて笑う。
「ふふっ、これでコンプレックスなくなったじゃん」
とギャリカは言うが半笑いだ。
「ちょっと二人とも! 本人が」
雪花が光の方を見ると青色の毛玉が見返してくる。一見すればどこかのゆるふわキャラにも見えなくもない。
「ぷふっ……気にして……ふっ」
雪花に関しては光の毛玉姿に笑ってそうだ。
光はディランの前で飛び上がり、右脚一閃。
しかしそこはファウンドラのエージェント。先程は油断したが一度受けた攻撃は二度と食らわない。
ディラン片手で難なく受け止め、まだ目に涙を浮かべて笑う余裕を持っている
「うわっ」
ディランが受け止めたことでまた光は逆さづりになってしまう。
「しかもおい……つるつるだぞ」
「あっはっは、そういや光、男の時も生えてなかったもんね」
「え? ギャリカさん見たの? 光ってそうなの?」
雪花は手で目を覆っているが隙間からちらりとみている。
「ぬあああはなせえええ! 何も見えない!」
光は半裸で足をじたばたさせるがディランの手は掴んで離さない
「やめてください」
セレナがそういうとその腕の中には既にお姫様抱っこされた光がいた。
「こんな幼気な少女に対してはしたないことをしてはいけませんよ、ディランさん」
セレナが宙刷りにされている光を掻っ攫ったのだ。
「ああ、わりぃわりぃ……こんな幼気な少女を……ふふっ、宙吊りにして」
ディランはわざと少女という所を強調して形だけの謝罪する。
光は不満そうに睨むがもうどうしようもない。
「絶対誰にも言うなよ!?」
「どうかな~お前の態度次第だ」
光は釘をさすがディランはふざける。このままでは面白がって面識のあるファウンドラの社員たちに言いふらす可能性がある。
「セレナさん! あいつあんなこと言ってますよ!? 殺してください!」
セレナに泣きつく演技を見せてとんでもない事を言う光。相当我慢できなかったのだろう。
「ディランさん。私からもお願いします」
しかしここでセレナが光を降ろしながら神妙な面持ちで援護する。
「光君は大きな力の持ち主です。男の子の体でも関係各所の説得に結構苦労しましたので」
セレナがそう言うのも無理もない事だった。
この世界では傭兵団、テロリスト、企業、国を問わず大き過ぎる力には優先的に制裁が加えられる場合がある。均衡が崩れないよう、暗黙の了解があるのだ。
大きな施設を一瞬で吹き飛ばす程の力が光にはある。天空都市襲撃を一撃で打ち破った光の力の所有は当時かなり議論された。
しかしファウンドラの規模や理念であれば問題ないという結論に至り事なきを得たのだった。
「分かってる。言わねぇよ」
「お、いい子だディラン。後でよしよししてやるよ。足で」
セレナを後ろ盾に得た光は水を得た魚のように意気揚々とディランを挑発する。ディランは舌打ちをしてそっぽを向くだけ。
「ということでギャリカさんと雪花さんも、このことは他言無用です」
だがそんな事は日常茶飯事なのだろう。気にせずセレナは他の二人にも釘を刺す。
ギャリカは軽く返事をし、雪花も了承するが表情が曇る。それはディランやギャリカと同僚であり、雪花や光と幼馴染である剣の事だった。
「剣にも他言無用ですか?」
「あまり知られたくない情報ですが剣君であれば……どうでしょうか?」
セレナが見たのは光。
全て自分で決めず、当人の意見を聞くことは優秀なリーダーである証拠だ。
しかしできればセレナは話したいと思っているだろう。拡散したくないネガティブな情報でも信頼できる仲間であればそれはプラスに働くものだ。
「秘密で」
だが光はそう答える。
同じ組織に所属し且つ相棒である剣。この情報を共有すればプラスに働くことは間違いないのだが、光の答えはノーだった。
「……理由を伺っても?」
一瞬、気後れしながらもセレナが問う。
「だって馬鹿にされるに決まってる!」
光は膝を突いてうなだれる真似をしてそう叫ぶ。
「そうでしょうか?」
「そうですよ!」
長年コンビを組んでいる剣にさえ女と馬鹿にされることは嫌なようだ。
「おいおい、そりゃあ剣が可哀そうだろ光ちゃん」
「ちゃん付けんな!」
さすがに剣に同情したのか単に光を茶化したのか、ディランがそんなことを言うとすぐに光の突っ込みが返ってくる。
「まあまあ光、せっかく女の体になったんだから剣でも誘惑して、剣の剣をさ」
ギャリカはぺろりと舌を出し、手でいやらしい形を作ってウィンクする。
「ギャリカさん。黙っててください」
自称他称共にビッチであるギャリカはセレナがぴしゃりと止めた。
「ねぇ、光……やっぱりそれじゃあ剣が可哀そうよ」
「可哀そうなのは俺だよ! 何だよ! 女みたいな名前ってバカにされた挙句女になるって!」
「丁度いいじゃん。剣にも教えてさ。あいつ女に弱いから。ね?」
雪花はどうにかして剣に光の正体を教えてあげたいようだ。雪花自身隠し事が下手なのだろう。もし口走ってしまっても剣が助けてくれないと逆に広まってしまう可能性もある。
「何が、ね? だよ! 女に弱いから何だよ! 何にも解決してねぇよ! 丁度よくもない! それにお前も女じゃん」
「わ、私が女だから何よ!?」
「剣はお前には何も反応しないだろ!」
剣が雪花の事をどう捉えているのかを示唆する光の言葉。それに雪花は光の耳を引きちぎらんばかりに引っ張り上げて対抗する。
「あ? 何? 私は女じゃないって言いたいの!?」
「いたいいたい」
「幼馴染だから女としてみていないだけよ! ほら! 兄妹みたいなもんよ! 分かった!?」
「いたいいたい……分かったわかったから耳放せっ」
雪花の説得虚しく、却下されたようだ。
「では本人もこう言っている事ですし言わない方向でいきましょう」
こうしてセレナがこの場をまとめ、各々しぶしぶ承諾したのだった。
その後、光と雪花は病室で食事をとりつつ、セレナはディランとギャリカと話し込んでいる。
『二日前、アリアナ海溝付近にて飛空艇アシェットが墜落したということで当輸送機の運営会社のアシェリタ運送の社長シャルデス=ルポア氏の記者会見です』
病室に設置されたテレビから流れてきたのはそんな音声。
『弊社の輸送機であるアシェットが墜落しとにより皆様に多くの不安と不利益を与えてしまったことを深くお詫びします』
「これってアンタが落とした奴だよね?」
「ああ」
そう言っておにぎりを頬張る光。
『つきましては周辺国と連携し、引き揚げ作業に移る予定でございます。幸いなことにアリアナ海溝のすぐ横に沈没しているとの事で引き上げは可能です』
『水没してしまった荷物はどう責任を取るのでしょうか?』
『飛空艇には六千メートルの水圧にも耐えれる防水シャッターが海水を感知し、作動している筈です。引き上げが成功した際に破損などがなければそのまま輸送致します。破損がある場合に限ってこちらで補償致しますのでご安心ください』
『今回の輸送ですが違法な積載物があるとの情報があるようですがそれはご存じでしょうか?』
『我々は違法な積載物は一切積んでおりません。離陸の際、そのようなことが無いよう検査は行っており、違法なものがあるといったような報告は一切来ておりません』
『荷物の点検などが行われると聞きましたが』
『全く問題ありません』
『では――』
そこでテレビを消したのはセレナ。
「さて、これからの事ですが、雪花さんは剣君と一緒に日和の国に帰省するのでしたよね」
「はい」
日和の国とは光達の出身国である。
「そこで光さんも一緒に帰ってもらい、雪花さんと同じ学校に通ってもらうのがよいかと思います」
光の見た目があまりにも男からかけ離れた為か、セレナの光に対する敬称が「君」から「さん」に変わった。光は特に気にするそぶりはない。
そして光は今後別人として雪花達が通う学校に行く事になるらしい。
「ルイスと連絡はつかないんですか? 早く元に戻りたいんですが」
「ルイス氏は自由気ままなので。輸送会社のアシュリタに問い合わせたところ離陸直前に飛び入りで入って来たのだとか。現在の所在は不明だとの事です」
「そうですか」
光は分かりやすく表情を曇らせるが次のセレナの言葉が表情を明るくする。
「ルイスの情報があればこちらから提供しますので、その間あなたは学校に通ってください」
「分かりました。ありがとうございます」
光の表情が明るくなり、それにセレナも笑顔だ。
「ではまずその服装と長い髪をどうにかしないといけませんね」
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