第一部 6話 歓迎会

 夕 食の間、俺はリックの使い方について考えていた。いや、どう使えばいいんだ?

 全員が食べ終えると、ナタリーがテーブルを叩いた。そのまま立ち上がって、叫んだ。

「リックの歓迎会をします!」

「歓迎会?」

「それはありがたいが……」

 リックが遠慮気味の声を出す。

「場所は近くの森の広場です! 明日の昼からです!」

 ナタリーは強引に話を進めていく。どうやら決定らしい。俺は乗る方向に変更する。

「おお! 参加者は?」

「あたし、お兄ちゃん、リック、セシリーです!」

「あら、私たちは?」

「お父さんとお母さんは、お仕事があるので欠席です!」

「じゃあ仕方ないな」

 父さんが肩を竦めて、頷く。

「お兄ちゃんは、明日セシリーを連れて来てください。あたしとリックは先に森に行って準備します!」

「了解。セシリーを森に連れて行けばいいんだな?」

「うん!」

 ナタリーが満面の笑みで頷く。こんな笑顔を見せられては、抵抗できるはずもない。


 翌日の朝、ナタリーはリックを片手に乗せて森へと向かっていった。

「お兄ちゃん、ちゃんとセシリーを連れてきてね」

「分かったよ」

 念を押すように指を突き付けてから、スキップしながら村の外へと歩いてゆく。

 ご機嫌な姿を見送って、セシリーを迎えに行く。

「セシリー!」

 教えてもらった、セシリーの家をコンコンと何度も叩く。

「はい?」

 しばらく玄関で粘ると、扉がゆっくりと開いた。

 セシリーが目を擦りながら現れた。寝間着姿だった。

「……朝、弱いのか?」

「知ってるでしょ? ああ、忘れたんだっけ……そうだ、今回は全部忘れたんだ」

 聞き捨てならない言い方をしながら、壁に寄りかかる。今にも寝そうだ。

「家の人は?」

「お父さんはお仕事。お母さんと妹はまだ寝てる」

「なんだか意外だな。早起きのイメージがあった」

「む。先祖代々この体質なんだから、仕方ないでしょ……あれ?」

 うとうとしながら首を傾げて見せる。

「そういえば何しに来たんだっけ? 遊びに来た?」

 思わず苦笑してしまう。本当に朝は弱いらしい。

「ナタリーがリックの歓迎会をしたいんだとさ。それで招待に来たんだ」

 ナタリーの招待状を手渡す。昨日の夜にせっせと書いたものだ。

「ははは、ナタリーらしいね」

「まったくだな」

「どこでやるの?」

「近くの森の広場だってさ。セシリーなら場所も分かるっていう話だったけど」

「え? あの広場か。じゃあ、残念だけど中止だよ」

「は? なんで?」

「大型の鬼が森に出たんだってさ。出掛ける前に、お父さんが村から出るなって言ってた」

「おい、嘘だろ……! 広場の場所は!?」

「? 東の出口から真っ直ぐ進んだらすぐに着くけど。どうしたの?」

「やばいやばいやばい。ナタリーとリックが先に向かってる」

「……そんな」

 セシリーの眠気が一気に吹き飛んだのが分かった。

「とにかく俺はすぐに追いかける。セシリーは父さんとか……とにかく村で伝えるべき人に伝えてくれ」

「分かった。分かったけど、追いかけても鬼と遭遇したらどうしようもないじゃない」

「知ってるよ。遭遇する前に連れ戻せるように祈ってくれ」

 全力で走り出す。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る