第40話ヒカル1

〜sideヒカル〜


おかしいって気付いたのはいつだったか?


最初は朝、修練場に向かう時だった。

珍しく寝坊したクロだが、先に説教を終え俺より先に離れを出て行った。

急いで飯を掻っ込んだ俺は、タツヤを置いて離れを飛び出したんだ。

そしたら視界の端で獣道に入っていくクロの後ろ姿が見えたんだ。


あのバカっと思ったね。

珍しく寝坊したせいで焦りやがったか。

あいつは頭でっかちで小生意気で年下のくせに大人ぶりたがるガキだが、俺様にとってはかわいい弟分の一人だ。


獣道は俺ら用に手加減されてるとはいえ罠だらけだ。

クロのガキが入っていい所じゃねえ。

しょうがねえ、弟分を助けるのも兄貴の役目だ。

普段は大人ぶってるくせに、寝坊したくらいで獣道に入るたあしょーがねーガキだ。


そう思ったんだ。


だからクロを追って獣道に入った。


獣道に入ればすぐに見つかると思ってたのにいねえんだ。

いや、かなり先を駆け抜けてやがる。

ありえないだろ?

この罠だらけの獣道を駆け抜ける?

あのクロがか?

小生意気で頭でっかちのあのクロがか?

いや、本当にありえないだろ?


でもさなんのマグレが知らねえが、危ねえだろ?

俺もすぐにクロを追っかけて駆け出したんだ。


追いつけない?


いや、マジでありえねー

俺だぞ、俺様がクロに追いつけない?

確かに罠だらけの獣道だ。

全力疾走ができてるわけじゃねーし、手足に風の刃を纏わせて襲ってくる罠を切り裂きながら走ってる。

それでも追いつけないなんてありえねー!?


そもそもなんであいつ罠に引っ掛からねえんだ⁈

普通に走ってるようにしか見えねえのに、なんでだ⁈

俺でも手間取ってんのになんなんだ、ありえないだろ⁈

それにおかしい。

あいつこんなに足早かったか?

罠に手間取ってても俺の方が圧倒的に早いはずだ。

なのに差が縮まるどころか開いていく。


だんだん小さくなっていく後ろ姿をみながら、ふとミツルみたいだと思ったんだ。

そう思った瞬間に匂ったんだ。

まだ弱え、本当に微かにだがミツルと同じ匂いがした。



匂いに意識がいった瞬間に罠を避け損なっちまった。

ヤバイ、って思った瞬間に意識が飛んだよ。






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