第62話 地上の物は魔王(オレ)の物(五)
次の隊は、待っていても飛んでこない。
「単なる飛行でこの要塞を落とせる可能性など、万に一つもないぞ。さて、向こうはどうする……?」
第一陣の敗北を悟ったらしく、向こうの動きが慌ただしくなる。アイスゴーレムの前に、巨大な岸壁猿たちが配置され始めた。私は全てを見て、そして限りなく満足した。事態は完璧に、私の思うまま進行している。
「魔力の消費具合はいかがですか? だいぶご負担が重い魔法かと思いますが」
副官が言う。私は笑って答えた。
「物の数にも入らんわ。そろそろ妖精部隊を動かすぞ、待機させておけ」
「かしこまりました」
副官が声をかけると、今まで姿を隠していた妖精たちが館の外に姿を現した。迎賓館の建物自体が半円のカーブを描いているため、それに沿うように妖精たちも丸く布陣する。
「あ、あいつら速いよ!」
さっそく、召喚された猿たちが登ってくる。そのスピードは孫娘の言う通り速く、数分で早くも崖の中腹に達した。しかし、妖精たちは冷静にそれを見ている。
「まだですよ。できるだけ高所まで引きつけなさい」
副官は外をにらみながら、腕を組む。
「今です!」
号令がかかった。猿がまさに、迎賓館の外壁に手を伸ばそうとしたその瞬間──彼らは申し合わせた通りに、魔法を唱える。そして、一斉に魔法で生み出した大岩を投げつけた。
無防備な先頭の猿の脳天を、大岩は容赦なく打つ。上さえ落ちれば、下の猿にはその勢いを止める手段などあるはずもない。汚れ、傷つき、そして団子のように固まって猿たちは落ちていった。
悲鳴がこだまする。それが静かになるのに、しばらく時間がかかった。今まで唖然としていた孫娘が、ようやく少し冷静になって動き始めた。
「お、終わった……の?」
「そんなわけあるか」
私は素っ気なく言って、副官に向き直った。
「警備は引き続き続ける。暇している人間たちを呼んで、窓際で任務のまねごとをさせておけ」
「かしこまりました」
迎賓館の中が忙しなくなり、人の話し声が聞こえてきた。私の指示通り、自衛隊の隊員たちが窓際に陣取った。
「孫娘。次の仕事の準備をしておけ。奴ら、これでまた腹が減るだろう」
「いったいいつ終わるんだよ──!!」
わめく孫娘を追い払ってから、私はにやりと笑った。
「さて、次はどう出てくると思う?」
「まあ、まずあそこを押さえて……待ち構えているでしょう」
副官は子供のように輝く目で、私の問いに答えた。正直、その気持ちはとてもよく分かる。罠を仕掛ける時って楽しいからな。
「見過ごすわけにはいかんだろうなあ、人間の戦では水は大事だから」
迎賓館のちょうど北側に、どうどうと水を落とす滝があり、その下に広がる泉がある。泉の下はまた絶壁になっており、水は落ちるとまたすぐに滝になって崖下まで流れていった。
「飯でも食うか」
「こちらの世界では『カツ』と『勝つ』をかけた、カツカレーなる食事があるそうですよ。今日はそれにいたしましょう」
夜の食事を終えて、孫娘と一緒に戻ってきてみると、さっきの泉を取り囲むように、碧の兵の姿が見える。
彼らは夜影に溶け込むようにしながら、近付く者を一網打尽にせんと狙っていた。接近戦に優れた碧の民と、万が一の遠距離攻撃に備えた魔法の防壁。
機動力はないが、水場を守るには鉄壁の布陣だ。
「……見事だ。敵がやってくる方向を、見誤ってさえいなければな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます