第3話
「樹ちゃん」
「……はい」
樹ちゃんから告白を受けたその週の土曜日、私は沙果ちゃん宅にお邪魔していた。
両親が共にいない日のようで、センシティブな話をするにはもってこいの状況だった。
私と沙果ちゃんと樹ちゃんの3人で、三角形を描くように座る。なぜか正座で。
「樹ちゃんが私のことを好きって言ってくれたのは嬉しい。でもその気持ちには応えられない」
「……はぃ」
スカートの裾をギュッと握り込む樹ちゃんと、黙って話を見守る沙果ちゃん。
うう、告白を断るのがこんなにも胸が痛むものだなんて知らなかった。
でもこれを耐えるんだ、私!既に分かっている結果を突き付けられる樹ちゃんはもっと痛いんだから……。
「樹ちゃんは2番目でもいいって言っていたよね。でもやっぱり、沙果ちゃんと付き合っている以上、二股をするのは2人に礼節を欠く行為だと思う」
2番目というのは例えば、愛人みたいなポジションを指すのだろう。
中途半端な気持ちで応えても樹ちゃんのことを大切にできない気がするし、沙果ちゃんだって良い気分はしないはずだ。
特に2人は血の繋がった姉妹なのだから。2人の仲を壊すような真似、私にはできない。
「だけどね、樹ちゃん」
「……麗先輩!?」
今にも泣きそうな彼女を、私はそっと優しく抱きしめた。
「偉いよ、樹ちゃんは……お姉さんと自分を比較して、もうダメだって思って、それでも諦めずに努力して――私は今も昔も思っているよ、樹ちゃんは沙果ちゃんに負けないくらい可愛いって」
「うらら、せんぱい……」
涙混じりの声で言葉を絞り出そうとする樹ちゃん。
懸命に涙を堪える樹ちゃんに愛おしさが込み上げて。
「だからね、私たち、大親友になれないかな?」
樹ちゃんの瞳をまっすぐに見据えて、私はそう提案した。
「だいしんゆう……?」
「そう、大親友」
意味を掴みかねている樹ちゃんに、私はその言葉を繰り返した。
大親友。それは彼女とも親友とも違う、いわば第三の案というやつだ。
恐らく大親友になったとて、樹ちゃんの望む未来は待っていないかもしれない。
けれど時として大親友は、彼女や恋人と同じかそれ以上の関係になる。そんな可能性も秘めている。
「大親友、か……」
「彼女としての付き合いを築くことはできなくても、かけがえのない親友になることはできるでしょ?」
恋人として沙果ちゃんの信頼を裏切れない私は、授業時間を全てこの話に費やして結論を出した。
「ん、麗がそう言うなら私は良いよ。いつだって麗は本気だもんね」
「沙果ちゃん……」
沙果ちゃんの答は得られた。あと、残るは樹ちゃんだ。
「……どうしてわたしなんかに、そこまで考えてくれるんですか?」
「どうしてって」
私を見上げる樹ちゃんの瞳には、想いが断ち切られた悲しみと、新しい関係になることへの期待が浮かんでいるように思えた。
「親近感を感じたから、かな?私も樹ちゃんも、こうありたいっていう理想の像みたいなのがあって、それに近付こうとする君の姿が他人事に思えなかったのかも」
決して情けや気遣いで提案したわけじゃない。
そうだ、私は勝手ながら樹ちゃんに似た何かを感じていた。
言葉にして初めて気付かされたけど、これもまた私の本心だ。
「麗先輩」
「うん」
「わたし、先輩の唯一無二の存在になりたいです」
「うん」
「だから、その……これから、よろしくお願いします!」
まだ納得しきれてはいなさそうで、だけど炎を宿したように瞳は輝いていて。
目尻に涙を浮かべながら、樹ちゃんは笑顔で挨拶してくれたのだった。
彼女の妹から告白された 星乃森(旧:百合ノ森) @lily3
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