The Revenant ~神聖不可侵の討伐者~

琥珀 大和

第1話 若き討伐者はパーティーから解雇されて真実を知り復讐を誓う

「ドレッド、おまえにはパーティーを抜けてもらう。」


突然そう言い放ったのは、パーティーリーダーのディゴエルだ。


「なぜ?」


「確かにおまえは強い。だけどな、絶対的に経験が足りてねぇ。」


「経験は積めばいいだろう。剣術も魔術も、パーティーの中では誰にも負けないと思っている。」


「俺たちはアダマンタスの討伐者スレイヤーパーティーだ。これまで相手してきたのはランクAクラスの魔物ばかりだった。だが、次の討伐対象は名付き魔物ネームドだぞ。しかも、あの地竜ドライアスだ。わかってんだろ?」


俺たちは冒険者ギルドに所属している。冒険者は国家を跨いだ専門職で、大陸中の各所で活動しているメンバーは二万人を超えているらしい。


単に冒険者といっても専門は大きく三つに分かれている。それぞれに、一般人からの様々な依頼をこなす何でも屋フローター、ダンジョンや遺跡専門の探索者サーチャー、魔物狩り専門の討伐者スレイヤーと呼ばれている。


各専門分野はそれぞれ十のランクに分けられており、アダマンダスは実績や実力ではその頂点といえた。因みに、アダマンタス以下はコランダム、トパーズ、クォーツ、フェルドスパー、アパタイト、フルオライト、カルサイト、ジプサム、タルクの順となっており、登録を済ませたばかりの冒険者はタルクから始まる。


各冒険者はそれぞれの適性から専門ごとの依頼を受諾して選ぶ仕組みだが、実力さえあればどの分野の依頼でもこなすことが可能だ。


ただ、分不相応な受諾により依頼を失敗した場合はギルドの沽券にも関わるので、その辺りは依頼によって受付時に審査が設けられている。


現在ではダンジョンアタックでの映像が公開され、それが身分を問わずに人々の娯楽と化している。視聴者からの人気が高い探索者サーチャーやそのパーティーにはスポンサーが付き、以前までとは違って比較的低い危険度で一攫千金を狙うことができるようになった。


そのために下働き的な何でも屋フローターはカルサイトまでの下位冒険者が担う不人気職となり、討伐者スレイヤーに至っては実力のある変わり者や使命感の強い者だけが歩む道となっている。


その中でも俺やディゴエルたちは討伐者スレイヤーを生業にしていた。


「はっきりと言ってくれないか?」


「おまえじゃ足手まといだ。」


「···そうか、わかった。」


ディゴエルたちのパーティーに加わって三年近くが経過していた。


剣も魔術も冒険者登録した頃には上位クラスに引けを取らない実力だったが、絶対的に不足していた経験値で最初の頃はよく迷惑をかけたものだ。しかし、共に行動してそれなりに上手く連携も取れるようになっていたし、実力もある程度は認めてもらえるようになったと思っている。


だが、はっきりと足手まといだと言われたショックは大きかった。


自分なりに良い関係を築いていたと考えていたのは、俺の一方的な思い違いなのかもしれない。


俺は踵を返し、ゆっくりとその場を後にした。




「ドレッドさん、おかえりなさい。」


「ただいま。依頼を無事終わらせたので確認してもらっていいかな。」


「ええ、喜んで。」


冒険者ギルドの受付嬢が朗らかな笑みで対応してくれた。


ディゴエルのパーティーを抜けて三ヶ月が経過している。あの後、彼らと顔を合わせることはなかった。名付き魔物ネームドの討伐のために遠征したのだろう。


俺はというと、単独ソロであまり時間のとられない何でも屋フローターの依頼をこなしながら、ランクBからCの討伐対象が入れば受ける日々を過ごしている。ランクBからCの魔物というのは、トパーズからフルオライトの冒険者が請け負うものだ。


複数のパーティーからの誘いもあったが、たまに一時参加するくらいでレギュラーメンバーとして籍を置くことはなかった。


ディゴエルたちが優秀過ぎたのが理由だ。


他のパーティーで活動していると、これまで見えなかった所が色々と目に入ってくる。


依頼を受ける際の的確な判断、任地へ赴く前の万全たる準備、戦闘時の迅速かつ適切な指示などは熟練の所業といえた。


アダマンタスのパーティーなのだから当たり前と言われればそれまでだが、些細な配慮で気持ちの余裕が大きく変わることに改めて気づかされる。


ディゴエルたちは個の力を最大限に発揮できるよう常に気を配っていた。単独で突っ込む傾向のある俺を、それとなくバックアップして動きやすいようにしてくれていたというのも今ならわかる。


俺がパーティーから外されたのは、そういったことに気づけない未熟さからだと今は理解していた。


「ドレッド、ちょっといいか?」


普段はあまり接してこないギルドマスターが名指しで呼んできた。


「何か?」


「俺の執務室に来てくれ。ディゴエルたちの件で話がある。」


ここは王都にある冒険者ギルドだ。この国では本部扱いになる。当然、ギルドマスターも支部のそれとは格が違う。


ソロで活動する俺に話しかけてくるというのは余程のことだと思った。


後を追い執務室に入ると、ソファーに座れと言ってきた。ギルドマスターも向かいに腰を下ろす。


「ディゴエルから手紙を預かっている。」


ギルドマスターはそう言って、俺に一通の封書を手渡してきた。


「俺に?」


「そうだ。討伐に失敗したら渡してくれと頼まれていた。」


「失敗···ディゴエルたちは?」


「全員、命を落とした。」


俺は封書を受け取りすぐに開封して目を通したが、読み終わる前に目頭が熱くなって涙を堪える事で精一杯になった。


「ディゴエルには息子がいた。ちょうど、今のおまえと同じ年頃で亡くなっている。あいつはおまえのことを息子とダブらせて見ていたんだと思う。」


手紙には、俺への弁解と彼の気持ちが書かれていた。


「ドライアスの討伐は冒険者ギルドや各国の悲願でもある。定期的に実績のあるパーティーが討伐に出向いているが、ディゴエルたちでも難しいのはわかっていた。おまえはまだ若い。ここで無駄死にをさせたくはなかったのだろうな。」


抑えきれなかった。


涙が溢れ、ぽとぽとと手紙に落ちては文字を滲ませていく。


自分がどうしようもない馬鹿だと思い知らされ、後悔の念が吹き寄せてくる。


「もう一通をおまえに渡しておく。これは、これまでの長年の調査でわかったドライアスに関する情報だ。弔いをしたいなら、何年かかってもかまわないから自分を磨け。頼りになる仲間を集めて奴を倒してくれ。」


ギルドマスターは、それだけを言って部屋を後にする。


俺は血が滲むほど拳を握り締め、吐口のない怒りや後悔を自分に叩きつけた。




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