第4話 おまけ①【お留守番】
インヴィズィブル・ファング伍
おまけ①【お留守番】
おまけ①【お留守番】
「ぬらりひょん、これはなんじゃ?」
「勘違いするな。天狗の餌ではない」
「お主、ワシをなんじゃと思うとる?」
シャルルたちに何かあったのか、その動物たちはやってきた。
黒猫に烏、フクロウに蝙蝠・・・。
ぬらりひょんの傍にいるそれらの動物を見て、天狗は最初驚いた様子だったが、自分に寄ってきたフクロウを撫でながらぬらりひょんの近くに腰を下ろした。
「もしや、これらはあの男のか?」
「・・・まあ、そんなところじゃ」
「こんなにペットを飼っておるのか」
「奴のペットは蝙蝠だけじゃ。他は別の奴のペットのようじゃ」
同じような臭いがするからなのか、ストラシスはすっかり天狗に懐いてしまった。
モルダンはぬらりひょんにべったりで、ハンヌは少し離れたところから様子を窺うようにしてこちらを見ている。
ジキルとハイドは部屋の隅っこの天井で、何か話しをしている。
「なんと言ったか、その男」
「・・・さあのう」
「確か、シャルルとか言ったか」
「知っておるなら聞くな」
ぬらりひょんのあまり見られないその反応を見て愉しんでいるのか、天狗はククク、と小さく肩を揺らして笑った。
ぬらりひょんは立ち上がって何処かへと行こうとしたのだが、天狗に呼びとめられた。
「主が世話を頼まれたのに、放っておくわけにはいくまいよ」
「・・・ワシは動物の世話などしたことはない」
「動物のような輩なら、世話をしてきたのにのう・・・」
「・・・・・・」
放っておいても死なないだろうが、それでも何処かへ行ってしまったとか、病気になってしまったとなれば、あのシャルルになんと言われるか分からない。
それだけはなんとしても避けなければいけないことだ。
「確か、動物と接している輩がいたはずじゃのう」
「・・・天狗、主、性格が悪くなったか?」
「いやなに、始めからじゃ」
ぬらりひょんは、とある場所に来ていた。
あまり此処に来ることはないぬらりひょんだが、ぬらりひょんが来たことは、きっとバレテいるだろう。
「何か用かな?」
「・・・主らに少々、聞きたいことがおうてな」
「俺達に?」
そこは鬼たちを通さないための結界を張っている場所だ。
そこにいる鳳如という男は、いつもニコニコと微笑んでいるが、この男もなかなかの実力者だ。
ここには動物がいる、という言葉は語弊があるかもしれないが、世にも珍しい動物を扱っていることに間違いはない。
「そういうことね。なら、帝斗がいいんじゃない?あいつは猫飼ってるみたいだし」
帝斗という男のもとへ行くと、仕事もせずに猫を遊んでいた。
事情を説明すると、その猫に会わせろと言ってきたため、連れてきていないから無理だと言うと、わざとらしくため息をされた。
他は猛禽類だからそのままでも平気だろうが、シャルルによるとあの猫だけはミシェルという女に相当可愛がられて大事に育てられていたため、多分野生のようには生きていけないということだ。
帝斗から猫の餌のことや接し方を教えてもらって帰ると、そこには猫が座って尻尾を振って待っていた。
「にゃー」
「・・・・・・」
足元に擦り寄ってきたかと思うと、ひょいひょいと身体にクライミングのように登ってくる。
そしてぬらりひょんのお腹あたりまで来ると、ぬらりひょんは猫を抱きあげて床に戻したのだが、また登ってきた。
何がしたいのか全く理解出来ないでいたぬらりひょんは、そのまま炬燵に入る。
ひょこっと顔を出した猫は、ぬらりひょんに懐いたまま離れようとしない。
餌でもやるかと、天狗に買って来てもらった餌をやると、それを食べていた。
毛づくろいをすると、ぬらりひょんの横にぴたりとくっついたまま、丸くなって寝てしまった。
その背中をそっと撫でてみると、思ったよりも柔らかかった。
そのままうとうとと寝てしまったぬらりひょんは、誰かの声で目が覚めた。
「起きたか。よう寝ておったのう」
「・・・なんじゃ。用がないなら起こすな。ワシは眠いんじゃ」
「何時間寝れば気が済むんじゃ。主、また総会を欠席したようじゃのう。総大将として、出席しようとは思わんのか」
どうやら、今日は何かの総会があったようだ。
しかし、ぬらりひょんにしてみれば、そんなものどうでも良い。
どうせくだらない話しあいしかないのだ。
答えなんてないのに、それを求めてずっと討論し合うだけの時間など、無駄だ。
それぞれ考え方も価値観も違うというのに、どうやって一つにまとめようというのか。
「ワシはこやつらの世話で忙しいんじゃ。適当に済ませれば良かろう」
「何処が忙しいんじゃ。猫に餌をやっただけじゃろうが」
ふぁあああ、と大きな欠伸をしながら、ぬらりひょんはまた目を瞑ろうとした。
しかし天狗に起きろと言われ、ぬらりひょんは渋々目を開ける。
「猫が羨ましいのう。気紛れで呑気に寝ておれば良いんじゃから」
「主となんら変わらんな」
「何処がじゃ。猫は総会を欠席しても叱られんじゃろう」
どれほど猫が羨ましいのか、ぬらりひょんにしては珍しく、本当に珍しく、弱音とも思えるような言葉を発した。
弱音というよりも、ただの文句かもしれないが。
猫もピクリと身体を起こすと、ぬらりひょんの方をじーっと見ている。
ぬらりひょんは猫の顎をさすると、ゴロゴロと喉を鳴らしながら、なんとも気持ちよさそうにしている。
するとまた、ぬらりひょんも眠たくなってしまって、ついには寝てしまった。
それをみて、天狗はやれやれとため息をつきながらも、ぬらりひょんの肩に毛布をかけた。
「にゃー」
「・・・・・・」
「にゃー」
「・・・・・・」
「にゃーにゃー」
「・・・なんじゃ、もう朝か」
「何を言うておる。もう昼じゃ」
すっかり寝てしまって、昼になっていた。
朝ご飯もまだやっていなかったと思ったぬらりひょんは、猫に餌の準備をしようと立ち上がったとき、猫が動き出した。
何だろうと思ってその動きを見ていると、猫は床にいた蜘蛛を見つけたようだ。
遊ぶのかと思って見ていると、猫はその蜘蛛を捕まえて、そして貪り始めた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「天狗、今何かあったか?」
「いや、ワシは何も見ておらん」
「にゃー」
『モルダンは見た目以上に逞しいのよ』
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