第4話 おまけ「ミシェルの先輩」
インヴィズィブル・ファング 弐
おまけ「ミシェルの先輩」
おまけ①【ミシェルの先輩】
ミシェルは、久しぶりに故郷へと帰ってきていた。
「ミシェル!元気だったのね!」
「ただいまーー!!」
以前、魔女狩りが起こった際にも帰ってくることになってしまったが、あの時は充分に再会を楽しむことが出来なかった。
モルダンとハンヌも連れて来ようと思ったのだが、相変わらずシャルルにべったりのモルダンは、今日は棺桶で寝ているシャルルの腹の上に乗っかって寝ていた。
ハンヌには、シャルルがモルダンに変なことをしないようにと、監視役を頼んできた。
「今日はミシェルの大好物を用意したから、沢山食べていきなさい」
「わーい!ありがと!」
歓迎されて家の中に入れば、そこには特大のピザがあった。
フワフワの生地に、具材はチーズとベーコン、アスパラに牛肉、水菜に人参、仕上げにはレモン汁をかける。
「いただきまーす!」
ぽん、と手を合わせてピザを食べ始めようとしたとき、扉が急に開いた。
無遠慮に入ってくるのは誰だと思っていると、そこには金髪の髪にピアスをつけた、ミシェルより背の高い男がいた。
男を見ると、ミシェルだけでなく、周りの大人たちも歓声をあげる。
「あれ、空也先輩。何してんの」
「よう。なんか最近、面白い奴と組んでるって聞いたからよ?興味湧いてきちゃった」
にしし、と笑いながら部屋に入ると、当然のように椅子に座って足を組み、テーブルにあったピザを一切れ食べた。
二人であっという間にピザを食べ終えると、食後の散歩に出かける。
「そういや、今日は猫と烏いねぇのか」
「モルダンとハンヌ?聞いてよ!あのね、私が時々居候させてもらってる城の人がね、すっごく嫌な人で、でもモルダンってばその人のところばっかり行っちゃうの!!私の隣では大人しく寝てくれないのに、その人がいると、膝の上とかお腹の上とか、腕のなかとか。とにかく、私のところに来てくれなくなっちゃうの!!どうしたらいいのかな!?」
「・・・お前、それ御主人とは呼べねえんじゃねえか?」
空也の言葉に、ミシェルはうううう、と涙を拭うフリをする。
モルダンとハンヌを飼い始めた頃から、ハンヌはともかく、モルダンは気まぐれだった。
飼い主のミシェルのことなんか気にせず、毎日のんびりと、自分が好きな場所へ行って昼寝をしたり、知らない人に懐いて餌を貰ったりしていた。
「あの自由なモルダンがそんなに懐いてるのか・・・。じゃあ、諦めるしかねえな」
「嘘でしょ・・・。嘘だって言ってぇぇえぇええええええ!!!!」
「ミシェル、お前ってシェリアに似てるよな。うるせぇしチビだし胸ペタンコだし」
「失礼ね。シェリアより魔法使えるもん。それに私の方がちょっとは胸出てるもん」
「胸だか腹だか分かんねえよ」
ここで、空也という男について説明しよう。
女の子に対しても毒舌なのは、シャルルに似ているが、空也はれっきとした魔法界の住人であって、というよりも次期国王になる男なのだ。
魔法の力はピカイチで、センスも抜群。
まだ若いのにも関わらず、仲間や国民たちからの信頼も厚い。
というのも、空也はこんな自由気ままな男なのだが、常に空也をサポートしているナルキという男が、上手くやっているのだろう。
魔法界には、正式な魔法使いとなるべく、試験がある。
その試験にはミシェルも合格しており、こうして一人でシャルルのもとに行っても問題ないのだ。
「ナルキ先輩もソルティ先輩も、優しかったなぁ。シャルルとは大違い」
「海斗の名前がなかったな。てか、シャルルって?居候先の奴?」
「そ。モルダンの心を奪った、私の天敵よ!いつか見返してやる!」
「無理だろうな」
あっさりと否定されてしまい、ミシェルは心が折れそうになる。
それを知ってか知らずか、空也は広場まで来ると、ミシェルの方を見た。
「久々に、特訓してやっから」
「・・・。望むところよ!」
それから陽が沈むまで、ミシェルは空也と魔法の練習を続けた。
普段は周りに魔法使いがいないためか、あまり本気で魔法を使うという機会がない。
しかも、魔法界の一、二を争うほどの男が目の前にいるとなると、さらに違う。
「あー、疲れた。やっぱり空也先輩にはまだまだ敵わないわ」
「ったりめぇだろ。俺様を誰だと思ってんだよ」
「そういうとこ、ちょっとシャルルに似てるのよね・・・」
空也はこれから女の子たちを遊びに行くということで、さっさと帰ってしまった。
葉っぱに乗って魔法界に辿りついた空也は、葉っぱから下りるとうーん、と背伸びをして女の子たちが待っている場所に向かった。
「あー、空也やっと来たー」
「遅いよー」
「ごめんごめん。ちょっと野暮用でね」
「まさか女じゃないでしょうね?」
「女っちゃ女だけど。俺の後輩。ま、頼りになる奴らが傍にいるから、大丈夫だとは思ってたけど。心配無用って感じだったな」
「なにそれー」
それから何をするわけでもなく、ただ本当にお話をしていた。
女の子たちはそれだけで満足するようで、ぺちゃくちゃとおしゃべりを満喫していた。
みんなを家まで送り返すと、今度は別の影が近づいてきた。
「ミシェル、元気だった?」
「ああ。お前のこと優しい先輩だったって言ってたぜ。ナルキ」
「空也があまりに厳しかったからだろ?」
そうだっけ?と惚ける空也の後をついていくナルキ。
魔法界は、今日も変わらず平和なようで。
空也との特訓で疲れ切ったミシェルは、シャルルの城の階段で寝てしまっていた。
「・・・・・・なんだこれは。邪魔だな」
三階の書室にいたシャルルは、野菜ジュースでも飲もうかと下に下りてきていた。
その途中、階段で寝ているミシェルを見つけるも、ベッドまで運んであげることもなく、かといって起こしてあげることもなく。
ゲシゲシと何回か足蹴にしたあと、跨いでテーブルまで向かった。
「・・・モルダン、またこんなところにいたのか」
「にゃあ」
シャルルが椅子に座って足を組むと、そこにちょこん、とモルダンが乗ってきた。
顎を撫でてやれば、ごろごろと喉を鳴らして鳴いたあと、尻尾を振って身体を丸める。
『あったかい』
『ねえジキル』
『なにハイド』
『シャルル様、モルダンに取られちゃいそうだよ』
『嫉妬しちゃうね。あったかいって言ったよね。今、シャルル様に撫でられながら、あったかいって言ったよね』
『うん。言ったね。確かに言ったね。私達の御主人様なのに』
「ジキル、ハイド、こっちに来い」
『あ、呼ばれた』
シャルルに呼ばれ、ジキルとハイドはバサバサと羽根を動かしてシャルルの肩に止まった。
もうぐっすりと寝てしまっているモルダンを膝に置いたまま、シャルルはジキルとハイドの頭を撫でる。
「最近あんまり構ってやれないからな」
そう言って、暖かい手で触れられるだけで、ジキルとハイドは幸せな気持ちになる。
『僕、シャルル様大好き』
『私も大好き』
「んー、空也先輩の馬鹿」
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