サークルでキャンプに来たのに、2人きりなんだけど
竹部 月子
第1話 集合
キャンプ場のカーサイトにジムニーが到着し、運転席から
「お疲れ様です」
チノパンに薄手のシャツを羽織った昴に対して、このまま登山でもできそうなウェア姿で真琴は帽子をかぶりなおす。
「あれ? バスで来るって言ってたの昴くんだけだったっけ」
きょろきょろあたりを見回す真琴に、言いにくそうに返事をする。
「……セイヤさんから連絡来てません?」
慌てて真琴は鞄からスマホを出し、スクロールした画面を見ながら叫ぶ。
「えっ、他の男子全滅ってどういうこと?」
「このキャンプ、天文サークル初のビッグイベントじゃないですか。それで、居酒屋で前祝いをやっちゃって、その結果、昨日からセイヤさんが発熱しました」
「うわぁ、どうして当日を楽しみに待てなかったの!」
真琴の非難の声に、男子代表として昴がスミマセンと謝る。
「今朝、陽性だって結果が出たみたいで、まだ症状出てないやつらも全員自宅待機です。飲み会に行かなかった僕だけ、買い出し班のお役目を果たしに来ました」
昴は地面に置いてあった大型のクーラーボックスをボンと叩く。
「相変わらず、すばるんは真面目だなー。でも何で飲みに誘われてないのよ? イジメか? おねーさんに相談してみなさい」
「その日がバイトだっただけですよ。……お姉さんって、いっこ年上なだけじゃないですか」
「いっこでも年上です。あー、でも、実はアカネちゃんと、サキのバイト先でも陽性者出たらしくてさ。シフト埋めなきゃいけないから参加できないって連絡来てるんだよね」
「ってことは、あとミウさんしか残ってないってことですか? あの人が行けたら行くって言って、ホントに来たの見たことないんですけど!」
通知音が鳴って、画面を見た昴が真琴にスマホを向ける。
「ほら、『ごめーん、やっぱ無理』って!」
真琴はがっくりとうなだれて顔を覆う。
「10人も参加予定だったのに……はじめての本格イベントだったのに……ううぅ」
「あ、いや、そんな全力でヘコまないで下さいよ」
慌てて顔を覗き込んだ昴の前で、真琴はパッと手を開いて舌を出した。
「……なんてね! このご時勢だし、仕方ないよね。何買ってきてくれたの? このまま持って帰れそう?」
昴はクーラーボックスを開けて、中身を見せる。
「いえ残念ながら、がっつり生肉です」
「おう、さすが食べ盛り。じゃ、しょうがないから2人焼肉しちゃう? デイキャンプでも、メンバーが2人でも、キャンプは開催しましたよってことで」
「……デイキャンプですか」
「もちろん、昴くんがイヤじゃなければだよ。あたし、火起こしとか肉焼くのとか超得意だし、座ってていいからさ」
昴は、ちらっと真琴の車の後部座席に満載された荷物を見る。
「陽射しがちょっとキツくないですか。このままじゃ、日焼けしちゃいますよ」
「乙女かっ! タープはセイヤが持って来るって言ってたから、積んできてないんだよねー。あたしのテント、シェルターにもなるような、でっかいやつだからそれ張る?」
「ぜひ、張りましょう」
食い気味に返事をした昴に、真琴が笑う。
「陽射しに弱いくせにノリノリじゃないの。よし、荷物出そうか!」
車からテントを降ろすのを昴も手伝う。
「あとは椅子とテーブルと、焚火台と、火起こし道具一式と……他に何かいるかな?」
「寝袋は持ってきてるんですか?」
「持ってきてるけど、昼寝するの? ここの路線バス、最終17時とかじゃなかったっけ? 寝てる暇は無いと思うよ」
不思議そうな真琴に、昴はすぐに話題を変える。
「それならいいです。この道具って、全部真琴さんの私物ですか?」
「私物というか、家で使ってるやつだよ。うち、おじいちゃんの代からキャンプ大好き家族だからさ、一部屋丸々ギア入れになってるんだ」
「僕はアウトドアと全く無縁の家で育ったんで、人生初キャンプなんですよ、テントの建て方から火起こしまで、なにもかも教えて下さい」
「まっかせなさーい」
2人はテントを組み立てはじめる。
「バラバラの棒はショックコードで繋がってるから、長い1本になるんだよ。できた? じゃ、このスリーブに通すからね。……いいね、おっけー」
指示しながら不慣れな昴に合わせてゆっくり作業をすすめる。
「じゃあ、ポールの端っこをテントの下から出てる金具に入れるよ。昴くん、そっちも入れてー」
「えっ? これに入れるんですか? 無理無理、こんな細い棒折れますって」
「大丈夫。ポールがみょーんって、しなるから」
「うわ、マジで怖い。折れる、折れる」
ひぃ、とビビっている昴を、真琴は笑いながら励ます。
「折れない、折れない」
テントが組み立て終わり、2人で中に入る。
「広っ。ここで暮らせるレベルじゃないですか」
「寝るときはこの奥にインナーテントってやつを吊って寝るからね、寝室になるのは全面じゃないよ。今日は全部開けてタープ代わりにしよう、さー、火起こしするぞ」
真琴は焚火台を広げて、中に麻紐をほぐした火口を入れ、小枝を組む。
「あのウエハースみたいな茶色いやつは、使わないんですか?」
「着火剤のこと? あはは、確かにウエハース感あるね! あたしは使わないよ。これでも着くから見ててよ」
小枝に燃え移った火が、少しずつ上方に炎をあげ、そこに真琴は小割にした薪を足して、炭も乗せていく。
「おー、ついたー。もしかして真琴さん、あのジャって火花飛ばして付けるのもできるんですか?」
「メタルマッチも持ってるけど、のんびり火起こしする時にしか使わないよ。今日は早く肉焼かなくちゃ」
「そんなに急がなくても……」
「お日様が傾いてきたな、って思ってからが早いのだよ。よし、肉を持てぃ」
「ははーっ、ただいま!」
肉が焼け、食べ始めてもしきりに時計を気にする真琴に、不服そうな昴。やがてザッと音を立てて立ち上がった。
「あ、今なら終バスに余裕で間に合うよ。もう行く?」
「……そんなに早く帰ってほしいですか」
昴の低い声に、真琴は慌てて顔の前で手を振る。
「いやいやいや、そうじゃないんだ。あ、そうだよ。バスがなくなっても送っていけるんだった。あたし車だもんね。急かしてごめん、ごめん。ゆっくり食べようね」
「そうっすね。じゃちょっと、売店いってきます」
真琴の顔を見ることも無く、昴は売店へ歩いて行ってしまった。
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