君の憂鬱、最後の転生

青柳藍

上 再開の後

 何年ぶりだろう、短いようで、思い返してみると案外長い。

 長いと言っても、それは空白だ。

 足音がやけに響く。

 それが心の平静を奪っていく。


 部屋の番号を一つ一つ確認していく。それに従って少しずつ鼓動が速くなっていくのが自分でもわかった。

 スマホにメモしておいた番号の前で立ち止まる。ため息を吐いた後、深呼吸をしそうになった。あまりにも不自然だ。もっと自然であるべきだ。数年間会っていなかった友人と再会するだけ、ただそれだけだ。これ以上脳内で言葉を並べてしまってはいけない。

 そう感じた瞬間、スマホが光り、通知が表示された。すぐそこにいる彼からのメッセージだ。


「あ、大丈夫?道分かりづらいから迷ってるかなって」


すぐに返信する。

「ちょうど今着いたよ」


少しずつ部屋の中から音が近づいてきて、扉が勢いよく開いた。

 彼は笑顔だった。


「久しぶり」

中に招かれ、軽くお互いの現状について話をし、お見舞いの品を渡す。そうして再会の挨拶は随分とあっさり済んだ。

 知りたいことはたくさんあった。でも、尋ねていいのか分からなかった。もともと長居するつもりはなかったし、彼の少し眠そうな様子も垣間見えた。

 お互いのためには、早く去るべきだろう。


 そんなことを考えながらふと部屋を見渡す。あまりにも物が少なかったが、きっとこういうものなのだろう。

 だからこそ、机の上に置かれている一冊の青いノートと、その近くにあり長い文章を映しているパソコンのことが気になった。

 彼は私の様子に気づいたようで、

「片方は読んでもいいよ。読める方」

と言ってくれたが、いまいち理解できず、とりあえず近くにあったノートを開いてみた。

 薄く細い線がもがき苦しみ、のたうち回っていた。

 読めなかった。

 罫線などが完全に無視され、左上の隅から右下の隅まで文字らしき線で埋め尽くされていた。そのページの裏側から、筆圧によって生まれた起伏がかすかに主張してくる。きっと、ずっとこのようなページが続いていくのだろう。


 私はそれをそっと閉じ、パソコンの画面へ目を移す。


「毎朝1ページ、脳を鍛えるために書いていたんだ」

 それが「読めない方」の説明だとなんとなく分かった。私にも経験があったから。私の場合は、頭の中を整理するためだったけど。


 なるほどね、と相槌を打ったあと、私は「読める方」を読み始めた。

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