パラノーマル•ドミネーション
駆動綾介
第一奇譚 犬も歩けば‥‥‥
第1話 棒に当たる
二〇五十年九月六日 午後十八時、
ここは夕闇が迫る閑静な住宅地から程遠い騒音こだまするA県麻人市にある工業団地だ。
夕暮れ時とは言え9月の残暑は厳しい、僕は夏の暑さは許容できるけど、9月の暑さはどうにもいけ好かない、夏の暴力的な暑さも、うるさ過ぎる蝉も夏というフィルターにかかればそれは季節を引き立たせる名脇役になる。そんな舞台で大人子供が夏を免罪符にして一喜一憂できるのが夏、でも8月を過ぎた途端、漠然とした理由も
僕はそんな事を思案して漫然とそぞろ歩いている、いや本当の所目的はあるのだ、でも目的が不明瞭が故にそぞろ歩く羽目になっている、ダラダラとね——。
工業団地とは工場を計画的に集積させた地帯なんだけど——この工場で働く労働弱者は皆、俗世間では働けなくなった世棄て人、内乱罪、殺人罪、
面白い事にこの工場、重犯罪者を働かせているにしては警備体制はガバガバ、出入り口も警備員が立っているわけでもなくアッパラパー状態、建物の周囲を囲むのは安っぽい金網だけ、せめて有刺鉄線くらいあってもいいだろうに……。
工場を眺めていると金網越しに受刑者と目が合う、受刑者は帽子を取りニッコリ口角を上げ会釈してきた、僕は引き攣った笑顔で会釈を返す。ここの受刑者は気持ちが悪い、眼がね死んでんだよ魚の死んだ目の方がまだ可愛げがある。
眼は人間のまなこなりとはよく言ったもので、その通りだろう彼らの眼は充血し慢性的な眼精疲労のように見えるが瞳孔は常に開きっぱなしで発汗機能がバグってるのか常に汗だくだ。
端的に言えば受刑者は皆、薬でガンギマリってこと。噂では受刑者を型にはめる為に合法的に薬物を使用しているらしい……何ともまぁ、合理的ですねぇ。
ま、そんな風景なんて僕からしたら慣れたものさ——何故かって? そりゃあ住んでるからね、こんな犯罪者と人外の鉱脈みたいな街に。
人外、そう——ここには人ならざる者がいる……十三年前に起きた呪術宗教団体【灯火の社】による集団呪術の影響により霊障被害が多発。その呪術は現世に狭間を造り、霊界との境界を断ち切るものだった。そうなればこの街は
そして取り憑かれた者の総称を【
また霊奇が起こす人間業とは思えない犯罪には警察も手をこまねいていると言うのが現状だ——何せ宙に浮く死体なんて見たことないだろ? ——。
そこで我らの出番ってわけさ、僕らは霊奇や怪異が引き起こす怪奇現象を専門とした何でも屋【賢者の堂】に所属している。
お察しの通り僕が徘徊している理由は、ある依頼を受けているからだ————。はぁ、しかし前述で述べたけど、不明瞭。正確には目的はあるのだが、目的が不透明と言っておこう。そう、はっきりとしていない。
これは全て僕の相方の責任なのだ、なのにアイツは全くもって連絡がつかないときた、どうしたものか…………?
と、愚痴縋りながら歩き回っていたのだが、いかんせん今日は憑いてるみたいだなお目当ての者が見つかったようだ……?
日が沈み切る前の朱色がかった橙色をした夕陽がさす黄昏時の工業団地に、それは居た。
道路を照らすため鎮座している道路照明灯、チカチカとついたり消えたり既に事切れそうな照明灯に止めを刺す勢いで、何度も何度も頭を打ち付ける————犬。
異様、一度打ち付けては一歩二歩下がり照明灯に頭から突っ込む、頭部の毛は血に染まり何色だったのかもよくわからない、血の付いていない胴体は茶、黒、白色が混ざりきっていない毛色で長毛種である事が見て取れる。
異様さも相まってその犬の姿に驚愕する大人の人間の腰くらいはある体高、そしてその見た目は狼そのもの……ん? オオカミ? 狼って絶滅してなかったか!?
夜の帳が下り、辺りは闇に満ちるその犬?狼? は照明灯の明かりに照らされ独り舞台の悲劇を見せられているようだ、そうだなタイトルは【犬も歩けば棒に当たる】いや当たりに逝くが正しいのかな?
我ながらつまらん事を考えてしまったアイツに話したら「ひねりがない、つまらん」か「
気付けばその獣は(犬か狼かわからんから今は獣とする)夜の帳が下りると同時に自傷行為をやめていた、不穏だ気配が違う、獣はこちらに気づき照明灯に向けていた体をこちらに向ける。地面には血液が飛び散っているため、おどろおどろしい足音がズチャリズチャリと鳴り響く。
獣の顔が照明に照らされて顔貌がはっきりわかる獣に相応しい形相、眉間に数え切れない程の
しかし気になる事が1つこの獣、左目がないのだ、頭突きによる裂傷というよりはもっとこう刃物で抉り取られたような……。
獣は「う」なのか「ヴ」なのかわからない低く重圧を感じる唸り声とカッカッと歯を鳴らしながらこちらに距離を詰めてくる。
「いやいやメチャクチャ怖い! 工場にいるガンギマリ君達の方が可愛いって! 」
えーとっ熊にあった時の対処法は確か目を見てゆっくり後ずさりしながらっ!!??
そんな悠長なこと考えている場合ではなかった、獣は凄まじい速さで距離を詰めてくる!
「くっ! ——そっ!」
灰色オオカミと言う種は時速70kmで走れるとかなんとか。
獣の巨体が弾丸の様に飛びかかる咄嗟に右腕を前に防御耐性をとったが、重さに耐えきれず狼狽え後ろに転倒、何とか急所である首は守れたが、利き腕である右腕の前腕は獣の凄まじい咬合力で奥歯までガッポリいかれてる『痛い痛い痛いっ!!』ゴリッゴキャ、前腕の骨が擦り砕ける音が体の内部から響き渡るのがわかる。
「あ゛ぁ゛っ!!」言葉にならない声を上げ睨みつけ痛みに耐えながら獣の上顎を左手
で掴み引き剥がそうと奮闘する——しかし僕の左腕は何者かに強力な握力で掴まれる——人の手?——で獣の上顎から引き離されてしまった。
誰か助けに来たのかと期待したがそれもぬか喜び、僕の左手はコンクリートの道路に叩きつけられ「痛っ!」何者かに押さえつけらてしまった左腕はピクリとも動かせない。
いったい誰が!?
「やめろ! 離してくれ!!」
僕の願いなど叶うはずもないだって僕の腕を押さえている白くて痩せ細っている女性の様な腕の持ち主はこの獣自身のものなのだから。
「は? ——っ!! 冗談だろっ!?」
獣の右側の肩甲骨辺りから人の腕が生えているのだ、そして左側の肩甲骨からはまるで植物の成長動画を倍速で見ているかの様にバキバキと音を立てながら瞬く間にもう一本の人間の腕が生えてきた。
その腕は一瞬で僕の首元まで手を伸ばし締め上 げる「カヒュッあ゛ぁ゛ッコォっ」声が出ない苦しいやばいやばいやばいやばいヤヴァイ!!死ぬ死ぬしぬしぬしぬシヌし……意識が遠のく視界が隅から白濁としていく。
締められるアヒルの気持ちがわかった気がするって何言ってんだぼくは————。
この町に悲劇あるならそれは奇劇ありきだと言うことを僕は忘れていたようだ。
続くのか? これは?
◇◇
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