第21話

この前は水瀬さんが教室まで来たから、その後にクラスメイトに声を掛けられた。

でも、今日は誰にも声を掛けられず穏やかな1日が過ぎていく。


やはり、みんなのパーソナルスペースに入ってこない限り大事にはならないみたいだ。幻覚かも?と思われているかもしれないし。



1日の授業が終わり、私は涼ちゃんと別れ、美術室に向かう。今日は修学旅行から帰ってきた先輩達(2人)に会える日だ。


ドアを開けると、すでに先輩達がおり…楽しそうにお喋りしながらお菓子を食べている。

うん、平和だ。やはり、ここは私にとって居心地がよく、気が許せる場所だ。


「先輩、お帰りなさい」


「あー、佐藤ちゃん。久しぶり〜」


部長の一ノ瀬先輩がお菓子をもぐもぐと食べながら元気に挨拶をしてくれた。副部長の悠木先輩も笑顔で手を振ってくれて嬉しい。


「これ、京都で買ったお菓子だよ。食べて、食べて。美味しいよ」


「はい、ありがとうございます」


一ノ瀬先輩にお菓子を勧められ、お菓子を口に入れる。うん、京都の八ツ橋は美味しい。


「あんこ最高です」


「良かった。佐藤ちゃん、チョコが好きなのは知っていたけどあんこはどうだったかな?って思っていたから」


「あんこも大好きです」


一ノ瀬先輩がホッとしている。後輩のためにお土産を心配してくれるなんて優しいよ。


「先輩、京都どうでした?」


「楽しかったよー。楓と色んな所を周った」


「もうね、夏鈴がはしゃいじゃって大変だったよ。いつもより歩くの早いし」


楽しそうに京都旅行の思い出を語ってくれる大好きな先輩達。やっぱり、先輩がいると安心するし、ぼっち感が薄れるから嬉しい。

だけど、みんな眼鏡族なのに先輩の名前がいつも羨ましくて堪らない。


部 長 一ノ瀬夏鈴(いちのせ かりん)

副部長 悠木  楓(ゆうき かえで)


同じ眼鏡族の私の名前(佐藤千紘)とは大違いだ。もう、名前だけで天下取れるし。

2人とも私と同じ闇属性・月族だけど名前は光属性・太陽族でキラキラと輝いている。


「ちーちゃん〜」


今は部活の時間で帰宅部以外は活動している時間だ。だから、最初は聞こえ間違いだと思っていた。でも、私の目は本当の太陽族の凛と水瀬さんを捉える。


ジャージ姿で窓から手を振る凛は誰が見ても太陽族と判定する輝きを放っており、思わず舌打ちをしてしまった。


月族は青春って言葉が無縁で、簡単に青春してます感を醸し出す凛に思わず腹が立ってしまった。この陽キャめと…


「凛、どうしたの…」


でも、笑顔で手を振ってくる凛を無碍にできず立ち上がり凛の元へ行く。


「ちーちゃんの顔が見たかったの」


「部活中じゃないの…」


「うん、今からランニング。ねぇ、ちーちゃん。何、食べてるの?」


「八ツ橋」


「和菓子?」


「凛が苦手なあんこが入った和菓子」


「へへへ、覚えててくれたんだ」


凛の喜ぶポイントが私には分からない。凛があんこを苦手なのを覚えているだけでフニャと笑い嬉しそうだ。

でも、私はお菓子だから覚えていた。凛があんこが嫌いでよく貰っていたから。


「いいな。八ツ橋…」


「水瀬さん、食べる?」


「いいの?」


私は先輩に了解を貰い、八ツ橋を水瀬さんに渡す。水瀬さん…幸せそうに食べるな。甘い物が好きなんだね。


「あれ、陽奈ってあんこ嫌いじゃないの?」


「私が苦手なのは羊羹だよ」


何だろう、この光景…私が建物の中にいるから少しだけ高い位置におり、2人より身長が高くなっている。

だからかな、2人の動物感が凄くて…エサ待ちをしているワンコみたいだ。


「あの、ありがとうございます!美味しかったです!」


「はい!良かったです!」


水瀬さんが八ツ橋を食べ終わり、先輩達にお礼を言う。ふふ、急に声を掛けられた先輩達の声が裏返っており面白い。

でも、いくら後輩でも眼力が強い人からお礼を言われたらビビるよね。


水瀬さん、バスケ部の部員から〈狂犬〉って呼ばれていると凛から聞いて納得したし。


「凛、そろそろ行かないと」


「えー、分かった…」


「ちーちゃん、、明日…」


「待ち伏せ禁止」


「ケチ…」


凛と水瀬さんにバイバイと手を振る。凛は名残惜しそうな顔で渋々手を振りかえし、水瀬さんに引きずられるように連れて行かれた。


「佐藤ちゃん…2人とは友達なの?」


「えっと、1人は幼馴染でもう1人は幼馴染の友達です」


質問してきた一ノ瀬先輩が驚いた顔で「凄い…」と何度も頷いている。

やはり、月族が太陽族と幼馴染というのは珍しい関係性なのかもしれない。


「2人は陸上部…?」


「バスケ部です」


今度は悠木先輩が恐る恐る私に質問をし、バスケ部と答えた途端、手のひらで口を押さえる。そこまで、驚かなくても…


「先輩、話すと2人とも普通ですよ(凛はワンコで水瀬さんは時々怖いけど)」


「それは佐藤ちゃんが既に関係値を築いているからだよ。運動部、、特にバスケ部の人と話すなんて無理だもん」


一ノ瀬先輩が悲観的になり落ち込んでいる。確かに気持ちは分かるけどここまで落ち込むなんて思わなかった。

月は太陽に強い憧れを抱く。私もあんな風に光り輝きたいと理想を追いかける。


月は太陽がないと真っ暗闇の中にある惑星になる。でも、これは他の惑星も同じで…

太陽は周りを明るく照らしてくれる大事な存在なのだ。温かくて、デカい存在。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る