━(* 'ᵕ' )( 'ᵕ' *)━ ‌団子屋、看板娘!

米太郎

第1話

 桜も散って雨の季節も終わるところ。

 江戸の町には夏がやってきていた。



 カラッと晴れた、日本晴れ。

 お天道様に向かって伸びをする。


「今日も忙しいぞー!」

ひなちゃん。お団子二つ」


「あいよっ!」


 一本の串を取り出して。

 それにピンクと白を串に通して。


 よし。

 出来上がり!


「おやっさん、持ってきますねー」

「おー、持ってって!」


 お団子を一生懸命にこしらえてるおやっさんに一声かけて、店の外で待つお客さん団子を持っていく。

 少し涼しい店内から軒先へと出ると、そこには夏が広がっている。


 季節の変わり目。

 紫陽花はまだ綺麗に咲いている。



「ありがとう!」

「こちらこそ、いつもご贔屓にありがとうございます!」


 ニコニコと笑顔を向ける。


ひなちゃんは、いつも可愛いね」

「ありがとうございます」


 笑顔もサービス!

 ピンクの着物が私のトレードマーク。

 私はこのお団子屋さんの看板娘。


「最近あっちのお団子屋さん人気だけど、負けないでおくれよ? 私は応援しているよ」

「はい。ありがとうございます」


 長屋の続きにある我が団子屋。


 そこから通りを挟んだあちら側にも団子屋さんがある。

 それが、最近賑わっているのだ。


 何故かというと、可愛い看板娘がやってきたらしいのである。

 ここから見える距離にあって。

 まさに目と鼻の先。


 行列ができているのが見える。

 うちよりも長い行列。


 正直、悔しい。

 私たちの方が美味しい団子だって思うし、看板娘が可愛い?

 私の方が可愛いに決まってる。


 そう思って向こうの団子屋を凝視していると、ちょうどその看板娘が出てきた。



 白髪はくはつをしていて。

 髪の毛と同じく白色の着物を着て。

 肌迄白い。


 とても涼しそうな印象を受ける。

 爽やかで見ていて気持ちがいい。


 ……って、いかんいかん。

 何で見とれてるの私が。



 おかみさんが細目で向こう側の団子屋を睨んでいるようである。

「ああいうのは肌が綺麗とかじゃなくて、幸が薄いっていうのよ」


 おかみさんがちょっと言い過ぎな気がしたので、少しとがめた。

「まぁまぁ。おかみさん、人の悪口はあまり言うものでは無いですよ」


 おかみさんは、お茶目に笑って見せた。



 私も少し思ったのですけれども。

 なんであんな子が、あんなに人気なんだろう。

 綺麗だとは思うけど……。


 また向こうのお店に目をやる。

 団子を提供してもらった人は、デレデレして。

 なんかすごい嬉しそうな顔をしている。


 団子の味だって、看板娘だってこっちの方が上なんだから!

 向こうの団子屋のお客さんが食べ終わったようで、帰ろうとしていた。


「……ありがとう。また来て」



 なにあれ、声ちっさ。

 あれのどこがいいの。何よあの子。


 そう思っていると、あちらの看板娘と目が合ってしまった。

 透き通っていて濁りの無い瞳。


 こちらにニコって笑いかけてきた。



 ……可愛い。


 ペコって頭も下げてきた。

 やばい。可愛い……。


 いや、何よ。あんなお店!


 私のお店の方が、お客さんも多くて、サービスだっていいんだから!


 むーーーー……。




 昼時の混む時間が過ぎて、うちの店にはお客さんがいなくなっていた。


 だけど、あちらの店はまだ行列が続いていた。



「……おやっさん。暇です」


 以前よりもお客さんが減っているのには気づいている。


「私になにかできること無いですか?」

「それじゃあ、愛嬌よくして客を呼んでくれ」


「はい」


 することもないので、おやっさんの言う通りに軒先から呼び込みをし始めてみる。



「いらっしゃいませー。美味しいお団子ですよー」


 あ、昨日あっちのお店に行ったお客さんだ。

 そのお客さんめがけて愛嬌よくニコニコとする。


「久しぶりですね。最近はあちらのお店に言っていたようで?」


 私の呼びかけに少し足を止めてくれた。

「雛ちゃん、こんにちは。そうそうあっちのお店ね。意外といいんだよ」



 そう言うと、お客さんはにやけ顔になった。

「あっちの娘さんが可愛くってね。何回でも会いに行きたいって思っちゃって。可愛いって思わない?」


「……そう言われればそうですけども。私とあっちの子、どっちが可愛いんですか?」


 お客さんは困った顔をした。


「いやー甲乙つけがたいね。あっちにはあっちの良さ。こっちにはこっちの良さがあるよ!」


 そんな答えを絞り出した。

 煮え切らない態度だったが、最後まで愛嬌良く!


「ありがとうございます。是非こちらをご贔屓に!」

「あいよっ!」



 そう言ったお客さんは、そのままの足であちらの店の行列に並んでしまった。


 やっぱり、あっちが良いのか。


 くーーーーーー!!


 店の中に入り、おやっさんに詰め寄る。


「このままじゃお客さん全部奪われちゃいます!」

「ああ、どうにかしないとな……」


 さっきのお客さんも言ってたとおり、うちの店には悪いところが無いはず。

 なのに、なんであっちの方が良いんだろう。


 あっちの娘さん……。

 透き通っていて。純粋そうで……。


 私は、そういうのが無いからかな。


 そうだ。良いことを考えた!

 あの子の悪いところでも見つけて、悪い噂を立ててやろう!


 あっちのお客さんはほとんどが娘さん目当てだからね。

 へへへ。



 続く。

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