闇夜に迫る影

古村あきら

闇夜に迫る影


 太陽が西の海に炎の揺らぎを残して沈む。

 今夜はヤバい。レイは、そう思った。彼の予感は外れない。一気に暗くなった視界に微かな光を探しつつ、彼は進んだ。

 奴らがやって来てから、レイたちの平穏は破られた。仲間が一人、また一人と命を奪われて行くのを見ながら何も出来ず、自らの安全すら確保できない状態で、レイたちは怯えながら身を顰めてやり過ごす。朝になり、奴らが去っていくのを待ちながら。

「よお、レイ。出歩いていいのか?」

 物陰から声がする。大きな二つの目をギョロリと光らせた姿を見て、レイは低い声で誰何した。

「誰だ。ライトか、それともレフトか?」

「俺だ。フラウンダーだよ」

 レフトか。親しい相手に安心して肩の力を抜いたレイに向かい、フラウンダーは声をひそめた。

「ポギーとプローンがやられたらしい。気を付けろ」

「何だと?」

 うすのろのプローンはともかく、すばしっこいポギーまでが、奴らの手にかかったというのか。

「もう逃げるしかないな」

 フラウンダーがそう言う。しかし、昼間であれば逃げおおせることは可能かもしれないが、夜だとそう簡単にはいかない。一晩中目を見開いていても、暗闇は視界を阻害する。

「今夜、ハーミットクラブの集会があるそうだ」

「関係ないね」

 あいつらは安全だ。自己の安全が確立された状態での集会など意味がない。自分たちとは関係のないところで行われる虐殺に手をこまねき、時間をかけて役に立たない対策を練るのが関の山だ。

「危険な領域からは離れるように皆に声を掛けたんだが」

 フラウンダーの表情が曇る。

「アバローニが……」

「アバローニがどうした」

 可憐な姿が目に浮かぶ。彼女がどうしたというのか。

「恋人の姿が見えないから残って待つんだと。……どうしても聞かないんだ」

「何てこった」

 恋人なんかじゃない。彼女の片思いだろう。一人だけさっさと逃げたに決まってる。なぜ気付かないんだ。あんな男に引っ掛かって、馬鹿じゃないのか。

「とにかく俺は逃げるぜ」

 フラウンダーがそう言って身を起こした時だった。暗闇から突如現れた鋭い刃が、その背中を突き刺した。鈍く光るそれはフラウンダーの薄い身体を突き抜け、腹からその切っ先を見せた。

 本能的に身を翻し、レイはその場を離れた。

 逃げるレイの背後で、おぞましい声が響いた。


──獲ったど~!


『さあて始まりました「冒険少年」脱出島恒例、深夜のモリ突き大会。たくさん魚を獲って調味料をゲットするのは、どのチームか。楽しみですね、岡村さん』

『そうですね。あばれる君は王者の地位を守れるのか。それとも伝説の人・よゐこ浜口が、それを搔っ攫うのか。続きはCMの後で』


 今年もまた、穏やかだった海に恐怖の一夜がやって来た。


                                  終わり




「たべっ子どうぶつ」の姉妹品らしい「たべっ子水族館」というお菓子を貰いました。チョコが染みてて、とても美味しいです。箱の裏に海の生き物の英語名が書かれていました。


【英語教室・海の生き物】

RAY(レイ)──えい

FLOUNDER(フラウンダー)──ひらめ

PRAWN(プローン)──くるまえび

BLACK PORGY(ブラックポギー)──くろだい

HERMIT CRAB(ハーミットクラブ)──やどかり

ABALONE(アバローニ)──あわび


【蛇足】

左ヒラメに右カレイ──カレイとヒラメの簡単な見分け方。目を上にして置いたときに左向きになるのがヒラメ、右向きになるのがカレイ。ちなみにカレイは、FLATFISH(フラットフィッシュ)だそうです。


磯のアワビの片思い──鮑は巻き貝の一種だが、殻が二枚貝の片方だけのように見えることから、「片思い」の「片」と掛けて言ったことわざ。


                         では、これにて、おさらば。

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闇夜に迫る影 古村あきら @komura_akira

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