第86話 切り札はテプちゃん

「しず子! 今こそ俺様達の力を見せつける時だぜ! いっくぜー!」


 しず子さんの肩に乗ってたオハコが神獣モードに変化した。


「分かったわよオハコ! 新魔法! いやしの水500mLペットボトル入り!!」


 しず子さんが魔法のステッキ振ると、癒しの水が入ったペットボトルが沢山出て来た。

 えっ、魔法の力でペットボトルを生み出したの?!

 普通はパワーアップしたら、回復効果が上がったりするよね?

 う~ん……よく考えたら回復効果が上がっても意味ないか。

 元々死にかけの人が一瞬で復活するだけの効果があるからね。

 よく考えたら、ペットボトル入りになって持ち運べるのは凄い進化だよね。

 もう、びしょ濡れにならなくて済むからね。


「増子も頑張れや~。ほいっと。聖獣モードぉ~」


 プレナが聖獣モードに変化すると、増子さんの魔法服が銀色に輝き出した。


「体力マシマシでジャスティース! これが魔法の力だ! どうぞ、怪我したら飲んで下さいね」


 増子さんがいやしの水500mLを配り始めた。

 今日も増子さんは元気だなぁ~。

 あんまり魔法関係ないって言ったら怒られそうだけど……


「回復の準備か。戦闘準備と判断しても構わないかね?」

「構わないわよ。私は最初から倒すつもりだったからね」

「僕も頑張るぞ! 僕の拳は痛いぞ!」

「まさか、拳で戦うとは言わないだろうな?」

「殴るに決まってるでしょ! ろくでなしは殴るって決めてるの!」

「僕は蹴りも使うぞ!」

「愚かな……」


 しず子さんと増子さんが大賢者アクイアス・セッテ目掛けて走った。

 だがクマの鉱魔こうまが行く手をさえぎった。

 二人の拳がクマの鉱魔に直撃したがビクともしない。


「やれ、アクアオーラ」

「分かりました。ウォーター・チェーン!」


 水の鎖がしず子さんと増子さんを拘束した。


「くっ、離せ!」

「こんな魔法なんかに負けるか!」

「無駄だ。止めを刺せエンジェルオーラ」

「了解です。ジャジメント・カッター」


 光の刃がしず子さんと増子さん目掛けて飛んできた。

 危ない……と思ったが、光の障壁しょうへきが光の刃を防いだ。

 この光は燐火りんかちゃんの魔法発動時に発生する魔力結界だ!


 シルクのドレスの如き優雅ゆうがな花弁よ

 幾重いくえにも重なり我を守れ

 魅力に満ちた八重咲やえざきの花!


「立ち塞がれ! 金 鳳 劫 火ラナンキュラス!」


 シルクのような優雅な炎の花弁が僕達を包んだ。

 触れたもの全てを灰燼にする防御魔法金 鳳 劫 火ラナンキュラスだ。

 これでしばらくは安全だ。


「攻撃を止めよ」


 大賢者が追撃しようとしていた鉱魔と魔法少女を止めた。

 初見なのに触れたら危険だって見抜いたようだ。

 大賢者を名乗るだけの事はある。


「なるほど。これは原始の炎。神から与えられた最初の力だな。これは面白い。私の最新の魔法科学と対をなす存在といえるからね。さて、どうする小さな魔法使い」

「ちいさな魔法使いじゃないよ。私は大魔魔導士。全ての立ち塞がる敵を焼き払うものだよ!」


 あれっ、いつもより頼りない気がする。

 よく見ると少し震えていた。

 燐火りんかちゃんが怖がっている?

 どうしてだろう?


「大賢者をやっつけよう! 燐火りんかちゃんの魔法なら一撃だよ」

「無理だよテプちゃん。敵を倒せる魔法がない」

「なんで? 鉱魔なんて燐火りんかちゃんの最強魔法で一発だと思うけど?」

「ここが何処だか分かってる?」


 燐火りんかちゃんに言われて思い出した。

 僕達は小学校にいるのだ。

 燐火りんかちゃんの最強魔法紅 蓮 躑 躅ロードデンドロンなら全てを焼き尽くせる。

 校内に残っている生徒ごと……

 当然の事だけど、そんな事は出来ない。

 そうだ!


燐火りんかちゃん、連携魔法で行こう! 炎 剣 菖 蒲グラジオラス珊 瑚 刺 火コーラルツリーを連続で使うんだよ」

「無理だよ。それだけだと鉱魔しか倒せない。相手の魔法少女さんの攻撃で負けるよ」

「そ、そんな……」


 もう勝ち目がないじゃないか。

 援軍は期待出来ない。

 体力が劣る僕達が先にギブアップする事になるよね。

 誰か助けてくれないかなぁ。


「助けてよ……」


 燐火りんかちゃんがつぶやいた。

 そうだよね。

 燐火りんかちゃんも助けが来て欲しいと思うよね。


「助けてよテプちゃん」

「えっ、僕?」


 思わず叫んでしまった。

 何でこの状況で僕が役に立つと思ったの?

 ムリだよね?


「大丈夫だよテプちゃん。今こそ四天王になって手に入れた力を見せる時だよ!」

「えええっ! その設定有効なの?!」


 困った……。

 燐火りんかちゃんが魔王軍に入って力を得た設定を信じちゃってるよ。

 こんなピンチの時に言われても困るよ。


「そんな妖精如きに何が出来る? こんなものにすがるとは哀れだな。これが子供の限界だ」


 腹が立付けど大賢者の言う通りだよ。

 僕に出来るのは頭が三つに増えて、頭だけがデカくなる芸当だけだよ。

 強い魔獣のケルベロスじゃなくて、まがい物のテプベロスだよ。


「ここはテプちゃんに任せるしかないみたいね」

「頑張れテプちゃん。主役は君だ!」

「変身出来ない俺の代わりに戦ってくれ!」

「私の計算では敗北必至。それでも信じています!」

「信じているわよ。一緒に戦った貴方の事を!」


 いつの間にか復活した、しず子さん、増子さん、星七せいなさん、亜夕美あゆみさん、蒼羽あおはさんの5人が声援を送ってきた。

 困ったなぁ~。

 僕はみんなを救うような役割じゃないと思うんだけど……

 うつ向くと纏蝶てんちょうさんに貰った指輪が目に入った。

 そういえば魔獣に変身出来るんだった。

 無駄だと思うけど変身してみようかな。

 パワーダウンするだけだけど、何もしないよりマシだよね!

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