第70話 僕だけパワーダウン?!

 無事に纏蝶てんちょうさんからパワーアップアイテムを入手出来た僕達は家に帰らず公園に集まった。

 手に入れたばかりの新しい力を使ってみたかったからだ。

 本当は無駄に力を使わない方が良いとは思うけど、新アイテムにどのような力が秘められているか先に知っていた方が実戦で役に立つよね。


「おおテプではないか。今日は珍しい仲間と一緒なのだな」

「こんばんは魔王さん。何回か会った事はあるけど紹介してなかったですよね。こっちのキツネみたいなのがオハコ、タヌキみたいなのがプレナです。魔法王国の同級生なんですよ」


 僕はベンチに飛び乗って魔王さんのとなりに座った。


「誰がキツネだ! 俺様は魔法王国アニマ・レグヌム最強の妖精オハコ様だ。おいテプ。いつの間に魔王と仲良くなったんだ? 聞いていないぞ!」

「えっと、友達の友達なので最近仲良くなった」

「仲良くなったと言っても温泉に行ったくらいだ。同級生の方が仲が良いさ」

「どういう事だ?! 何で温泉?! 仲良すぎるだろ! 魔法王国の妖精としてのプライドはどうした? 魔王軍に寝返ったのか!」


 オハコが僕をにらんでいる。

 誤解だよオハコ。

 僕は魔王軍ではないから。

 僕は……僕は……冥王軍なんだよ!!

 魔王軍が破れた後に黒幕的な存在として出てきそうな冥王軍だよ。

 本当の事を言ったら、もっとややこしい事になりそうだから黙る事にした。


「テプは魔王軍ではない。そもそも魔王軍など存在しないからな。堕神歴だしんれき6423年に起きた『深夜の日の出サンライズ オブ ミッドナイト』。我は、その悲劇を繰り返さぬ為に魔王という概念を滅ぼしたのだ。だから我が世界で最後の魔王なのさ……」


 僕を庇って言ってくれたのだろうけど、『深夜の日の出サンライズ オブ ミッドナイト』って何だろう?

 夜なのか日の出なのか分からないよね……


「おいテプ。この魔王何言ってんだ? 意味が分からないぞ」

「気にしないでオハコ。魔王さんは不老で長生きだから、意味が分からないくらいの話が丁度良いんだよ。意味が分かるくらい詳しく話を聞いたら千年かかるかもしれないよ」

「ポップコーンとジュースがあるなら俺っちは聞いてもよいけど」

「正気かプレナ?!」

「増子は魔法少女のアニメの話しかしないからな。たまには他の話が聞きたいよ」

「よしっ! ポップコーンとジュースなら任せてくれ!」


 魔王さんが立ち上がり、公園から出て行った。

 どうしよう?

 このまま僕も魔王さんの話を聞かないとダメなのかなぁ……


「おいっ! 俺様達の目的を忘れたのか? 俺様達はあの筋肉蝶野郎からもらった力を試す為に公園に来たんだろ? 魔王と話すのは後にしろよ!」


 あっ、そうだった!

 オハコのお陰で思い出したよ。


「そうだよね! 僕達は新たな力を試す為に来たんだ! さっそく見せてよ! オハコの新しい力を!」

「良いだろう! 王者の王冠よ! 俺様に力を与えろ!!」


 そんな名前だったかな?

 纏蝶てんちょうさんは王冠の名前を言っていなかったような気がするのだけど。

 そう思っている間に王冠が黄金の光を放ちオハコを包み込んだ。

 まぶしいっ!

 神々しい黄金の光が強すぎて直視する事が出来なかった。


「うぉぉぉぉぉっ! 力がみなぎってくるぜー!」


 黄金の光が弾けてオハコの姿が現れた。

 元々茶色だった毛が黄金に輝いており、10本の尻尾が生えている。

 放射状に延びる尻尾が羽根の様にも見えてカッコイイ。


「す、凄いよオハコ!」

「何で10本なのかな~。キツネなら9本じゃないの?」

「ふっ。俺様が九尾の狐を越えただけさ」

「神様みたいで凄いよ」

「そうだろ? 敬えよテプ」

「尻尾が外れて一斉攻撃出来たら凄いと思うけど、生えてるだけなら意味ないと思うけどな~」

「俺様はロボットじゃねえんだよ! 尻尾は力の源なんだよ! 沢山生えてるだけで凄いんだよ! プレナ! お前も力を使ってみろよ!」

「分かったよ」


 プレナがネックレスを掴むと銀色の光があふれ出した。

 神聖な銀色の光が眩しい。


「なんかパワーアップしてるような気がする~」


 銀色の光が弾けてプレナの姿が現れた。

 こげ茶色の毛が銀色に変わり、頭部には白銀の角が生えている。

 角が生えた銀色のタヌキ。

 に、似合わない……オハコと違って物凄く違和感がある。


「なんか似合わないね……」

「なんでだよ~。馬に角が生えたらカッコイイだろ~。俺っちに生えてもカッコイイと思うけど?」

「角が生えるなんてだせぇ。ユニコーンは馬に角が生えた生物じゃねぇ。元々生えてるから似合ってるんだよ」

「理不尽だよ~。テプも力を使えよ~。どうせ俺っちと同じでがっかりするから」

「当然だ。優れているのは俺様だけなんだからな。金、銀と続いたからテプは銅になると思うけどね」

「でも纏蝶てんちょうさんが、みんながピンチの時に使ってって言ってたからなぁ……」

「関係ねぇよ。使い捨てじゃないなら使っても平気だろ?」

「分かったよ。いくよ」


 指輪に意識を集中すると、赤黒い光が視界を包んだ。

 あれっ銅色じゃない?!

 光が収まるとオハコとプレナが佇んでいた。


「どうしたの?」

「い、いやっ……何でもねぇ」

「魔王遅いなぁ~」


 どうしたのだろう?

 き、気になる。

 僕どうなっちゃったの?!


「何だ? ポップコーンを買いに行ってる間に随分様子が変わったな」


 魔王さんが帰ってきた。


「実は魔王さんが買い物に行ってる間にパワーアップアイテムを試してみたんですよ。オハコとプレナを見て下さいよ。凄いパワーアップしたでしょ?」

「うむ、その通りだな。オハコは神獣で、プレナは聖獣に進化している。妖精をここまで進化させるとは恐ろしい力だな」

「ねぇねぇ魔王さん。僕はどうなってますか? 僕も神獣や聖獣に進化してますか?」

「何を言っているテプ。テプは魔獣になっているではないか」

「えっ、魔獣?! 僕が?!」

「ほら、見てみろ」


 魔王さんが魔法で鏡を作ってくれたので自分の姿を確認した。

 そこに映っていたのは赤い稲妻を纏った漆黒の毛のウサギだった。

 あまりの驚きに声が出なかった。


「妖精から魔獣に堕ちるのも珍しいな」


 なんで毎回僕だけ魔獣なの?!

 纏蝶てんちょうさああああん!!


「ぼ、僕も魔王さんの話が聞きたいなぁ……」

「良いだろう。では堕神歴だしんれき6422年から話そう」


 はぁ、魔王さんの話を聞いている間に元に戻るかなぁ……

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