第55話 ハルマゲドン

 いつもは燐火りんかちゃんと一緒に学校に行くけど、今日は公園で休む事にした。

 最近蒼羽あおはさん達との対立で少し疲れちゃったからね。

 公園に向かうとベンチに座っている人がいた。

 誰だろう?

 顔が見える距離まで近づくと、ベンチで休んでいたのは僕の友達の条さんだった。

 条さんも僕と同じでお疲れみたいだ。


「こんにちは条さん。休憩中ですか?」

「やあテプ殿。打ち合わせ時間までの時間調整中ですよ。こう見えても元気ですから。テプ殿は疲れているようですな」

「実は心配事が色々あって疲れちゃったんですよ」

「それは大変ですな。ゆっくりしていった方が良いね」


 条さんが僕が隣に座れる様にベンチの上の荷物をどかしてくれた。

 えいっ。

 ベンチに飛び乗って条さんの隣に座った。


「それでどうしたのかな?」

「最近知り合った人たちと燐火りんかちゃんが揉めそうなので悩んでいるんですよ。燐火りんかちゃんを信じているけど、相手も良い人だと思っているから」

「それは板挟みになって大変だね。テプ殿は優しいから、片方の味方にはなれないよね。仲直りしてくれると良いのだけど」

「それが事情があって難しいんですよね……」

「おじさんが話をしても解決しない事だと思うからね。せめて気分転換出れば良いのだけど……」

「それなら温泉に行ってみるか?」


 背後から声をかけられたので振り向いた。

 ま、魔王?!

 生きてたの?

 いや、そもそも戦っていなかった!


「魔王さんじゃないですか。仕事はどうされたのですか?」

「仕事? 条さん魔王さんの仕事知っているのですか?」

「仕事を探していたのを知っているだけですよ。仕事を探す為にギルドに加入するって言ってましたからね」


 ギルド?

 そんな組織無いと思うけど。

 どうせ仕事しないで四天王に養ってもらってるんでしょ?

 でも、今何をしているのか少しだけ気になるなぁ。

 一応聞いてみよう!


「魔王さんはギルドで仕事見つかったのですか?」

「うむ。当初の予定とは異なったが、仕事は見つかった」

「世界征服とか? 邪神の代理とかですか?」

「何を言っている? 我の仕事はギルド職員だ。日々、ギルドに加入している者どもを訪問してアドバイスなどをしている」


 魔王さんがギルド職員で、ギルド加入者にアドバイス?!

 どこの世界の話ですか!!

 意味が分かりませんよ!!


「もしかして、魔王さんは紅鳶べにとび商事も担当してますか?」

「当然だ。我はこの一帯を預かる者だからな。紅鳶べにとび商事なら、明日の昼休みに担当と会う予定だ」

「それなら来年の春は一緒に戦う事になりそうですね」

「あぁ、我に任せておけ。春だけに、気分はハルマゲドンだ」

「うまい事言いますなぁ。私も気合が入りますよ」


 ええええええっ!!

 何で条さんが魔王と意気投合しているの?

 しかもハルマゲドン!

 来年の春に最終戦争始めるつもりなの?!

 魔王だから普通の事だと思うけど、条さんも参加するのはおかしいですよ!

 鉱魔との戦いどころじゃないよね?


「何で戦うんですか? 平和な世の中なのに! 争って何が得られるんですか?」

「テプ殿、大人には戦わなければならない時があるのですよ」

「そうだ。未来を勝ち取るには戦わなければならん。それが争いしかしらぬ我が皆の為に出来る唯一の事だ」

「争って何が得られるんですか?」

「1%くらいですかね……」

「諦めるな条! せめて4%! 4%だけでも!!」

「1%……4%……何の事ですか?」

「給料ですよ、テプ殿」


 給料……給料の話?!

 もしかして、魔王さんが言ってたハルマゲドンって春闘の事?

 そうすると魔王さんが所属しているギルドって労働組合の事だよね。


「何で魔王さんが労働組合で働いてるの?」

「バルンシーの紹介だ。ギルドを探していると言ったら教えてくれたのだ。バルンシーが何故か大金を持ってくるから生活には困っていないが、働かないと体が鈍るからな」

「それで大丈夫なのかなぁ……」

「心配ない。我は何をやっても最強なのだ。当然の事だがギルドでも働きを認められてな。福利厚生とやらで温泉宿泊ペアチケットを貰ったのだ」

「それは凄いですね。あっ、だから温泉に誘われていたのですね」

「えっ、魔王さんが温泉に誘っていたのって無料のペアチケットもらったからだったの?」

「その通りだ。我の提案をうけるなら、温泉宿泊ペアチケットの半分をやろう。どうする?」


 魔王がドヤ顔で言った。

 スケールが小さい……

 魔王なら世界の半分を分けておくれよ。


「有難いですなぁ。でも二人分だと一人参加出来ないですけど?」

「心配ない。テプはペット枠で参加出来る」

「良かったですなテプ殿」


 条さんが喜んでいるし、折角だから行ってみようかな。

 燐火りんかちゃんと離れるのは寂しいけど、温泉旅行は楽しそうだからね。


「魔王さん、宜しくお願いします」


 僕は条さんと一緒に魔王の提案に乗る事にした。

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