第35話 連携魔法

 図書館で燐火りんかちゃんと芽衣子めいこちゃんが何かを調べ始めた。


燐火りんかちゃん、付き合わせてごめんね」

「気にしないで、わたしも楽しいから」

「何を調べているの?」


 本の中身を調べると……宗教の歴史?

 これは小学校で流行っている事ではないよね?


「何で宗教について調べているの?」

「テプ君、冥王にとって信仰を集める事が大事だからだよ」

「大魔導士にとって探求が大事なのと同じだよね!」


 楽しそうだから良いかな。

 オハコも去年、俺様の宗教を作るって言ってたしね。

 1か月できてたけど。

 本当に怪しい儀式を始めたら止めるけど、誰だって一度は考える事だから見守っていよう。

 僕は黙って楽しそうに調べ物をしている二人を見守っていたーー


「見つけたわよ魔法少女!」


 声がした方向を見ると、本が集合して出来た人型の物体が宙に浮いていた。

 こんな人が多いところで魔女の襲撃を受けた?!

 どうしよう?!


「ケビンさん! みんなを避難ひなんさせて!」


 芽衣子めいこちゃんが金髪の警備員さんに避難ひなんを呼びかけた。


芽衣子めいこちゃん、ケビンさんじゃなくて、警備員さんだよ」

「何言ってるのテプちゃん、ケビンさんはケビンさんだよ!」


 燐火りんかちゃんまで何を言ってるのさ!

 魔女が現れて緊急事態なんだから、そんなダジャレを言ってる場合じゃないよ!


「ハーイ! 私、警備員をやってるケビンね。宜しく、お話出来るウサギさ~ん」


 なにそれええええっ!

 こんな緊急事態にダジャレキャラを盛り込まないでよ!


「挨拶は後にして、早く避難誘導ひなんゆうどうをお願いします!」

「大丈夫ね。アルバイトのアルバートが誘導を進めてるね。私達も逃げるね」


 ケビンさんが出口に向かって走り出した。

 アルバイトのアルバート……もう突っ込まないよ……

 図書館の前の広場に出たところで僕達は本の魔女を迎え撃つ事にした。


「逃がさないわよ魔法少女!」


 本の魔女が図書館の入口を破って出て来た。


「今だよ燐火りんかちゃん! 魔法でやっつけちゃおう!」


 燐火りんかちゃんが愚者ぐしゃの杖を具現化し、呪文の詠唱を開始した。


 全てを貫きし灼熱の刃よ……


「甘いわよ!」


 本の魔女が魔導書を打ち込んできた。


「危ない!」


 僕は跳ねて燐火りんかちゃんの盾となろうとした。

 あれっ、痛くない?!

 本の魔女が打ち出した魔導書は見えない何かにさえぎられ、僕達に届く事はなかった。

 そして燐火りんかちゃんの詠唱は止められる事無く続いた。


 ……大地を穿うがち 我の敵を討て

 気高き勝利の花!


「貫け! 炎 剣 菖 蒲グラジオラス


 燐火りんかちゃんの詠唱が終わると同時に、炎で出来た刀剣のように鋭い唐菖蒲とうしょうぶが地面を貫いて現れた。


「当たらないわよ。魔力の流れで地面から攻撃がくる事が分かったからね」


 本の魔女が炎 剣 菖 蒲グラジオラスを避けて見せた。

 手強い!

 でもーー


「何で魔女の攻撃も当たらなかったのだろう?」

「テプ君、魔法詠唱中に出来る魔力結界にさえぎられたからだよ」

芽衣子めいこちゃん、魔力結界って何?」

「呪文詠唱中に敵の攻撃をさえぎるバリアーだよ。詠唱中に攻撃出来ちゃいけないんだよ。ロマンがなくなるでしょ?」

「ロ、ロマン? 戦闘なのにロマンが必要なんですか?」

「テプ君は妖精さんなのに分からないの? 魔法少女だって可愛く変身している途中で攻撃を受けたらつまらないでしょ? 魔法も同じで、詠唱中に攻撃をするなんて無粋ぶすいな事でしょ。だから世界が! 神が! 無粋な真似を出来ない様に魔力結界が守ってくれる世界法則を作ったんだよ。魔力結界は夢を叶える為の裏方みたいな存在だから!」


 芽衣子めいこちゃんがキラキラした目で燐火りんかちゃんを見ている。

 ホントかなぁ……

 説明内容は信じられないけど、実際に防御シールドが展開されているのは事実なんだよね。

 しず子さん達が魔法少女に変身時する時も、魔法のエネルギーが放出されるから、攻撃を防ぐ力を発揮するからね。

 でも攻撃を防ぐ世界法則ではないし、放出する魔法エネルギーを越える強力な攻撃は受けるから。


「テプちゃん、芽衣子めいこちゃん次で倒すよ」


 燐火りんかちゃんが勝利宣言をした。

 良く分からないけど、僕は燐火りんかちゃんを信じるよ。


「詠唱を始める前に攻撃すれば良いって事でしょ!」


 本の魔女が攻撃を開始した。

 だが、もう遅い。

 燐火りんかちゃんの次の詠唱は始まっている。


 猛獣の牙より鋭き劫火の牙よ

 我に仇なす全ての敵を絡め取れ

 出でよ! 樹木の如き生命の花!


「蹴散らせ! 珊 瑚 刺 火コーラルツリー


 牙の様な鋭い湾曲した無数の劫火の花弁が、燐火りんかちゃんを中心に生み出され本の魔女を襲った。

 そして燐火りんかちゃんが更に詠唱を続けた。

 これは……炎 剣 菖 蒲グラジオラス


 全てを貫きし灼熱の刃よ

 大地を穿うがち 我の敵を討て

 気高き勝利の花!


「貫け! 炎 剣 菖 蒲グラジオラス


 本の魔女が最初の珊 瑚 刺 火コーラルツリーを避けた……いや、避けさせられた。

 劫火の花弁の合間に出来た安全地帯に着地した魔女を、時間差で生まれた炎の刀剣が撃ち抜いた。

 複数攻撃用の珊 瑚 刺 火コーラルツリーと奇襲攻撃用の炎 剣 菖 蒲グラジオラスの連携攻撃。

 魔女が一瞬で灰になった。

 燐火りんかちゃんの勝利だ!


「すれば……なんて甘い考えでは大魔導士を倒す事は出来ないよ!」

「流石、私のライバル! 燐火りんかちゃん凄いです!」

芽衣子めいこちゃんも早く本当の冥王になろうよ!」

「うん、私冥王になる!」


 燐火りんかちゃんと芽衣子めいこちゃんが楽しそうに話をしているが……

 友人に冥王になる事を勧めるってどうなの?

 僕は思わず芽衣子めいこちゃんが冥王になった姿を想像してしまった。

 出来そうだな……あの蝶の店の店長なら……

 僕は急に怖くなった。

 でも、今日の所は一件落着だから、これ以上考えるのは止めにしよっ!

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