第34話 三つ編みの冥王

 昨日は海で疲れるまで遊んだけど、今日も元気にお出かけするのだ。

 特に今日は休んでいられない。

 なぜなら、今日は女子の友達と一緒に図書館に行く予定だからだ。

 燐火りんかちゃんは、いつも健斗君と翔太君と遊ぶことが多いから女子の友達がいてビックリしたよ。

 僕は燐火りんかちゃんと一緒に待ち合わせ場所の図書館に向かった。


燐火りんかちゃ~ん。おはよ~」


 館外のベンチに座っていた三つ編みの女の子が手を振っている。

 イルカのキャラクターがプリントされたシャツを着ているけど、イルカさんが好きなのかな?

 燐火りんかちゃんはクマさんが好きで、クマさんがプリントされたシャツを着ていたから似た者同士だね。


「おはよう芽衣子めいこちゃん。これが話をしていたテプちゃん」

「初めまして。アルタロネクタネブ・アバ・センタンクトロルテプ6世です」


 僕と燐火りんかちゃんもベンチに座った。


「初めまして。冥王めいおう芽衣子めいこです。名前が長くて呼び辛いから、テプ君って呼んでいいですか?」


 僕は返事が出来ず固まってしまった。

 冥王めいおう……何それ?

 もしかして、芽衣子めいこちゃんもゲーム仲間?

 大魔導士を名乗る燐火りんかちゃんと同じで、冥王めいおうを名乗っているの?

 ダメだ、疑っちゃいけない。

 名前の漢字を説明していただけかもしれないよね?

 冥王めいおうって漢字を使って冥子だよってね……そんなハズないよね。

 自分で考えておいて馬鹿らしくなった。

 ふぅ、いったん落ち着こう。


「テプ君で大丈夫です。可愛いシャツ着てますね。イルカさん可愛いです!」

「は、何を言っているの?」


 急に暗い声色になった。

 何か機嫌を損ねる様な事を言っちゃいました?


「テプちゃんは失礼だね。強者に対しての敬意が足りないよ」


 燐火りんかちゃんに怒られた。

 なんだかこの感じ……前にもあった様な気がするけど……


「テプ君。この子はね、イルカじゃなくてシャチなの」

「シャチ? イルカさんに似てるから分からなかったよ」

「イルカに似ている? あの賢者気取りの奴らと一緒にしないで欲しいね。シャチの学名を知ってる? オルキヌス・オルカ……冥界の魔物って意味だよ! 時速60km以上の速度で泳ぎ、強靭きょうじんなアゴで獲物を食らう海の王者なの!」


 完全に燐火りんかちゃんの同類だった!

 何でそんなに強い生き物が好きなのかな?

 燐火りんかちゃんもオニヤンマのアゴを自慢していたけど、強靭きょうじんなアゴの良さが理解出来ない。

 アゴが強靭きょうじんな人間の男性はモテないのにさ!

 普通はウサギの方が可愛いから人気だよね?

 でも、気になるなぁ。

 これだけ似た者同士なのに、普段なんで学校で一緒に行動しないのだろう?


「シャチの強さは十分かりました。芽衣子めいこちゃんは燐火りんかちゃんと気が合いそうなのに、普段一緒じゃないのは何でですか?」

「それは学校が違うからだよ。私は隣町に住んでいるから」

「直接会えないけど、いつも遊んでいるよね?」


 いつも遊んでいる?

 僕は燐火りんかちゃんと一緒にいるけど、芽衣子めいこちゃんと遊んでいる所を見た事が無い。


「ほらっ、いつものゲームだよ!」

「昨日も燐火りんかちゃん達と遊んでたけど、ゲームのキャラクターだと見分けがつかないかな?」

「きのう健斗君と翔太君と一緒に戦った相手が芽衣子めいこちゃんだよ。芽衣子めいこちゃんは邪神サイドだからね」


 僕は必死に昨日の記憶を呼び覚ました。

 戦った相手……邪神サイド……ああ、あの敵キャラを操作していたのが芽衣子めいこちゃんだったんだね。

 最初の直感通り芽衣子めいこちゃんはゲーム仲間だった。

 でも、「しぶとい!」、「早く倒れろ!」とかキツイ言葉を浴びせていなかった?

 敵だから仕方ないのかもしれないけど、それで仲良しなんだ……


「何となく分かったよ。二人が仲良くなったのはゲームが切っ掛けだったんだね」

「違うよテプちゃん。仲良くなったのは、この図書館で会ったからだよ」

「そうだったね。同年代で悪魔崇拝あくますうはいとか秘密結社の歴史を調べようとしていたのは燐火りんかちゃんが初めてだったから」

「それは私も同じだよ。でも図鑑の趣味は違ったよね。わたしは陸で、芽衣子めいこちゃんは海だったから」

「そうだね。シャツも別々だからね」

「僕には同じに見えるけどなぁ……」


 確かにクマとシャチでイラストは違うけど、同じメーカーが作っているTシャツだよね?

 ロゴマークに見覚えがあるよ。


「そろそろ入ろうか? テプちゃん、ここの図書館はお洒落でカッコイイんだよ」

「館内放送の音楽も気分が上がる名曲ばかりなのよ。オリジナルの楽曲が聞きたくて、私も隣町から遊びに来るようになったの」


 ふ~ん、あんまり興味が無かったけど、僕は燐火りんかちゃんと芽衣子めいこちゃんに続いて入館した。

 なるほど、これは凄い!

 ファンタジー作品に出てくる魔法図書館のような内装が素敵だった。

 しかも壮大な音楽が気分を盛り上げてくれる。

 結構迫力がある曲だけどうるさく感じない。

 でも、どこかで聞いたことがある様な曲調なんだよなぁ……

 僕は不安になって館内を見回したが、風船らしきものは見当たらなかった。

 良かった、アレがいなくて!

 ーーと思った僕の目にポスターが映った。


『図書館オリジナルサウンドトラック好評発売中! 作曲バルンシー』


 バルンシィィィィィィッ!

 こんな処にも出てくるの!

 四天王最弱だけど、実社会ではバルンシーが最強なんじゃないの?

 作曲活動でいくら稼いだのさ!

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