第30話 邪悪な婚活

 陽翔はるとお兄さんと遊園地に行った翌週、僕達はいつも通り通学していた。

 一回だけ学校に魔女が現れた事があったが、それ以降は現れなくなった。

 恐らく纏蝶てんちょうさん達が何かしたのだろう。

 燐火りんかちゃんを狙っている魔女が、無防備な人質を沢山取れる学校を狙わないのはおかしいからだ。

 燐火りんかちゃんは勉強も運動も苦手な事は無いので、学校生活で困った事は無い。

 残念なのは、僕がアドバイスしたりして活躍出来ない事だけなのだ。

 世界の敵と戦う事と比べたら些細ささいな悩みである。

 今日も帰り道で魔女が襲撃しゅうげきしてこないか警戒けいかいしていたら……

 出たよ! 別な意味の魔女が!!

 見た目はポニーテールの清楚美女だけど、性格が悪い魔道具の使い手。

 詩音しおんさんだ。


「仕返しですか? 詩音さん」

「何だ、この前のウサギ妖精か」


 今日の詩音さんはぶりっ子モードがオフになっているらしい。


「馬の人だ!」

「馬の人じゃないわよ小娘!」

「でも、今日も馬だよ」

「これはポニーテールだから!」

「馬尾だ、馬尾!」

「馬尾って何よ?!」

「ポニーテールは馬尾だもん! カッコつけて英語にするのダサい!」

「キィーッ! ポニーテールは日本でもポニーテールなのよ! カッコつけてないから!!」


 燐火りんかちゃんと詩音さんの低レベルな戦いが繰り広げられた。

 敵の肩を持つ訳じゃないけど、ポニーテールの日本語は馬尾じゃなかったと思うよ……


「ところで何の用ですか? もしも僕達と戦うつもりなら、他の人の迷惑にならない場所に移動してもらえますか?」

「アンタたちに用はないから! 私は婚活中なのよ! この前は、アンタたちに邪魔されたからね」


 婚活……えっ、婚活?!

 この前の陽翔はるとお兄さんとのデートって本気だったの?

 なんだか可哀そうだな。

 陽翔はるとお兄さんは最初から調査目的でデートしていたのに、詩音さんは本気だったんだ……

 でも詩音さんの目的が婚活なら、燐火りんかちゃんは関係ないよね。

 僕達10才コンビには早すぎる話題だからね。


魂渇こんかつか……馬の人は邪悪だな……」


 燐火りんかちゃんがしみじみと言った。

 あぁ、コレは……絶対勘違いしてるよね?


「邪悪ってなによ! 普通でしょ!!」

「普通か……馬の人にとっては普通なんだね。相手の魂を求める事が」

「そうよ。分かっているじゃない。好きな相手に魂を捧げてもらうのは夢よね」

「サラッと凄い事を言うんだね。好きな相手の魂を奪う……一体どれだけの代償だいしょうを背負う覚悟なの?」

「人生の全てよ! それだけの物をかける事でしょ?」

「私には言えないなぁ。そんなに堂々と己の願望を口に出来るのは普通じゃないよ。周りの人から冷たい目で見られるかもしれないんだよ」

「そんな事は気にしない! 私は私の幸せの為に生きてるんだから!」

「馬の人って呼んでごめんなさい詩音さん」

「気にしなくてよいわよ燐火りんかちゃん」


 何故か勘違いしたまま二人が意気投合してしまった……

 僕はこのまま黙っていて良いのだろうか?


「ねぇ、詩音さん。儀式ぎしきはいつの予定?」

「式? やだぁ。式の話は早いわよ。まだ相手も決まっていないのに」

「詩音さんはどういう相手を探しているの」

「家持の男ね。一軒家を持った男が良いわね」

「一軒家を持った男!! 人間に巨人族と同じ腕力を求めるなんて、詩音さんは夢があるね」

「夢ならまだまだあるわよ。年収も高い方が良いな」

念修ねんしゅうが高い相手……高い念能力を修得した相手の魂を捧げるのか……なんて邪悪なんだ。ところで、詩音さんはネクロマンサー死霊使い悪魔崇拝者あくますうはいしゃのどちらですか?」

「何なのよソレ! どうして婚活の話でネクロマンサー死霊使い悪魔崇拝者あくますうはいしゃが出てくるのよ!」


 詩音さんが声を荒げた。

 ついに話がみ合わなくなったか……仕方がないなぁ。


「詩音さん、燐火りんかちゃんは本当に魂を奪うのだと勘違いしてますよ」

「なんで本当に魂を奪うのよ! 私を悪魔だと思っていたの? 比喩に決まっているでしょ!」


 詩音さん、その通りですよ。

 喫茶店での出来事で悪女だと思われているから、悪魔と思われても当然の事でしょ!

 う~ん、どうしよう。

 別に詩音さんと険悪なまま別れても困らないのだけど、立ち去り辛いな……


「あらあら、何をしてるのかしら?」


 振り返ると、オハコを肩に乗せたしず子さんがいた。


「ゲッ、癒羅ゆら先輩! 私は世間話をしていただけだから! だよね?」


 詩音さんが燐火りんかちゃんに助けを求めた。


「本当に世間話だったよ。魂を渇望かつぼうするって話題を世間話として言えるのは詩音さんにしか出来ない事だよね」

「詩音、どういう事?」

「私は悪くない!」


 詩音さんが走り去った。


「待て」


 しず子さんが野太い声で言った後、詩音さんを追いかけて走った。

 怖い……あれが番長モードのしず子さん……

 オハコが選んだ紅鳶べにとび町最強の女の迫力はすごかった。


「どうだ、ビビったか? 俺様が選んだしず子は最強だからな!」


 しず子さんに置いていかれたオハコが自慢げに言った。

 詩音さんは何で出て来たんだろうな……

 まぁ、毎回敵の行動が意味不明なのは、いつも通りなんだけどね!

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