第28話 四天王サウンド

 喫茶店での休憩を終えた後、増子さんが家まで送ってれる事になった。

 増子さんと一緒に歩いていると、商店街のメイン通りで違和感を感じた?

 なんだろう?

 何故か子供達が大勢集まっている。

 普段は子供達が集まる様な商店街ではないんだけどなぁ……呪具が置いてある禍々まがまがしい店があるくらいだし!

 理由が気になって人だかりの中心を見ると、が風船を配っていた。

 なぁ~んだ。

 風船配っているだけか!

 僕達は人だかりを避けて歩いた。

 最年少の燐火りんかちゃんを含めて、風船が欲しい仲間はいないからね。


「待ちわびたぞ魔法少女!」


 風船男に声をかけられた。


「あっ、四天王最弱のだ!」

燐火りんかちゃん違うよ。バロンシーだと海男爵うみだんしゃくになっちゃうよ。サインもらったんだから間違えないでよ。ケチョンシーだから! ケチョンシー!!」

「ケチョンシーじゃなくて、バルンシーだ! 四天王最弱だからって馬鹿にするなー!」


 バルンシーが怒っていらっしゃるようだ。

 曖昧あいまいな言い方をしているのは、怒っている様に見えないからだ。

 まん丸な風船で出来たお顔を膨らませて、左右にぴょんぴょん跳ねているんだよ。

 ウサギ扱いされる僕も顔負けの跳ねっぷりだよ!


「この子達に何の用かな? プレナ、燐火りんかちゃん達と一緒に下がっていて!」

「俺っちは寝てるから適当に頑張れよ~」


 プレナが逃げた後、増子さんが戦闘態勢を取った。

 そうだった、増子さんは四天王の事を知らなかった。

 知らない人が見たら、風船の着ぐるみを着た変質者に声をかけれらた様にしか見えない。

 実は仲良しで、前にサインまで書いてもらった相手とは言いづらい。


「自分の目的は、その少女が持っている賢者の石を渡してもらう事だ。傷つけるつもりはない。それは人の世にあって良い物ではない」


 賢者の石?

 この四天王最弱さん、サラッと魔王より重要な事を言ったよね?

 賢者の石って言ったら、鉛とかを金に変える力を持っていたり、燐火りんかちゃんのミニクサーではない、本物のエリクサーであるとの解釈もある幻の秘宝。

 そんな物を燐火りんかちゃんが手に入れられる可能性があるとしたら……百怨ひゃくえんショップだけだ。

 僕が燐火りんかちゃんにあげた変身ブローチの中心に、纏蝶てんちょうさんが取り付けた赤い石の事だろう。

 燐火りんかちゃんが目指していたのは炎の大魔導士だから、深紅のルビーなどの炎に所縁ゆかりのある宝石だと思っていた。

 でも、アレが賢者の石なら、燐火りんかちゃんの魔法の威力の高さも納得だ。

 存在その物を滅する神の炎。

 いくら子供の夢や願望の力が強くても、簡単に再現出来る物ではない。

 そうだったのか……僕の尻の毛で手に入れたアレがね……

 僕は感慨かんがい深くない事を思い出してしまった。


「小学生からカツアゲするなんて……なんて悪党なんだ! 許さんぞ! バルンシー!!」

「許さないのはこちらだ! カツアゲではない! 自分は譲ってくれと言っているだけ! 世界の未来をかけた物乞ものごいだ!!」


 それでいいのかバルンシー?!

 言ってることは間違ってはいないけどさ!

 何故か四天王戦を始めてしまった増子さんとバルンシーが、周りに迷惑をかけない様に戦いの場を河原に移した。

 デデン、デデデン、デュルルルル~ン!

 突然、壮大な音楽が流れ始めた。


「来たよ! テプちゃん! 四天王サウンド!」

「へっ、四天王サウンド?」

「知らないのテプちゃん。四天王戦はね、特別な戦闘曲が流れるの。通常戦闘曲のアレンジが多いんだけど、名曲ぞろいなんだよ!」


 ふ~ん、そうなんだ。

 随分臨場感があるオーケストラだな……あっ、そこで演奏してたのね。

 知らない内に僕達の背後に現れたバルンシーの分身が演奏していた。

 最弱なのに無駄に豪華だな……


「行くぞバルンシー! 正々堂々勝負だ!!」

「来いっ魔法少女! 一騎打ちだ!!」


 増子さんがジャブでけん制しながらバルンシーとの距離を測っている。

 バルンシーの攻撃は大味だが、増子さんよりリーチがある。

 手に汗握る格闘戦……こんなの魔族と魔法少女の戦いじゃない!


「ふっ」


 増子さんが下がったので、バルンシーが距離を詰めようと踏み込んだが……

 バゴッ!

 増子さんの蹴りがバルンシーのあごを捕らえた。

 倒れるかと思ったが、バルンシーが堪えた。


「なかなかやるじゃないか! 蹴りで不意打ちしたのにさ!」

「まだだ! まだ終わっていない!!」

「いや、終わったよ。そのダメージでは形勢を逆転させる事は不可能!」

「終わっていないさ! 第一楽章がな!!」

「曲を聞かせたいなら……コンサート会場でやれよ!!」

「一曲だけじゃ出来ないんだよ! おぁあああっ!」


 増子さんのボディーブローがバルンシーの肝臓の位置を撃ち抜いた。

 崩れ落ちるバルンシー。


「どうやら自分の負けの様だな」

「何で魔法を使わなかった?」

「言っただろ……一騎打ちだと……やれやれ、お前のせいで使命を果たせなかったよっ」

「そろそろ来るよ! 決め台詞!!」


 燐火りんかちゃんが叫んだ。

 そんなの僕だって分かっているけどさ、ネタバレされて台無しだよ……

 バルンシーが悲しそうに見える。


「自分は四天王最弱。自分を倒したくらいでいい気になるな!」

「出たあああああっ!!」


 大興奮の燐火りんかちゃんの目の前で、バルンシーの分身が本体を担いで去っていった。

 何かカッコつけてたけどさ、分身に演奏させてたから魔法が使えなかったんだよね?

 敵も排除されたし、今度こそ燐火りんかちゃんと一緒に帰宅しよう!

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